祖父の言葉に気づかされた、ものづくりの原点
「つくる幸せ、着る幸せ」を感じられる、ものづくり
社長には反対されていた〈WRAPINKNOT〉のメンズラインでしたが「それまでメンズのニットは、ものすごく高いブランドのものか、ものすごく安いもののどちらかしかない状態。なので〈ウメダニット〉でつくる、良い品質でありながら高級すぎないニットであれば絶対に突破口があると思っていました」という梅田さん。その予想は見事に的中し、メンズアイテムから〈WRAPINKNOT〉の売り上げは順調に伸びていきます。
と同時に、どんな複雑なニット製品でもつくれてしまう〈ウメダニット〉の高い技術力が、裏目に出てしまった部分もあったのだそう。
「ニットと異素材を縫い合わせる技術は習得するまで年月が必要だし、会社の設備や態勢も整っていないとできない。そこで、ここ3年くらいは異素材を組み合わせたニット製品を強く打ち出していたのですが、立ち返ると自分が着ないようなものもつくってしまっていました」と梅田さん。
そんなとき目にしたのが、祖父の時代につくられた〈ウメダニット〉のパンフレットの中にあった「つくる幸せ、着る幸せ」という言葉でした。
「着る人がいるからこそ、僕らの仕事は成り立っているし、着る人のことを思わないと単なる自己満足になってしまうことに気づかされましたね。そこで2019年春夏シーズンは『誰にどういうものを届けたいかという想いがないのであれば、つくらないほうがいい』と自分に言い聞かせながら、もう一度ニットの良さを追求する方向に〈WRAPINKNOT〉をリブランディングしました」
現在企画などを進めている2019年秋冬シーズンが「ブランドとしての本当の再スタートとなる」という梅田さん。このシーズンに向け、新たなニットデザイナーがチームに加わったほか、毛玉になりにくい加工をほどこした独自の糸の開発も進めているのだそう。〈WRAPINKNOT〉ならではの高い品質とデザイン性に、手入れのしやすさという実用性もプラスされたニットは、これまで以上の話題を呼びそうです。
〈WRAPINKNOT〉だからこそ表現できる五泉ニットの魅力
取材の最後に五泉市でつくり続けることの自負はあるかと梅田さんに尋ねたところ「僕自身もありますし、〈ウメダニット〉にいる人たちみんな、ほかのメーカーのニット職人さんも含めてあると思います。想いの強さや、どう表現するかは別にしても、それは誰の中にも必ずあると思いますね」という答えが。
「地場を盛り上げることに長けている人は、ほかのメーカーにもたくさんいらっしゃる。でも五泉ニットに興味を持つきっかけは、いろいろあっていいと思うんですよ」と梅田さん。「〈WRAPINKNOT〉は自分ができる表現のひとつだと思うし、それが結果的に五泉ニットのPRになれば、なおいいなという気持ちはあります」
新しいことを積極的に取り入れる五泉の気風を受け継ぐと同時に、五泉ニットが持つ可能性と多様性を象徴する存在ともいえる〈WRAPINKNOT〉。洗練された空気をまとった新潟生まれのニットが、今後どのような飛躍を見せ、五泉市に集うニット工場に効用をもたらしていくのか? ファッションに興味のある方はもちろん、新潟が好きな方も、ぜひご注目ください。
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credit text:林みき photo:斎藤隆悟