沈む気持ちを払拭してくれた、
大太鼓の心地よさ
今から3年ほど前、ナタリーさんに大きな転機が訪れます。それは「和太鼓」との出合い。
フィルムコミッションの仕事で、フランス人YouTuberと〈鼓童〉の撮影に同行したときのこと。古刹「蓮華峰寺(れんげぶじ)」での撮影の合間、和太鼓未経験だったナタリーさんも叩かせてもらえることとなり、神聖な参道に設置された大太鼓に、大きなバチを振り下ろしました。
「その頃の私は長く気持ちが沈んでいて。でもその瞬間、これまで感じたことのないような轟きと振動が体中に染みわたったんです。太鼓とバチから伝わる不思議な心地よさに、ただただ驚きました」
まるでワークアウトのように全身を使って打つ動きと、ずしりと響いてくる太鼓の音に、いつしか元気を取り戻していたと、ナタリーさんはその日のことを振り返ります。

以降、その体験が忘れられず、仕事を通じて知り合った〈鼓童〉のメンバー・宮崎正美さんに相談。毎週末、和太鼓のレッスンを受けることになりました。
しばらくするとレッスン参加者が増えていき、〈佐渡太鼓倶楽部〉というチームを結成することに。
「いつしかみんなでオリジナルの曲をつくるようになったり、『小木港祭り』での演奏や、クルーズ船を見送る『送り太鼓』を披露するようになったり。私の生活において和太鼓はとても大切なものとなり、日常になっていきました」


そうした太鼓との関わりのなかで、今後は自分に合ったバチづくりにもチャレンジしたいというナタリーさん。
「太鼓といってもいろんなサイズ、スタイル、叩き方があって。大太鼓は立って叩くので長くて太いバチが必要です。さらに、横に叩くもの、開脚して大変な姿勢で叩くものと、それぞれに適したバチがあるんです。私が叩きたい太鼓に合わせたバチを自作したいと思っています」

自分が“耕された”、佐渡での暮らし
2025年4月、ナタリーさんは長年勤めた〈佐渡観光交流機構〉を退職。そして転職した先は、あの〈鼓童〉でした。
「前職で〈鼓童〉には何度もお世話になったんですが、みなさん本当にすてきな人ばかり。そのような人たちに囲まれることで、より成長できるんじゃないかと感じました。それに、私自身が太鼓に癒され、叩くたびに元気をもらえる。さらに、鼓童の演奏を見た人の喜びや笑顔に触れると、思わず自分も笑みがこぼれるんです。〈鼓童〉の活動は、世界中に元気を届ける力があります」
踊りのなかに鬼太鼓や佐渡の文化からインスピレーションを得た動きもあるという〈鼓童〉のパフォーマンス。2026年には欧州ツアーが予定されており、そうした音楽や踊りを通じて、佐渡の魅力を海外へも発信していきたいといいます。

仕事や太鼓を通じて友人や仲間が増えた今。近隣のスーパーに行けば、顔見知りとばったり会い、他愛もない話をして「じゃあまたね」と別れる、そんな島民との良好な関係も築いてきました。
「この島でたくさんの人と出会い、さまざまな経験をして、多くの気づきを得て。私自身が“耕され”ました。……“耕す”という言葉は、鼓童のメンバーが使っていた言葉なんですけど、すごく気に入っているんです」と、佐渡での暮らしを楽しんでいるようです。

北前船の経由地としてさまざまな物品が流れ込み、はたまた貴族や武士の流刑地だったことから多様な文化が持ち込まれた佐渡。歴史的に見ても、あらゆるものを受容し、それらを育んでいく懐の深さがあります。
ナタリーさんをはじめとした海外からの移住者をすんなりと受け入れる柔軟さは、そんな土壌があるがゆえ。それも佐渡の大きな魅力といえるのではないでしょうか。今後も新たなヒト・モノ・コトが流れ着き、ユニークな文化が育まれていくかもしれません。
Profile Natalie Hommel(ナタリー・ホンメル)
ドイツ生まれ。ベルリンの大学で日本学を専攻。2019年に大学卒業し、語学能力向上を求めて日本でのワーキングホリデーを決心。佐渡にわたり、仕事をしながら島のことを深く知り、地域に浸透している文化に関心を持つ。COVIDのロックダウンの影響で予定通りに帰国できず、好きになった佐渡に残ることに。現在は佐渡の文化に“内側”から関わる。
credit text:林貴代子 画像提供:Natalie Hommel


