打ち揚げ手法も進化中! プログラム制御で音楽に合わせる演出
この日は、翌日にイベントを控え、敷地内の一角で筒に玉を詰める装填(そうてん)作業が行われていました。
「花火大会は、新潟のものに限らず、よく見ます。珍しい花火を見かけたら『どうやってつくっているのかな?』と考えて、実際に試作してみることも。色味や形、音などでオリジナリティを出しながら新作を開発することもあります。最近だと、バリバリと珍しい音が出る花火をつくりました!」
そう話す星さんがこのとき装填していたのは、音楽に合わせて打ち揚げる「ミュージックスターマイン」の花火です。
「明日は3分間で4000発を打ち揚げるのですが、タイミングをプログラミングで制御しているので、安全に、狂いなく打ち揚げられるんですよ。ちなみに、そのプログラムを組んだのが瀬沼社長です」と星さん。
えっ! 瀬沼さん、そんなことまで?
「もともと大学で建築学を学び、車の渋滞対策の一環として海外のソフトでプログラムを組んだことがありました。ミュージックスターマインは、その仕組みを応用したんです。みんながつくってくれた花火をどんなふうに打ち揚げるか。どう表現すれば最高のものになるかをずっと考えているんです」
例えば、ボン・ジョヴィの『It’s My Life(イッツ・マイ・ライフ)』のように、誰もが知っている曲に合わせたら、もっと楽しいものになるんじゃない? そう思ったのが、ミュージックスターマインに取り組んだきっかけだったと瀬沼さんは振り返ります。
昔ながらの伝統を守り続ける匠は、最新機器を使いこなして演出を手がけるプロデューサーでもありました。
匠の手“共通”インタビュー
「至極の作品は、誰に一番に見せたい?」
この先、自分でも納得がいくような最高の作品ができたとしたら。一番に報告したいと思う人には、きっと匠にとって特別な“なにか”があるはず。瀬沼さんからは、こんな答えが。
「師匠である3代目の義父、瀬沼忠雄です。どこの馬の骨かもわからない僕に技術を教え、仕事を任せてくれた。職人として、素直であることの大切さについても教えてくれました」
その言葉を、花火師になって30年がたった今でもかみしめると瀬沼さんはいいます。
「打ち揚げ花火は、手をかければかけた分、ちゃんと揚がってくれます。安全に、慎重に、純粋に、細かいディテールをたくさん積み重ねることがクオリティに結びつく。いい職人とは、まさに素直な職人のこと。どれだけ花火が好きか。自分のエゴではなく、お客さんが求めるものを、どれだけがんばってつくったか。どれだけ小さなディテールを重ね、どれだけ熱量を込めたか。それが伝わってくるから、胸が震える。見る人の心を打つのだと思います」
力を合わせてつくった花火を、見る人にいかに伝えていくか。一流の花火師集団として、日本一の打ち揚げ花火を目指す瀬沼さんたちは、今日も神経を研ぎ澄ましながら手を動かし続けます。
〈小千谷煙火興業〉の打ち揚げ花火が見られる花火大会
長岡まつり大花火大会
Profile 瀬沼輝明(せぬまてるあき)さん
〈小千谷煙火興業〉代表取締役・花火師。石川県に生まれ、結婚で妻の家業を継いだ4代目。「長岡まつり大花火大会」をはじめ、数々の花火大火を手掛ける。
Information
credit text:矢口あやは photo:やまひらく