新潟のつかいかた

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「新潟ガストロノミーアワード」
審査員・中村孝則さん、
荒井昇シェフに聞く
ローカルガストロノミーのいま | Page 2 Posted | 2026/03/13

Iターン、Uターン組の開業も続々。新潟から世界へ

――先の「ローカルには腕のいい料理人が……」の話に通じますが、ひと昔前までは、東京とローカルの料理人では技術やセンスの差があったように思います。

荒井 いまの時代はほとんどなくなっていると感じますね。近年は、実力のある料理人たちがローカルを“選ぶ”時代ですし、調理技術を含め、世界中の厨房で実践されていることの多くをインターネットで知ることができる。当然のことながらネットですべてがわかるとは言いませんが、一料理人として「活用しない手はない」くらい重要であることは確か。

中村 ローカルを選ぶ時代、確かにそうですね。新潟県内でも多くの移住組が活躍しています。2013年の開業から新潟のガストロノミーシーンを牽引してきた三条市の〈Restaurant UOZEN(ウオゼン)〉などはその筆頭です。近年は、Uターン組もすごく増えている。東京や京都・大阪など激戦区で腕を磨いて、独立は故郷で、という。大都市の一流店を知る料理人たちの目にも、新潟県が魅力的に映るという事実は、このアワードに立ち上げから関わってきた者として大変喜ばしいことです。

荒井 かつて都市の飲食店に優位性があったのは、流通や情報の利便性が集中していたから。でもいまはもう、その時代は過ぎましたよね。むしろ全国の流通に乗らない食材が付加価値にさえなる時代。食材に関していえば、出合ったものすべてがお世辞抜きにすばらしかった。

対談中の荒井さん

――日本各地に、優れた食材を産する土地はありますが、新潟県が特別である理由はどこにあるのでしょうか。

中村 水産物でいえば、日本海に面した海岸線が長く、南北の海流が交わる点に位置し、魚種が非常に豊富なんです。日本一の長さを誇る一級河川の信濃川があり、上質な淡水魚もとれる。佐渡島には加茂湖という汽水湖があって、あまり知られていないのですが牡蠣の養殖が盛んです。

荒井 〈大口れんこん〉というれんこんの食感、甘みも格別でした。

中村 ブランド化に成功した野菜のひとつですね。野菜は在来種もとてもたくさんある。全国屈指のブランド洋ナシ〈ル レクチエ〉をはじめ、果物のレベルも高いんです。

荒井 ル レクチエと佐渡島のイチジクは、僕の店〈オマージュ〉でも使っています。

中村 「ここにしかない」「この土地から育まれる」と胸を張って言える食材を使って、それを生かした料理をつくり、表現として完成させれば、どんな僻地であろうと「行きたい」と思う人がいる時代。特にファインダイニングと呼ばれる高級店を食べ歩く、いわゆるフーディたちにとっては、都市かローカルかなど関係ない。その店が「行くに値するか否か」なわけで。荒井シェフのお店も、海外からのゲストは多いですよね。

荒井 日によってバラつきはありますが、平均すると6~7割が海外からの方ですね。美食を求めて世界を旅する方々の選択肢のひとつになれていることを、大変名誉に思います。

中村 そんな荒井シェフからご覧になって、新潟県のレストランのレベルはいかがでしょうか。

荒井 まだ探求中ではありますが、いまの時点で驚くべき店に数軒出合っているので、かなり期待値は上がっています。新潟市の〈登喜和鮨〉などは群を抜いてすばらしかった。寿司というミニマムかつ、型が完成された表現のなかに、確かな新潟の風土が感じられて、寿司はこんな遠くまで行けるんだ、と。

中村 アワード常勝店の一角です。自分で人気に火をつける側に加担しながら、最近は予約が取りにくくなってしまったのが悩ましい(笑)。

対談中に笑顔がこぼれる中村さん

荒井 糸魚川の〈murir(ミュリール)〉もよかったですね。田んぼの真ん中に忽然と現れる、ローカル・オブ・ローカルなロケーションからすばらしく。

中村 ご自身たちの祖先が代々守ってきた農地で、彼らも農業に携わりながらレストランを営んでいて、食材、ストーリーともに説得力がある。でも少し前までは、あと一歩という感じが否めなかった。ところがスペイン・バスク地方にある前田哲郎シェフの薪火料理店〈Txispa(チスパ)〉での研修を経験後、がらりと変わったんですよね。

荒井 そういう経緯があったのですね。修業先も、ローカルから東京などの大都市を飛び越えて、世界へ行ける時代ですからね。

中村 僕自身、長く「世界のベストレストラン50」「アジアのベストレストラン50」に携わってきた関係で、ありがたいことに世界各国のトップシェフたちと交流がある。もしも新潟県から世界を目指したいという志高い料理人がいたならば、よき橋渡し役になるべく力を尽くしたいと思っています。

談笑する中村さんと荒井さん

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