新潟のつかいかた

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〈越後妻有 大地の芸術祭 2022〉前編
初めての人にもおすすめ!
見どころ&必見の代表作を紹介 Posted | 2022/08/19

新潟県十日町市と津南町を合わせた越後妻有(つまり)地域で、里山の自然とアート巡りが楽しめる〈大地の芸術祭〉。今回で8回目となる〈越後妻有 大地の芸術祭 2022〉が11月13日までの長期にわたり開催中です。7月30日からは、新作123点を含む計333点がすべて公開となりました。

新作では13の国と地域から95組のアーティストが参加。コロナ禍で1年延期されたため、2021年制作の先行公開作品も新作として一挙公開されています。

今回は、膨大な作品のなかから、初めて大地の芸術祭を訪れる方にぜひ見てほしい必見の作品をご紹介。名前も新たに生まれ変わった芸術祭の拠点〈越後妻有里山現代美術館 MonET(モネ)〉と、〈まつだい雪国農耕文化センター「農舞台」〉の2拠点を中心として、210点ある常設作品のうち代表作を併せて紹介します。

注目の現代美術が結集した〈越後妻有里山現代美術館 MonET〉

大地の芸術祭では、越後妻有地域を6つのエリア「十日町」「川西」「中里」「松代」「松之山」「津南」に分け、さまざまな集落にアート作品が点在しています。そのなかで最も広い十日町エリアのランドマーク〈越後妻有里山現代美術館 MonET(モネ)〉(以下、MonET)から紹介しましょう。

MonETは、〈越後妻有里山現代美術館[キナーレ]〉を改装し、常設作品の多くを入れ替え、2021年にリニューアルオープンした美術館です。温泉〈明石の湯〉もある十日町の複合施設〈越後妻有交流館 キナーレ〉内にあります。

まずは、中央の吹き抜け空間に出現する、中谷芙二子の霧の彫刻『霧神楽』を体験。7月30日から公開となった新作です。刻々と変化する霧の中に入ることもできます。水面に空と建物が反射するだまし絵のような仕掛けのある、レアンドロ・エルリッヒ『Palimpsest:空の池』(2018年作)との共演ともいえます。

中谷芙二子の作品『霧神楽』
霧が走り抜け、立ち昇る。中谷芙二子『霧神楽』2022年 9月4日まで。

8月12日~14日には、この『霧神楽』を舞台とする舞踏家の田中泯による「場踊り」も行われました。

続いてMonETの外壁に誕生したのは、淺井裕介のウォールドローイング『physis』。北越急行ほくほく線の車内からも見えます。

淺井裕介のウォールドローイング『physis』
淺井裕介『physis』2022年 約70メートル×10メートルの大型壁画。(写真提供:大地の芸術祭実行委員会 photo:Kioku Keizo)

万物の循環の源である「水」をテーマとして、自然について根源から考えるような作品。
「主役は小さなものたち。小さなものが集まって大きな絵になるように制作したかった。そのため、小さな作品を描くときと同じように面相筆で描き進めました」と語る淺井さん。のべ約300人が制作に参加した大作です。

折も折、混迷する世界情勢をくぐり抜けて届いた作品も加わりました。ウクライナの作家ジャンナ・カディロワは、2022年3月、ロシアの侵攻により戦火のキエフから国境沿いの山間の村まで避難。気力を失いながらも、目に止まった河原の石で制作したパンのオブジェが展示されています。

ジャンナ・カディロワの、河原の石で制作したパンのオブジェ『パリャヌィツャ』
ジャンナ・カディロワ『パリャヌィツャ』2022年

「パリャヌィツャ」とはウクライナ語で丸パンの意。ウクライナ語を母語としない者には発音しにくいため、偵察者かどうかを見分ける単語でもある一方、パンは幸福や生命、平穏な生活の象徴でもある。そんな複雑な心境や祈りが込められた作品です。

さらにロシアを代表する作家エカテリーナ・ムロムツェワの個展が急遽追加され、8月22日まで日本でいち早く開催されています。

エカテリーナ・ムロムツェワ『Women in black/戦争に反対して黒衣を着る女性たち』
エカテリーナ・ムロムツェワ『Women in black/戦争に反対して黒衣を着る女性たち』2022年

戦争に異を唱え、現在はニューヨークに滞在している彼女。『Women in black/戦争に反対して黒衣を着る女性たち』と題した本展では、黒い服を着て白い花を持ち、ウクライナ侵攻に抗議する女性たちに捧げた『Women in black』シリーズを展示しています。

ほかに、2021年の先行公開作品ではフランスの作家ニコラ・ダロの『エアリアル』がユニークです。発想は、シェイクスピアの戯曲『テンペスト』に登場する大気の精霊「エアリアル」から。パラシュート布でつくられたふたつの機械仕掛けの吊り人形が動き、台座の上のドラムセクションがリズムを奏でます。

ニコラ・ダロ『エアリアル』
ニコラ・ダロ『エアリアル』2021年

中谷ミチコの彫刻作品『遠方の声』は、第7回の芸術祭で聞き取りをした際に、地域の人々が語る昔話や思い出が雪原に投影されているように感じてつくられたそうです。角度を変えて眺めると、表情が変わるように見えます。

中谷ミチコ『遠方の声』
中谷ミチコ『遠方の声』2021年
イリヤ&エミリア・カバコフの作品『16本のロープ』
イリヤ&エミリア・カバコフ『16本のロープ』2021年 16本のロープにさまざまなゴミとともに人々の会話が書かれた紙が吊るされている。人々の営みが想像される作品。

なお、4月に損壊のため公開中止となったインスタレーション『LOST#6』の作者、クワクボリョウタによる特別展示『エントロピア』が9月4日まで開催中。『LOST#6』は9月8日から再公開となります。

MonETのすぐ近くの建物にも作品が。富田紀子の『琴線』は、十日町が織物産業で栄えていた記憶を呼び起こしました。かつての撚糸工場に放置されていた古い木工織機を再び稼働させたのです。

富田紀子の作品『琴線』
富田紀子『琴線』2022年

「夕方に見ると、光に当たった縦糸がオレンジ色に輝いて美しい」という富田さん。工場の取り壊しまでの8月28日までの展示となります。

かつての撚糸工場内で古い木工織機を再び稼働させた
イリヤ&エミリア・カバコフ『手をたずさえる塔』2021年

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〈農舞台〉周辺の見どころ


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