人気商品の裏側のお話
藤岡染工場を代表する商品、遊び心あるデザインの〈新潟手ぬぐい〉。実はこのシリーズ、野﨑さんの母校である長岡造形大学の学生との共同制作なのです。
「学生がデザインしたものを工房で染めて1年間販売し、売り上げからデザイン料を学生に支払うシステムになっているんです。学生は自分で手がけた作品を世に出せますし、私たちも、新潟をアピールすることができます」
さらに、年間で特に人気の高かった絵柄は藤岡染工場で買い取り、定番柄に採用。この取り組みは、今年で12年目を迎え、いまやデザインの種類は40以上!
長岡花火、ル レクチエ(洋ナシ)、へぎそば、さらには除雪車や縄文土器など、学生たちの柔軟な発想による、新潟ならではのモチーフを用いた斬新なデザインには脱帽! また、各デザインにはそれぞれストーリーがあり、それらを知るとなおさら親しみが湧いてきます。
売り上げがいまひとつだった柄は、1年のみで販売終了。なかなか厳しい現実が、逆に学生の士気をあげ、ものづくりの難しさ、楽しさを学ぶ、いい機会になっているそうです。
「学生は売れるかどうかハラハラしているみたいです(笑)。でもおかげさまで、学生デザインの手ぬぐいがすごく人気で、それらをつくるのでいっぱい、いっぱい。うちオリジナルの手ぬぐいをつくる暇がないくらいです」
手ぬぐい制作を経験し、染物に惹かれ、そのまま藤岡染工場に就職した学生もいるそう。また、毎年発売している干支の手ぬぐいのデザインは、工場の職人が持ち寄った案を社内コンペで決定。
「みんなデザインを学んできているので、絵心があるんです。自分がデザインしたものがかたちになるっていうのは、やっぱりうれしいですよね。私は今年のコンペも負けてしまいました(笑)」
「いいデザインができたら持ってきて」と従業員にも積極的にデザインを担当させる野﨑さん。経験させてこそ、伝統は継承され、いい製品ができあがる。そんな親心や、伝統を後世に伝えていく責任を、野﨑さんのやさしげな目に感じます。
地域に密着した取り組みや、イベントも企画
毎年、瓢湖で開催される「桜まつり」や「あやめまつり」。このイベントにあわせ、地域を盛り上げようと「幸せのさくらハンカチ」と「幸せのあやめハンカチ」というプロジェクトを企画した藤岡染工場。
桜のピンクや、あやめの紫と黄色に染められたハンカチに願いごとを書き、瓢湖の畔に吊るせば、鮮やかなハンカチが空にひるがえります。
ハンカチはあらかじめ、近くの由緒ある「旦飯野(あさいいの)神社」でお祓いされ、願いごとが書かれたハンカチは、花のシーズンが終わると再び旦飯野神社に奉納され、お焚き上げが行われます。
このプロジェクトは、鳥インフルエンザが流行した翌年、観光客が減った瓢湖を活気づけようと、藤岡染工場の社長が提案されたのだそうです。
若手職人と一緒に守っていく、藤岡染工場の伝統技術
家業に携わり14年。一緒に働く職人の腕も上達し、任せられる仕事が多くなったことから、徐々に野﨑さんが直接お客さんとやりとりし、企画、提案、デザインをこなすことも増えてきたそう。旦飯野神社の改修工事の竣工記念の際には、手ぬぐいのデザインを手がけました。
「石段を登るのが少し大変なんですが、それが地元では親しまれている神社なんです。ご依頼をいただいて、階段と鳥居をモチーフにしたデザインを提案したところ、『これはまさにウチの神社!』と、すごく喜んでいただけました」
糸染屋としてスタートし、地域の人々に親しまれる染物屋から、いまでは新潟を飛び越えて、多くの人に愛用されるブランドとなった越後亀紺屋。「染物をもっと身近に」という思いのもと、染色の技術と日本が誇る染物文化を、現代の暮らしに定着させていくために、藤岡染工場では今日も若き職人たちがひたむきに染物作業に励んでいます。
「職人の募集をかけると、染物に興味を持つ若い方がたくさん応募してくれます。そういう方をもっと取り込んでいきたいですね。伝統は伝統で守っていくけれど、染物のよさをもっと発信してけるような会社にしていきたいです」
Information
Profile 野﨑あゆみ
新潟県阿賀野市生まれ。〈越後亀紺屋 藤岡染工場〉の次女として生まれる。長岡造形大学で産業デザイン学科を専攻。2006年の第80回『国展』初入選以来、これまでに8回入選。卒業後は家業である亀紺屋に就職し、染物職人として活動中。
credit text:林貴代子 photo:水野昭子