観光ではないワーケーション。地域ごとの特徴とは?
ーー「新しい観光」として世に知られたワーケーションですが、次第に観光文脈からは離れてきていると思います。その一方で、各地のワーケーションが似てきたと思います。今後はどんなあり方が可能だと思いますか?
伊藤 糸魚川市の場合、もともと目立った観光地ではなくて受け入れ態勢があまりなかったので、逆プロポーザル型を取っています。「糸魚川市の強みは〇〇だけど、こんなことで困っています。この点について助けてくれる人を募集します」と。間口は狭いけれど、 ピンポイントで「やってみたい」とか「そういう新規事業合宿がしたかった」という人とつながっていますね。
竹内 とはいえ、企業の人たちがワーケーションにゴーサインを出すかというと、依然としてハードルが高いんです。少しでも遊びの要素が入っていると「遊びじゃないか」と言われてしまう。企業にとってどんな価値があるのかを設計するのが難しいんですね。
だからこそ、会社と地域をつなぐ翻訳者が必要なんですが、そういう人がいるワーケーションプログラムがどれくらいあるかというと、まだそんなに多くないと思っています。
平原 そういう意味では、昔のユースホステルって理想的。地域のことをなんでも知っているキャラの濃いマスターがいて、その人のつくってくれるごはんを食べながら、話を聞いたりアドバイスをもらったりする。
竹内 そういった取り組みを地域でやろうとしている人たちのつながりは、少しずつ出てきましたよね。「これだったらあそこがいいよ」と言えるようになってきた。
ーーコンシェルジュ的な役割の人がいろんな地域に生まれてきて、さらにその人のパーソナリティーまで外から見えるようになってくると、「あの人に会いたいから行く」となるんでしょうね。
伊藤 人それぞれフィットする地域やプログラムはきっとあると思うので、地域同士で相互送客できるようになったらいいなと思います。
竹内 地域ごとに得意なこと不得意なことがありますしね。
平原 滞在場所の施設の問題もあります。たとえば上越妙高でフルサットを拠点にしてしまうと、宿はビジネスホテルになります。ビジネスホテルに3泊以上するとなると、東京にいるのとあまり変わらない。
もし3地域で連携できるなら、3泊4日なり1週間なりのプランがつくれたらいいなと思っています。また、ワークする空間もまだまだ足りないとも感じています。
ーー糸魚川市では、小学校に首都圏からの子どもを受け入れて、子どもにとっての第2のふるさとになるような取り組みをしていますよね。これまでワーケーションは大人目線の話でしたが、親子ワーケーションには子どもの教育面からも注目できると思います。
伊藤 今年の参加者のなかには、ワーケーションが終わった翌週にも糸魚川市に来てくれた親子がいました。聞くと、ワーケーション中に知り合った友だちと糸魚川市のスキー大会に出たいから、週末は一緒に練習するんだというんです。
そんなふうに子どもがまちの一員になれることも大きな価値だと思います。地域の価値ってなんだろうと考えますね。自然とまちが近いことも価値だろうし、働く場所、遊ぶ場所、住む場所が近いのも価値だろうし。
竹内 夏休みや春休みは子どもにとっては長期の休みだけれど、親は仕事で、どこにも行けないんですよね。だけどテレワークのような働き方ができるのであれば、子どもたちが地域で自然体験をしているあいだ、大人たちはいつもどおり仕事に打ち込むことができる。
今、〈国立妙高青少年自然の家〉と共同で親子ワーケーションをやっています。子どもたちは安全な環境で雪遊びをするのですが、それだけで楽しくて一日中遊んでいて、 夜になるとへとへとになって帰ってくる。そんなのを見ていると、これでいいんだな、全部お膳立てしなくてもいいんだなという感じがします。夏ならバーベキューするとか、地方に住んでいる僕らにとっての日常だって、都会の人にとっては非日常なんですよね。
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