新潟のつかいかた

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この船に乗るために、旅に出る。
旅情をさそう佐渡汽船 | Page 2 Posted | 2022/08/26

「日本の風景がすべて詰まっている」佐渡を見てまわる

今日はひとりなので、相部屋形式のホステルに泊まることにした。〈Hostel Perch〉は、サウナがあることでも人気で、1階にはバーもある。古い旅館の名残を漂わせつつ、設備は新しい。出身も目的もさまざまな人が集う空間は居心地がよい。

Hostel Perch館内
古旅館の風情を残すHostel Perch。

夕暮れの時間、ホステルから歩いてすぐの海岸に向かった。海へまっすぐ突き出た桟橋が、まるで映画のひとコマのようで美しい。「あめやの桟橋」というらしいその場所には、人も少なく、波の音が穏やかに聞こえる。うっすら紫がかった空に、少しずつ墨が流れてゆく。

佐渡島のあめやの桟橋と日本海の景色
夕暮れのあめやの桟橋。

海がすぐそばにあることを感じながら眠る夜は、心なしかいつもより深く眠れる。すっきりと目が覚めたら、自転車に乗りたくなった。海岸沿いを走ったら、きっと気持ちがいいだろう。佐渡島にはレンタサイクルがあちこちにあるので、歴史ある宿根木のまち並みを見にいくことにした。

「日本の風景がすべて詰まっている」と呼ばれる佐渡島は、エリアが変わるごとに風景も大きく変わる。宿根木付近の海岸は、昨日の海岸とはうって変わって荒々しい。細い路地が入り組み、迷路のようになっている宿根木を歩きながら、かつてそこにあり、今もそこに続いている暮らしに思いを馳せた。

宿根木エリアの風景
有名漫画の舞台にもなった宿根木エリアの一角。

帰りもやっぱり、フェリーを選んだ。数日間動きっぱなしだったせいで、絨毯シートに寝転ぶとすぐに眠気が襲ってきた。多少の揺れも心地よい。赤ん坊の頃の記憶なんてないけれど、きっとゆりかごの中で眠るのはこんな感覚だったのだろう。眠りから覚めると、お腹が空いていた。

フェリーのデッキと佐渡の海

旅の締めくくりに、船内のレストランで「岩のりラーメン」を頼んだ。口中にたっぷり広がる海の香りを感じながら麺をすする。疲労のたまった身体に、あたたかいスープが染み渡る。急な思いつきで食べる醤油ラーメンというものは、なんでこんなにおいしいのだろう。

こうして、慌ただしい2往復は幕を閉じた。うまく寝つけない夜なんかは、いまだにフェリーのことを思い出す。記憶の中の波のリズムは、いつでも私を癒してくれる。

片渕ゆりさん

Profile 片渕ゆりさん

ライター・フォトグラファー。佐賀県出身・東京在住。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いからフリーランスに。2019年から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。2021年、『旅するために生きている』を上梓。Twitter|@yuriponzuu