新潟のつかいかた

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風土を生かし、五感で感じる
〈大地の芸術祭〉が7月13日より開催! | Page 2 Posted | 2024/07/12

地域を深掘りする:
欠かせないギアから紐解く集落の生活

力五山ー加藤力・渡辺五大・山崎真一ー『時の回廊 十日町高倉博物館』のイメージスケッチ
力五山ー加藤力・渡辺五大・山崎真一ー『時の回廊 十日町高倉博物館』

地域の重要な古い民具や農具を旧高倉小学校体育館に集め、回廊に見立てた空間に展示する『時の回廊 十日町高倉博物館』。

上へ下へと巡っていけば、この土地で暮らす人々の生活がうかがえるはず。結成から住民と協働しながら活動を続けてきたアーティストユニット・力五山だからこそ制作できる作品です。

地域を深掘りする:
廃校が舞台の体験スポット

『アケヤマ -秋山郷立大赤沢小学校-』のイメージスケッチ
監修:深澤孝史 参加作家:山本浩二、松尾高弘、井上唯、内田聖良、永沢碧衣 会場構成:一般社団法人コロガロウ/佐藤研吾『アケヤマ -秋山郷立大赤沢小学校-』

2021年に97年の歴史を終え、廃校となった秋山郷立大赤沢小学校に新しい命を吹き込み完成した『アケヤマ』。秋山の語源で山の共有地を意味する『明山(あけやま)』から命名されたこの施設は、住民をはじめ、研究者やアーティストなどが参加し、この地に伝わる技術や信仰を学び、実践できるスポットとなっています。

五感全開で美術を体験する:
「体験」をテーマにした作品

『阿弥陀渡り』のイメージスケッチ
原倫太郎+原游『阿弥陀渡り』

〈越後妻有里山現代美術館 MonET〉で開催される企画展『モネ船長と87日間の四角い冒険』には、国内外のアーティストが参加。

スリル満点の『阿弥陀渡り』は、池の中で放射状に伸びる柱のイメージの上に水上歩道を設置。体験者は阿弥陀(あみだ)くじを渡るように移動することができます。夜間はライトアップも予定されていて昼とは異なる静謐な世界観を味わえるので時間を変えて体験してみたいですね。

体験型メリーゴーラウンド『くるくるさんば』イメージスケッチ
中里繪魯洲の体験型メリーゴーラウンド『くるくるさんば』。電気を使わずに人力で回転させる仕掛けに。

さらに、ナカゴグリーンパークを舞台にした企画展『Nakago Wonderland–どうぶつ達の息吹と再生』では、広々とした芝生の上にユニークで遊び心ある「動物」をモチーフとした作品群が並びます。

ワークショップやパフォーマンスなどの参加型アートも登場するとか。お子さんはもちろん、大人も一緒に開放的な自然とのつながりを感じてみてください。

五感全開で美術を体験する:
生まれ変わった小学校で楽しめる「音」と「木」と「光」の展示

2014年3月に閉校した奴奈川小学校は、副教科をテーマにした〈奴奈川キャンパス〉も、子どもから大人までも五感を使って全身で子ども五感体験美術館として遊ぶことができる場に。

2023年に横浜でのBankART KAIKO 2023『惑星トラリス』の様子
松本秋則+松本倫子『惑星トラリス in 奴奈川キャンパス』(写真は2023年に横浜で行われたBankART KAIKO 2023『惑星トラリス』の様子)

