『カバコフの夢』プロジェクトも展開。〈まつだい雪国農耕文化センター「農舞台」〉
次に、ほくほく線まつだい駅そばにある〈まつだい雪国農耕文化センター「農舞台」〉を紹介します。アートや「食」などとともに松代の雪国農耕文化に触れられる施設。背景に広がる里山にもアート作品が点在する「フィールドミュージアム」となっています。
農舞台の館内外では、第1回から芸術祭と深い関わりを持つイリヤ&エミリア・カバコフに焦点を当て、旧作2点、新作7点からなる『カバコフの夢』プロジェクトが展開されています(1点のみMonETに展示)。
イリヤとエミリアは、旧ソ連時代のドニエプロペトロフスク(現ウクライナ・ドニプロ市)の出身で、現在はニューヨークで暮らしています。『手をたずさえる塔』は、人々が民族・宗教・文化の違いを超えてつながる、対話や平和、共生の象徴として2021年に設置されました。
塔上のモニュメントは日没後に点灯し、現在は、ロシアによるウクライナ侵攻に胸を痛めるカバコフの依頼で、悲しみを表す青と、希望を表す黄色を交互に灯しています。今後の色彩は情勢によって変わるかもしれないといいます。
農舞台の館内には4つのプロジェクト作品が展示されています。そのうち『10のアルバム 迷宮』では、旧ソ連時代の1970~74年に制作された、10人の夢想家を主人公とする物語とドローイングが描かれたアルバムが並んでいます。表現の規制の下で、寓話のかたちを借りながら制作し続けたカバコフの人生をも想起させる作品。
そして、野外の旧作『棚田』と『人生のアーチ』もやはり名作。
第1回の芸術祭で制作された『棚田』は、カバコフと妻有の交流の原点。伝統的な農法で作業する人々の姿をかたどった彫刻が設置されています。農舞台の展望台から、手前に設置されたテキストを重ねるように鑑賞すると、さらに理解が深まります。
『人生のアーチ』では、誕生から死までを象徴した5体の像が並んでいます。いずれも広大な野山を背景として、静かに思い巡らす時間を与えてくれます。
また、農舞台の外構にある東弘一郎の『廻転する不在』は、乗らなくなった自転車を集めて新しい命を吹き込んだ作品。実際に乗ってみると、田中信太郎の彫刻『○△□の塔と赤とんぼ』を中心に里山が一望できます。
ひとしきりアートを体験したら、館内の〈越後まつだい里山食堂〉でひと休み。周囲の景色を映し出す、空間全体がジャン・リュック=ヴィルムートの作品『カフェ・ルフレ』にもなっています。