新潟県の食や旅、酒やプロダクトの魅力を再発見する目的で2022年に設立された「新潟ガストロノミーアワード」。2026年の受賞者が3月13日に発表されました。そこで今回は審査員長を務めるコラムニストの中村孝則さんと、特別審査員の東京・浅草〈HOMMAGE(オマージュ)〉荒井昇シェフに、新潟県の食の魅力、そしてガストロノミーのいまとこれからについて語ってもらいました。
広く豊かな土地と歴史が育む、類まれな食材と食文化
中村孝則さん(以下、中村) 荒井シェフは、今年1月がだいぶ久しぶりの新潟への訪問だったとうかがいました。あらためていまの新潟県を旅されて、印象はいかがでしたか?
荒井昇さん(以下、荒井) 十日町市出身の幼なじみに連れられて、彼のおばあさんの家に遊びに行ったのが20歳くらいの頃なので、約30年ぶり。ほぼ“初めて”に近い気持ちでしたね。今回は新潟市内と、糸魚川市で数軒のレストランを訪ねたのですが、そのふたつの地域でも自然環境や景観、食文化までまったく違うじゃないですか。
中村 そうなんですよ。面積は全国の都道府県で5位の広さを誇り、南北に長いので県内でも地域ごとの個性がある。日本海沿岸エリアは海の幸の宝庫で、数々の名峰を有するから山の幸にも事欠かない。日本を代表する米どころで、農業にも酒造りにも伝統があり、寒冷地ならではの発酵食文化も優れている。日本全国を見渡しても類まれなポテンシャルがありますよね。それらに正しく光を当て、日本各地へ、さらには世界へ発信したいと創設されたのが本アワードです。

荒井 だから審査基準においても「地域表現」が重視されるわけですよね。国内外のどのアワードやガイド本でも評価の対象とされる、食材のクオリティや調理技術、クリエイションのユニークさや革新性に加えて、どれだけ新潟の、それぞれの店が拠点とする地域の食文化が反映されているかがジャッジの分かれ目になる。そこが非常に興味深いと思いました。
中村 昔はよく「地方にはいい食材はある。でも腕のいい料理人がいない、いい店がない」みたいなことが言われていたじゃないですか。そこをつなげるのが、僕らの役割だと考えていて。もっとも、新潟は古くから流通の要だった北前船の寄港地であったことや、現在よりはるかに経済的な価値を持っていた米の一大産地であることから、経済・文化の繁栄を受け、食文化の豊かな歴史もあるのですが。
荒井 つまり食材だけでなく、食材・食品を育む職人的な仕事や料理人、優れた飲食店も、もとからあった土地というわけですね。
中村 そう。それを現代のガストロノミーやツーリズムといった文脈にフィットするかたちに再定義したり、アップデートしたりするお手伝いをすること、情報として発信する方法を一緒に考えることがアワードの役割と言ったほうが正しいですね。
荒井 本当に、ポテンシャルはすごいですよね。それは、来てすぐに感じました。食材や飲食店のレベルの高さはもちろん、レストランのロケーション、周辺の景色にも場所ごとの美しさがあるのがすばらしい。

中村 荒井シェフは、生まれも育ちも東京・浅草じゃないですか。だから風景に関しては余計ビビッドにお感じになることがあるのかもしれませんね。
荒井 おまけに長年、厨房にこもって料理しかしてこなかった人間なので。訪問が1月でしたから、トンネルで山ひとつ越えたら異界のような雪景色が現れる。山間部だけじゃなくて、新潟市内のような都市部も、ふと目線を向けた先に懐かしい路地の風景や建物が残っていたりする。今回、市内は時間の許す限り回り道をしながら歩いて移動したんですが、音楽を聴きながら歩くうちに、音と景色のあまりに美しいシンクロに涙したほど……。
中村 ちょっと、それはお疲れが過ぎるんじゃないですか。いいですよ、新潟に移転して来られても(笑)。
荒井 疲れているんですかね?(笑)いやいや、冗談抜きで、人の心を震わせる何かがあるなぁと感じました。新潟という土地で仕事をされている料理人たちは、日々それぞれの環境で、さまざまな美しさに心を動かされ、表現を磨いていくのではないだろうかと。
中村 まだまだ行っていただきたい場所、見ていただきたい景色がたくさんありますから。
荒井 一方で、心の震えや、自然からのインスピレーションだけではいい料理はつくれない。料理の技術はもちろん、自分は何をすべきかを見据え、そこに向かって振り切っていかなければ。