『惑星トラリス in 奴奈川キャンパス』では、来場者が松本秋則と松本倫子が生み出した架空の惑星「トラリス」の中を自由に移動。

あちこちに設置された竹素材のオブジェが奏でる音楽を聴きながら、会場に無数にある覗き穴を覗くと、鮮やかな世界が広がります。

覗き穴の先にあるのは果たしてどんなものなのか……ぜひ会場でお楽しみください。

さらに、同施設には妻有各地の温泉をイメージした銭湯のような作品も登場します。
その名も『木湯』。

鞍掛純一+日本大学藝術学部彫刻コース有志『木湯』のイメージスケッチ
鞍掛純一+日本大学藝術学部彫刻コース有志『木湯』

木材が入った巨大プールでは、実際に触感や香りなどさまざまな感覚を通して木を体感できます。子どもの口に入らないほどの大きさの球体なので、幼児も体験できます。

そのほか、約760平方キロメートルある越後妻有の集落でユニークな作品が展示されています。作品は分散展示されているため、移動は車が便利ですが、新作や企画展を展開する拠点施設を中心に巡ることができるお得なバスツアーもおすすめです。

いずれも越後湯沢駅発着なので気になる人はぜひチェックを。

新潟に根づくマタギ文化とアート

〈大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024〉の会場となる越後妻有はおよそ200の集落があり、アートを道標にありのままのまちの姿を見て体験することができます。

新潟に根づく文化は食や農業、雪国ならではの暮らし方など多種多様ですが、秋山郷に伝わるマタギ文化もそのひとつ。江戸後期に秋田の旅マタギがこの土地を訪れ、結婚し、その技術を伝えたのがはじまりだと伝えられています。

狩猟者とは異なり、マタギの活動は山岳信仰に基づく独特の習わしに沿って出発から入山、狩猟、解体が進められます。家を出たら女性と会話してはいけないというのも、山の神が女神と信じられているからなんだそう。

そんなマタギ文化をアートへと昇華した作品をふたつ紹介。

ひとつめが、マタギたちが山の中の宿泊所として使っていた洞窟・リュウ内に描かれる壁画作品です。

洞窟内に描かれた永沢碧衣の壁画
永沢碧衣『山の肚』

山深くに位置する洞窟・リュウまでの道のりも壁画に描かれるマタギたちの文化を深く知ることができる体験といえます。

マタギの活動を写した映像が上映されている様子
深澤孝史特別企画展『秋山生活芸術再生館 ―田口洋美 秋山郷マタギ狩猟映像上映―』

ふたつめが、マタギの活動を写した映像作品。狩猟技術や儀礼を撮影した映像はここでしか見られない貴重なものです。

高齢化が進み、後継者問題を抱えるマタギたちの姿をテーマにした作品は若い世代にマタギを知ってもらい、新たな活動へとつながるきっかけとなるはずです。

アートを通して地域の持つ魅力を伝える

里山を舞台にした〈大地の芸術祭〉はアート作品を楽しむことはもちろんですが、作品めぐりの途中で出合う棚田や里山の風景、トンネルや土木建築物なども魅力。

「この芸術祭では、アートを通して訪れた人たちに越後妻有に暮らす人々の生活を感じてもらうことを大切にしています」

と、話すのは〈大地の芸術祭〉の総合ディレクターの北川フラムさん。

「AIやバーチャルアートが身近になってきましたが、それらは100年後もあるものなのでしょうか。開催地である越後妻有には、風土を生かした農業風景や民家、廃校になった歴史のある建物など、何百年と伝え続けられている、人の生活・文化があります。それらをアートと共に五感をフルに使って体感してほしいですね。一瞬で終わってしまうデジタルなものよりおもしろいと感じてもらえるはずです」

20年以上続く〈大地の芸術祭〉は、毎年日本国内はもちろん海外からの来場者も多く、リピーターは4割を数えます。

「アート」と「地域文化・生活」。ふたつのかけ合わせで生まれる化学反応をぜひ体感してみてください。

Information

【大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024】
会場:越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)
開催期間:2024年7月13日(土)〜11月10日(日)
料金/早期割料金:一般(大学・専門学校生以上)3500円、小学・中学・高校1000円、小学生以下無料(7月12日まで販売)
料金/通常料金:一般(大学・専門学校生以上)4500円、小学・中学・高校2000円、小学生以下無料
web:越後妻有 大地の芸術祭

credit text:石田絵美