佐渡島を愛するがゆえの「継承」
佐渡に暮らして6年目となるナタリーさん。島のどんなところに魅力を感じているのでしょうか?
「佐渡のダイナミックな自然やお寺など、大好きな場所がいくつもあって。訪れるたびに『佐渡っていいな』と思いますね。あとは島民のみなさんに刺激を受けることがたくさんあります」


先ほど話に出た〈宿根木のたらい舟〉の運営者との出会いも、とても印象的だったというナタリーさん。
「運営者自ら、たらい舟をゼロからつくっているんです。それも接着剤などの人工物は一切使わず、杉と竹だけで! その制作する様子を何度も見てきましたが、本当にすごい……といつも感動するんです」
ここで感じた驚きは、来日する人々の心にも深く響くはず――。宿根木のたらい舟体験は、ナタリーさんが海外からの客をアテンドする際に必ず立ち寄るスポットのひとつになったといいます。

たらい舟だけでなく、佐渡ではその仕事や活動に携わる人が道具などの制作を行うことも多々。例えば、佐渡の伝統行事「鬼太鼓(おんでこ)」。その祭りに欠かせない“鬼面”は、近年は島外の業者に制作や修理を依頼することも増えたようですが、今でも島民自ら手がけることもあるのだそう。

以前、鬼太鼓をはじめとした佐渡文化をPRするツアーへ同行したナタリーさんは、とある集落で鬼面を制作する農家に出会います。
「その方の話によると、鬼面や獅子頭が壊れたとき、島外の業者に修理を依頼すると、戻ってきた面はどこか“佐渡らしさ”が欠けてしまっていることが多いというんです。だから自分で彫るんだ、っておっしゃっていて」

農家の話に感銘を受け、自身も鬼面を彫ってみたくなったナタリーさん。以前見かけて印象的だった鬼太鼓の面を手本にしたいと、持ち主を探し出します。交渉してみると、快く鬼面を貸してくれることに。
「ダメもとで相談したので、びっくりしました! 本来祭りで使う面には魂入れがされ、神さまが宿っているので、外部の人に簡単に貸し出すことはないんです。でも、私が強い興味を持っていることを喜んでくださって、特別に貸してもらえることになりました」
そして、先の農家の協力を得て、鬼面制作をスタート。桐のブロック材を地道に削り進め、「彫り過ぎて、もう収拾つかないかも⁉」という瞬間もたびたびあったそう。そんなときは1~2か月ほど作業を中断し、新たな気持ちで面に向き合い、2年ほどかけて形を整えてきました。


じつは最近、その農家と久しぶりに顔を合わすタイミングがあったというナタリーさん。
「その方は今、石川県能登を訪ねたりしながら、漆や面づくりに関する知識や技術を学んでいると話してくれました。今の工房は彫りはできても、漆塗りや特殊な作業ができる場所はないので、専門的な技術を学びつつ、面づくりのすべてができる場所をつくろうとしているようです」
たらい舟も、鬼面も、昔は当たり前のように島民が手がけ、その技法は連綿と島内や集落で受け継がれてきました。ものづくりに限らず、農民の芸能として生活のなかに根を下ろす佐渡能楽や鬼太鼓も、先輩から代々と教えを請い、練習を重ね、今に受け継がれてきたものです。
継承すること。それは、誰かに依頼されたからというよりも、その土地を愛するがゆえに、各々が自ら引き受けた責任や使命のようなもの、といえるかもしれません。
ドイツ生まれのナタリーさんも、そうした島民たちとの交流のなかで、なにかを引き受けようとする思いが芽生え始めているのかもしれない――ナタリーさんと話をしていると、そんな思いがしてきます。


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大太鼓の心地よさ 】

