“確かなもの”にデザインをプラス
迫さんたちが選ぶ商品は、つくり手の顔が見える“確かなもの”ばかり。そんな新潟の特産品や地元産業にデザインを加えて新しい価値を生み出します。
「商品はさまざまな条件が重なって売れると思うのですが、その“デザイン”の部分は担えるかなと思っています」
新潟銘菓の〈ゆか里〉もそのひとつ。これは小さなあられに砂糖蜜をまぶした金平糖のようなお菓子。かつては多くの店でつくられていたそうですが、年々、売り場が減少し、新潟市内では家族経営の小さな和菓子屋〈明治屋ゆかり店〉ただ1軒に。
「明治屋さんは明治33年創業の老舗で、初めてお会いしたとき、社長は76歳。たったひとりでゆか里を製造されていました。新潟土産として僕たちの店にも置かせてもらっていましたが、ある日『商品が売れないから跡継ぎがいない』という話を聞いたんです。自分たちにできることを考えたとき、デザインを変えて全国展開することを思いつきました」
ゆか里はお湯を注いで味わいます。お湯の中でパチパチと音をたてながら砂糖蜜が溶け、あられが浮かび上がってくる姿が何とも印象的です。迫さんはここから商品名を〈浮き星〉とし、パッケージには、冬になると新潟に飛来する白鳥をあしらうことに。
さらに販路開拓のため、東京の展示会〈ててて見本市〉に出品します。すると一気に注目を集め、年間売り上げ1000個ほどだったお菓子は数か月で2万個に、その後、年間10万個を売り上げるヒット商品に。跡継ぎ問題も解消され、ゆか里は〈浮き星〉となって再び新潟の人気土産となったのです。
最近では年に数回、業種など問わずさまざまな人たちに向けてデザインの相談会を開催している迫さん。迫さんをはじめ市内のデザイナー3人が講師となり、“デザインの活用のしかた”についてのアドバイスを座談会形式で行います。
「気軽な集まりです。この前は『太極拳のクラスを始めたいのでチラシをつくりましたがどうでしょう』という相談があったのですが、チラシをみんなの前で見せてもらって、紙の色やフォントなどのアドバイスをしました」
パソコンを使えないという人には手書きでも魅力的なポップやチラシができることを伝えるそう。
「苦手なことを克服するより、持っている力を伸ばしてあげたいと思うんです」
地元のつくり手さんたちに、デザインを難しく考えず、うまく活用してもらいたいという迫さん。
「僕たちの活動がヒントやきっかけになったらいいなと思っています。一生懸命つくったいいものが、消費者に見逃されてしまうのはもったいないですからね」
Information
Profile 迫一成
1978年福岡県生まれ。〈合同会社アレコレ〉代表。新潟大学卒業後、2001年、仲間ともにTシャツのデザイン販売をするクリエイト集団〈hickory03travelers(ヒッコリースリートラベラーズ)〉を結成。現在はTシャツのデザインに加え、グラフィックデザイン、ブライダルギフト、アート関連の企画、商店街を楽しむ活動など、その仕事は多岐にわたる。2013年から〈新潟市美術館ミュージアムショップ ルルル〉の企画・運営も担当。
credit text:矢島容代 photo:嶋田健一