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北欧発祥の野外幼児教育。大自然の中で過ごす
〈森のこども園 てくてく〉ってどんなところ? | Page 3

2023.10.4

3年間を通じ、子どものペースに合わせて
成長を見守る

展望台に登った女の子たち

小菅さんが「森のようちえん」の存在を知ったのは約20年前。恩師と慕う、自身の保育園の先生に、1冊の本を紹介されたことがきっかけでした。

「もともと小学校の講師をしていたのですが、馬を飼っていたある小学校から馬を引き取ったことがターニングポイントになりました。キャンプ場運営をしながら馬を育て、週末に子どもたちとキャンプ活動を始めたところ、自然体験が子どもたちの心を動かし、学びを深めることを実感したんです。知識があっても、実体験で“知る”のとは全然違う。キャンプでの非日常が、暮らしの日常とうまくつながっていけばいいのに……と思うようになりました。そんなとき、恩師から紹介された『さぁ 森のようちえんへ』というデンマークの幼児保育を紹介している本に衝撃を受けました。森での暮らしが日常にあり、そこで子どもたちが育っていることに、とても感動したんです」

すぐにデンマークとスウェーデンに行き、約2か月間、森のようちえんに住み込みで学ばせてもらったという小菅さん。地元・上越で「てくてくの森」を貸してくれる方に出会い、「一緒につくっていきたい」という保護者からの声に後押しされてきたと話します。

「県外から『この園で働きたい』と移住してくる、バイタリティ溢れる仲間にも恵まれました。ここが日本の公立幼稚園として認知されるまで続けていこう、と使命感のような思いがあったので、認定こども園になったことは、本当にうれしい出来事なんです」

先生に抱っこされる男の子
アウトドア活動を専門で学んだ先生、青年海外協力隊で活躍していた先生など、働く職員のバックグラウンドもさまざま。

〈森のこども園 てくてく〉には、保育参観の日はありません。変わりに「お母さんサポーター」「お父さんサポーター」が当番のシフト制で終日、職員と一緒に子どもたちを見守り、活動をともにしています。

「保育を園だけが担うのではく、保護者のみなさんと一緒に育てていきたい。サービスの受け手と提供側との壁をなくしていきたいと考えています。サポーターに入った保護者の方は、子どもたちみんなを知る機会があるので、性格、特性やバックグラウンドの理解も進みます。例えば子ども同士がけんかをしても、『あの子は普段は穏やかな性格だから、今日だけ何かがあったのかもしれない』などと気づきがあるかもしれない。保護者同士の関係も築きやすく、認め合いやすくなると思っています」

保護者同士の横のつながりは、園を利用する親御さんも実感しています。
ふたりの子どもを園に通わせてきたという上越市在住の保護者は、「お互いの事情をわかり合える関係性に、子育てで落ち込んだときに何度も助けられた」と話します。

みんなで木登りに挑戦中
2歳から入園できる認可外保育施設「森のおうち園てくてく りす組」もあり、年上の子どもたちと一緒になって遊びます。

「夫の実家が上越にあり、結婚を機にこちらに引っ越してきました。稲刈りや田植えなど、大人も体を動かす機会が多くて大変ですが(笑)、子育てや生活のなかで嫌なことがあっても、笑い飛ばして話せる仲間ができた。貴重な出会いでした」

この方のように、Iターン、Uターンで移住してきたケースは少なくありません。年長の息子を園に通わせている保護者は、「ずっと東京に住んでいたけれど、子育てを機に地元・新潟にUターンした」といいます。

「都心に子どもを森で育てる幼稚園はなく、最初は自然環境に惹かれて年2回の体験プログラムに参加しました。すると、散歩に行くときに、後ろのほうでゆっくり歩いている子がいても、先生たちはゆっくり待っていてくれた。『早くしなさい』『急いで』などと一切言わないんです。個々のペースを大事にしている姿勢に、この先生たちに育ててほしいと思いました。家では、『僕はこう思うけど、お母さんはどう思う?』と聞いてきたり、自然の中で危険なものを教えてくれたりと、さまざまな成長が見られます」

手にトカゲをのせた男の子

〈森のこども園 てくてく〉では共同担任制を設け、4人の職員が年少児・年中児・年長児の3年間を見守ります。3年の長いスパンを担任でいられるからこそ、個人のペースや成長のタイミングを大事に、急がせることなく見守ることができるのでしょう。

この日、トカゲをつかまえてうれしそうにしていた男の子は、3日前の5歳の誕生日に、「トカゲをつかまえられるようになりたい!」と宣言していたといいます。
「もう夢が叶ったよ!」と大声で先生たちに伝えると、子どもも大人もみんなが一緒になって喜んでいました。

Information

森の子ども園 てくてく

web:森の子ども園 てくてく

credit | text:田中瑠子 photo:やまひらく

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