はじまりのテーマは、
健康寿命を延ばすこと
上越新幹線・燕三条駅からひと駅。JR北三条駅のそばに、公共施設である〈まちなか交流広場 ステージえんがわ〉があります。建物には外壁がなく、内と外の境界が溶け合っている〈ステージえんがわ〉は、誰もが気軽に立ち寄れて、多目的に使えるまちの交流広場。その空間の中に併設されているのが、〈三条スパイス研究所〉です。
「世代を問わず、日本人はカレーが大好きですよね。でも実はカレーほど、固定観念の塊になっている料理もないと思っているんです。それは自分が食べてきた味への強い思い入れがあるからこそ、カレーの概念が偏ってしまうというか。まず、そもそもカレーとはスパイス料理なんです。その前提に立って考えてみると可能性が広がりませんか?」
〈三条スパイス研究所〉ではそういったカレーへの固定観念を崩しながら、健康にもいいスパイス料理の幅を広げていきたいという想いが込められているんです」
そう話すのは、〈三条スパイス研究所〉の統括ディレクターを務める山倉あゆみさん。撮影当日は山倉さん本人が出張のため、残念ながら会えなかったが、山倉さんは三条市のプロデュースのもと、〈ステージえんがわ〉をこの場所につくることが決まった後、外部コンサルからの依頼でプロジェクトに参加し、ディレクターとして奔走してきたひとりです。
「高齢者の健康寿命を延ばすまちづくりを。そもそも 〈ステージえんがわ〉とは、この“スマートウエルネス三条”という三条市の取り組みの一環としてつくられました。建物の構想や枠組みができあがり、そこから私も含めた地域や立場、業種も超えた人々が集って何ができるのか、可能性を探るようなプロセスでつくられていきました」
高齢者の外出機会を増やすために、飲食の機能を持たせた象徴的な場所をつくろうと話が浮上。それも誰もが親しみやすいカレーがいいのではないか? という意見が挙がるなか、最終的には〈燕三条 工場の祭典〉の全体の監修を手がけた〈method〉の山田遊さんの紹介で、東京・押上にあるスパイス料理店〈スパイスカフェ〉のオーナーシェフの伊藤一城さんに監修を依頼し、地域コーディネーターとして山倉さんと伊藤シェフがタッグを組んだのが三条スパイス研究所の始まりです。
そもそもスパイスの要素が、この三条の土地にあるのだろうか? 伊藤シェフと山倉さんは、まずその問いに対する答えを探すことから始まります。そして三条全体の食材の調査を行いながら、生産者に出会っていく日々。そんななかで訪れた山間部にある下田地区の直売所で、ふたりはウコンが販売されているのを発見します。
「ウコンの別名はターメリック。まさにカレーづくりには欠かせない基本のスパイスです。お店の人に聞いてみると、山崎一一(かずいち)さんというおじいちゃんが育てたウコンが直売所の売り上げトップで、ウコンのことは何でも知っているのだと教えていただきました。そこですぐに山崎さんに会いに行ったんです」