新潟のつかいかた

feature-omoidetabi-004-ec

この船に乗るために、旅に出る。
旅情をさそう佐渡汽船 Posted | 2022/08/26

旅の達人たちに、新潟の思い出深い旅を振り返ってもらう連載。第4回は、写真家・ライターの片渕ゆりさんが綴る、佐渡の思い出です。

引き返してでも乗りたかったカーフェリー

海がないまちで育ったからだろうか。「船旅」というものに、ファンタジックな憧れを抱き続けてきた。小学生の頃、黒猫の船乗りが冒険する小説を夢中になって読んだ。中学生になると『タイタニック』を観て、本筋である恋愛物語よりも背景に映る豪華客船にのめりこんだ。

船旅は、いつもどこか現実離れした輝きを放っている。

佐渡汽船のフェリーのデッキにあるベンチ

佐渡島を訪れたのは、めずらしく長めの休みをとれた友人と「旅行しようよ」という話になったことがきっかけだった。東京駅から新幹線と高速船のジェットフォイルを乗り継げば、そんなに早起きしたわけでもないのに明るいうちに佐渡島へ到着できた。

「遠いと思っていたけど、来れるもんだね」。なんだか誇らしい気持ちになりながら海を眺める。〈佐渡牛乳〉のパッケージに描かれたトキのイラストがかわいいとはしゃぎ、バスの車窓からトキを探し、インスタで見かけて気になっていたおしゃれな〈カフェ日和山〉では「牡蠣のパスタ」と「チーズケーキ」をいただいた。惜しみなくごろごろと入った牡蠣に驚き、その濃厚なおいしさに驚き、宝石のような繊細なチーズケーキに歓声をあげた。

上にゼリーがのったチーズケーキ
カフェ日和山のチーズケーキ。

旅のあいだはずっと雨で、結局トキも金山もたらい舟も見られなかった。けれど、じゅうぶん。大満足の佐渡旅……だけどひとつ、気になっていることがあった。

今回は日程が限られていることもあり、「時は金なり」と、より速く移動できるジェットフォイルを選んだ。しかしこの道中、何度も目にしたのだ。「カーフェリー」の文字を。写真を見る限り船内は居心地が良さそうだし、カーフェリーグッズはどれもレトロでかわいかった。どうやらカーフェリーは人気者らしい。

フェリーから見える佐渡の海

じゃあねと新潟駅で現地解散したあと、もう一度スマホを開いた。やっぱりどうしてもカーフェリーに乗ってみたい。明日の運航スケジュールを調べ、急遽新潟駅近くのホテルも予約した。

翌朝は快晴。いったい自分は何をしているんだろうと頭の片隅で思いつつ、昨日戻ってきたばかりの道のりをもう一度たどる。新潟駅前からバスに乗り、フェリーターミナルへ。

券売機で、今度こそ「カーフェリー」を選択する。

港では、海にも空にも負けない鮮やかなブルーが目を引く〈おけさ丸〉が出発を待っていた。両の目に入りきれないくらいの巨大な船体に乗り込む瞬間、乗り物好きの子どものように胸が高鳴った。

佐渡汽船のおけさ丸

窓から大海原を眺めていたら、絵の具の色を間違えたかのように、青の色が変わる部分があった。青から藍へ。おそらくは水深の違いによるものなのだろう。

船内では、誰もが思い思いの時間を過ごしている。デッキでただただ波を眺める人、貸し出し毛布にくるまり昼寝をする人、とっておきのおやつ片手に本を読む人。どこでも電波が届いてしまう現代において、ぽっかり空いた船上の時間はいわばワープホールのようなもの。このフェリーに乗りたいがために佐渡島を訪れる人も、きっと少なくないのだろう。

おけさ丸の座席

1日ぶりの佐渡島に降り立つのは不思議な感覚だった。別れを惜しんで離れたはずなのに、またここにいる。

宿根木エリアの一角

次のページ:レンタサイクルで巡る佐渡


次のページへ →