新潟県佐渡島には、オーシャンビューに、里山の風景、標高1000メートルを超える山、そして豊かな四季の移ろいもある——日本の縮図のような島ともいわれる佐渡島の山間部の集落、羽茂大崎でドーナツ店を営むのが、2015年に移住した米山耕(よねやまたがやす)さんです。
佐渡の観光スポットのひとつ、宿根木(しゅくねぎ)から車で約30分。観光で訪れるには少し遠いものの、わざわざ足を運ぶ人が多いお店が〈おいしいドーナツ タガヤス堂〉です。2021年にはすぐ近くにパートナーの幸乃さんが〈本と雑貨 ニカラ〉をオープン。ふたりに共通するお店づくりが、多くのファンを生み出しているようです。
素朴さが評判のドーナツ店
佐渡島の南側、小木港から羽茂(はもち)の町を抜けると、大崎集落の中心部にぽつんと佇むドーナツ店があります。素朴な味わいのドーナツが特徴の〈おいしいドーナツ タガヤス堂〉です。
メインのドーナツは、まんまるの見た目がかわいらしい〈プレーン〉(110円)と〈きび和糖〉(120円)。シンプルで飾り気のない2種類に魅了され、リピートする方が多いそうです。
提供しているドーナツは、この2種類以外にも、仕入れ状況や季節によって〈佐渡産無農薬グリーンレモングレイズ〉や、佐渡産のイチゴを使った〈おいCベリーのいちごミルク〉〈豆乳米粉カスタードサンド&きなこ〉など、さまざまな種類を用意しています。
「君もドーナツ屋やったらええんちゃう?」から大きく変わった
耕さんが佐渡島に移住したのは、2015年のこと。前年に知人の紹介で佐渡のブックフェス「HELLO!BOOKS」 に訪れたことがきっかけでした。主催の方の誘いで、気軽な気持ちで佐渡へ移住し、バイトをしながら生活していました。
そんな生活をしている最中、大阪からドーナツ店〈あたりきしゃりき堂〉が来るのでお手伝いへ。そこで、店主から「君もドーナツ屋やったらええんちゃう?」と誘われたことで、流れのままに開店準備。2016年9月にこの地でお店を出すこととなったのです。
オープン後は少しずつ認知度が広まっていき、今では平日180個、土日や祝日には300個が売れるほどに。5のつく日にはゴマのドーナツを出したり、季節限定商品を出したり、コーヒーを出すようになったりと、少しずつレパートリーを広げていきました。
土地と関わりながら営む新刊書店〈本と雑貨 ニカラ〉
そんなタガヤス堂のすぐ近くではパートナーの幸乃さんが〈本と雑貨 ニカラ〉を営んでいます。人文系を中心にエッセイや小説などの読みもの、実用書、絵本、佐渡の人がつくったZINEなど、さまざまなジャンルの本を置いている新刊書店です。
移住前は、香川県の小豆島で本屋を運営していた幸乃さん。結婚を機に佐渡島へ来て、最初は何をするか明確には決まっていなかったそうです。
しかし、耕さんが〈タガヤス堂〉の次の展開を模索して物件を探しているうちに、農協のチラシで現在の物件を発見。実際に見てみると、ふたりとも直感で気に入り、ここでお店を開くことを決意。どんなお店がいいかを考えて最終的にたどり着いたのが、幸乃さんの経験を活かした本屋でした。
お店がオープンすると、島内外からお客さんが来てくれるように。お客さんと会話をするなかで、次第に棚に変化が出てきました。
「店を開けているうちに『あの方は〇〇が好きと言っていたな』と、思い浮かぶお客さんの顔が増えて行き、並べる本の幅が広がっていきました。自然科学やレシピ本、以前から興味を持っていた老いや障がい、心のケアについて書かれた本は手に取る人が多いのでタイトル数を増やしました。
また、自分の好みもありノンフィクションが棚の大部分を占めていたのですが、お客さんの反応を見てフィクションを増やしているところです。これからも店を続けていくなかでどんどん棚が変化していくと思うので、自分でも楽しみです」
旅行先で訪れる本屋は、その土地の文化や関心を教えてくれるもの。佐渡の人たちがどんな本に関心を持っているのか、どんな本を作っているのか。本との一期一会を楽しみにぜひ〈本と雑貨 ニカラ〉まで足を延ばしてみてください。
佐渡の山奥にあるドーナツ屋さんと新刊書店。一見異なるジャンルに見えますが、その根底を流れる雰囲気は同じように感じました。
自分の好きなことを無理なく、ほどよく続ける。
自然体で生きるふたりの姿を見て、肩の力がスッと抜ける心地よい時間を過ごしたい人におすすめのお店です。
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