新潟のつかいかた

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若手起業家を支える
新たなサポート拠点
〈スナップ新潟〉に注目! Posted | 2025/03/26

地方での起業が広がるなか、新潟県では学生を対象とした起業支援拠点〈スナップ新潟〉(Startup Niigata @PLAKA)が注目を集めています。挑むべき課題を明確にし、先輩起業家からアドバイスを受けながら、仲間と切磋琢磨できる、そんなサポート態勢が人気の秘密です。そこで今回は、スナップ新潟の荒川由晃(よしあき)さんに、具体的なサービスの仕組みや新潟で起業する魅力について聞きました。

民間主導の起業サポートが本格化

「新潟県の開業率は47都道府県中、46位なんです」と意外な数字を教えてくれた荒川さん。実は新潟県は、既存企業が安定していることから廃業率が低く、その結果として若手起業家が少ないという特徴があるそうです。

「こうした背景を受け、新潟県では、地域から新たな産業を生み出すスタートアップを輩出しようと、2019年頃から民間主導の起業支援を本格的に開始しました。その一環として生まれたのが、〈スナップ新潟〉や〈NINNO(ニーノ)〉です」

NINNOとは、企業、行政、教育・研究機関が連携し、地方創生を目指してさまざまな取り組みを行っている新潟県最大級のイノベーション施設。このNINNOで活躍できる起業家を輩出する役割を担っているのが、スナップ新潟です。

県内には9つの民間スタートアップ支援拠点がありますが、そのなかでもスナップ新潟は支援対象を学生と研究者に限定し、起業家としての一歩を踏み出す人材を育てる、いわゆる“ゼロイチ”の支援を行っているのが特徴。

2つの「ゼロイチ支援」を解説したイメージ図

「ここ数年、首都圏でも地方でも起業教育が盛んに行われていて、補助金も受けやすくなっています。ですが『自分はなぜ起業するのか、社会でどんな課題に挑戦するのか』といった本質的な問いに向き合うサポートはまだまだ不十分。そこでスナップ新潟は、支援対象を学生に限定し、この点に注力したサポートを行うことにしたんです」

段階的な成長を促す
「スナップサロン」とは?

スナップ新潟は、オンラインコミュニケーションツールであるディスコード(Discord)を活用した独自開発のコミュニティシステム「スナップサロン」を提供しています。

このシステムは、仲間同士の交流を通じて成長を促進する「コミュニティ型アクセラレーション」の考え方に基づいて設計されています。起業を目指す学生が段階的に成長できるよう、独自の3つの仕組みを備えているのが特徴です。

ディスコード(Discord)と連動したウェブアプリの解説図

そのひとつが「スナップコイン」と呼ばれるコイン制度。活動へのリアクションとして押せるスタンプと連動しており、学生は学びの共有や報告を通じて、先輩起業家や支援者からコインを受け取ることができます。1コイン100円として換算され、貯まったコインは、イベントへの参加費や弁護士相談などに活用できます。

「スナップ新潟では、年に1度、1泊2日の佐渡島合宿を開催しています。この合宿は、起業家予備軍と先輩起業家が合同で参加し、帰るまでに事業プランをつくりあげるというもの。合宿への参加を目指して、コインを貯めている学生もいますよ」

スナップ新潟の佐渡合宿の様子
先輩起業家と学生が一緒に起業について考える、佐渡合宿の様子。

コインは支援ツールとしてだけでなく、自分の努力が可視化されることから、モチベーションアップにつながるというメリットも。

「これまでに起業した学生の傾向をみると、1000コイン貯まると、起業に踏み切れるイメージですね」

スナップ新潟のコインシステムを解説した図

ふたつ目の仕組みは、円滑なコミュニケーションを促す「フェーズプログラム」です。

「起業を成功させるには、少し先を行く先輩起業家の存在が欠かせません。そこでスナップサロンでは、30歳以下の若手起業家も参加できる仕組みをつくりました。参加者がどのフェーズにいるのかがひと目でわかるよう、“起業家予備軍”や“U30起業家”といったフェーズごとのバッジが付与されています」

これにより「今日は同じフェーズの仲間と話してみよう」「先輩起業家に相談してみよう」といったかたちで、コミュニケーションのミスマッチを回避できるといいます。

スナップ新潟から起業した人は、その後“U30起業家”として学生を応援する立場へ。また応援だけでなく、起業家同士のコミュニティの場としても活用されており、新潟で事業展開を考える県外の起業家の参加もあるそうです。

Webアプリ上でコミュニケーションが生まれているスナップサロンの画面
スナップサロンの様子。コミュニケーションを通じて、各自の起業リテラシーの差を埋めることができると荒川さん。

3つ目は「AIメンター」システム。参加者は、最初にこのAIメンターによる診断を受け、自分がどのようなビジネスに向いているか、適性を知るところから始めます。

「先輩起業家に自己紹介できるようになるまで、AIメンターのサポートを受けながらスキルや知識を身につけられます。自己紹介を終えれば、晴れて“起業家予備軍”の一員に。参加費は無料なので、起業に興味はあるものの、まだ具体的なイメージが湧いていないという学生も気軽に参加できますよ」

スナップ新潟は、起業家の
“戻れる場所”でありたい

現在、スナップ新潟から誕生した学生起業家は20名。副業マッチングサービス、サウナ機器の輸入販売、完全栄養食のアイスクリーム開発など、多様な分野で新たな挑戦が広がっています。

「最初の起業がうまくいかなくても、2回目、3回目と、挑戦をしていけばいいと考えています。一度、企業に入社して経験を積むのもひとつの選択肢です。新潟は都市圏と比べて起業を目指す人の数が少ないので、先輩起業家や行政との距離も近く、いい意味で目立ちます。そのメリットを生かして活躍の場を広げてほしいですね」

スナップ新潟の荒川由晃さん

荒川さん自身、2016年に東京から新潟にIターンした移住者。加えて、東京と新潟の両方でベンチャー企業を立ち上げた起業家でもあります。現在はさらに活動の場を広げ、渦を用いた小型風車の開発を手がける、長岡技術科学大学発のベンチャー〈パンタレイ〉の役員を務めるほか、長岡工業高等専門学校の客員准教授として、研究者の成果を起業へとつなげる社会実装の支援にも力を入れています。

「当時は気づきませんでしたが、東京はライバルも強くスピードも速い。常にプレッシャーにさらされていました。新潟は仲間や支援拠点との距離が近いこともあり、お互い助け合える環境があります。起業は孤独で、心が折れることも多いです。心が折れるとうちの会社の周りをうろうろしている学生もいますよ(笑)。弱音を吐ける場所があること、それが新潟で起業する最大のメリットかもしれません」

スナップ新潟をはじめ、若者の挑戦が孤独にならない、さまざまな環境が整っている新潟。これらの支援を活用することで、起業の夢がぐっと近づきそうです。

Information

【スナップ新潟】
web:スナップ新潟

credit text:矢島容代