ボルタンスキーの遺作も。自然とともに暮らす人々【松之山・中里・津南】
今年で22年を数える芸術祭を振り返ると、惜しくも2021年7月に急逝したクリスチャン・ボルタンスキーの存在が思い出されます。2000年の第1回の芸術祭から妻有の人々の温かさに触れ、地域に眠る「記憶」を浮かび上がらせてきました。
そのボルタンスキーの遺作が、〈十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ〉周辺に展示されています。この集落に住む人々を撮影した写真を引き伸ばし、布にプリントして林の中に設置した『森の精』。昨年開催予定の芸術祭に向けて考えていたプランを、遺族の許可などを得て実現しました。
藤堂は、大地の芸術祭に初参加となる集落「黒倉」で、昭和の気配が色濃く残る空き家を変容させました。雪が降り積もったかのような「雪の間」、木箱を組み合わせた「木箱の間」など、ひと部屋ずつ質感の異なる空間にし、この家を『パレス黒倉』と名づけました。
「木の柱や石の間に積み重ねた板ガラスを通して、時の積層を感じてほしい」と藤堂。2階からの眺めも楽しめます。
中里にある旧清津峡小学校の体育館を再生した〈磯辺行久記念 越後妻有清津倉庫美術館[SoKo]〉。そのすぐ隣の使われなくなったプールが、ニューヨーク、ロサンゼルス、ベルリンを拠点とするユニット〈joylabo(ジョイラボ)〉の手で、テクノロジーを用いたインタラクティブなアート空間に変貌を遂げています。
プールに下りて、録音されているサウンドとピアノで共演したり、自分が見た白昼夢を書いて木の枝に結びつけたり。遊び心があり、楽しめます。
小さな集落にとって「学校」は、世代を超えて地域の人々が集まるコミュニティスペースとしての役割も担っています。2015年に旧津南町立上郷中学校をリニューアルし、大地の芸術祭におけるパフォーミングアーツの拠点となった〈越後妻有 上郷(かみごう)クローブ座〉もそのひとつ。
なかでも、EAT & ART TAROがプロデュースし、地元の女衆(おんなしょ)が演劇仕立てで料理をサーブするパフォーマンスレストランが人気です。今回は、アーティストの原倫太郎と原游が江戸時代のベストセラー『北越雪譜』をモチーフとして脚本・演出に初挑戦。
文人・鈴木牧之(ぼくし)が描き綴った雪国文化のエピソードを女衆が演じます。女衆のひとりは「雪とともに育った私たち。大変だけどいいところなんだよというセリフを用意してくださったので、その思いが伝わるといいなと思っています」と語っていました。9月4日まで1日2回公演、45分(完全予約制)。
さらに、秘境の気配が残る、津南町と長野県下水内郡栄村とにまたがる山間地域「秋山郷」へ向かいます。今回初めて会場となった旧津南小学校大赤沢分校では、松尾高弘が、この学校の1971年夏の写真にあった土のプールをミニチュアで再現しました。
約50年前、集落の人々の手でグラウンドの土を掘り、土で施工したプールにシートをかけ、山から水を引いて泳いでいたといいます。水面に浮かび上がる写真のホログラムが、DIY精神に富んだ先人の姿を伝えています。
大地の芸術祭では、かつてボルタンスキーが語ったように、作品と作品の間が数キロ離れているため、この時間に目が洗われ、次の作品を新たな気持ちで鑑賞できます。移動の間に、信濃川、黄金色の田んぼ、深山の自給自足の集落など、さまざまな景色を目にするとアートの見方も変わってくるかもしれません。
里山が秋色に染まりゆく〈大地の芸術祭 2022〉に足を運んでみませんか?
Information
【越後妻有 大地の芸術祭 2022】
会期:2022年4月29日(金・祝)~11月13日(日)
開催地:越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)
鑑賞時間:10:00~17:00(10・11月~16:00) ※施設によって異なる場合あり
定休日:全日程を通して火・水曜
web:越後妻有 大地の芸術祭
credit text:白坂由里 photo:ただ(ゆかい)