新潟のつかいかた

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雪国・雁木 (がんぎ) のある
まち並みを
〈ニトデザイン&リビルド〉
打田亮介さんと巡る
上越市高田日帰りツアー Posted | 2025/02/28

新潟県民が新潟の魅力を発信する「新潟※(コメジルシ)プロジェクト」。その活動の一環として、新潟の魅力をよく知る人が、各エリアの魅力的な日帰りツアーをご案内。

今回は、上越市内を巡る旅を〈合同会社ニトデザイン&リビルド〉代表の建築士、打田亮介さんに案内していただきました。もともと北海道出身の打田さんは、東京の設計事務所で働いたのち、2016年に上越市に移住。以来、数々の町家のリノベーションを手がけています。

上越市は新潟県の南西部に位置し、海あり、山あり、川ありの自然豊かな上越地方の中心都市。港町の直江津と城下町の高田にエリアが大きく分かれ、高田のまちは江戸時代の高田城築城に伴って形成された、碁盤目状の整然としたまち並みが広がります。

いまも〈えちごトキめき鉄道〉高田駅を中心としたコンパクトな駅前エリアに、往時の風情を残す町家と、総延長16キロの日本一ともいわれる雁木のまち並みが残っています。

雁木とは、建物の庇(ひさし)を長く張り出して下を通路とし、主に冬の雪を防ぐ雪国ならではの建築様式。江戸時代に「この下に高田あり」と高札が立てられたほどの豪雪地帯である高田では、そんな雁木町家を生かし、近年、空き家をリノベーションした個性派な店舗が増え、ユニークなまちづくりが展開されています。

その立役者が、古い建物の改修や空間デザインを得意とする打田さん。案内してくれたのは、高田の古き良き趣を大切にしつつも、オリジナリティ溢れる店づくりや事業で個性を発揮する豊かな空間でした。

〈合同会社ニトデザイン&リビルド〉代表・打田亮介さん
数々のリノベーションを手がける〈合同会社ニトデザイン&リビルド〉代表の打田亮介さん。

モーニングも楽しめる、
コーヒーとサンドイッチの店〈CASUAL DAYS〉

高田のまちは、高田駅から徒歩圏内に見どころが凝縮しています。この日のツアーはまず、江戸時代からの職人町だった大町通り沿いの雁木町家をリノベーションして2023年にオープンしたカフェ〈CASUAL DAYS(カジュアルデイズ)〉からスタート。バリスタの齋藤直樹さん夫妻が切り盛りし、サンドイッチとエスプレッソマシンによるコーヒーを提供しています。

「朝8時からの営業で、高田のまちにいままでなかった朝食が食べられるお店ができてうれしい」と打田さん。一番人気の「キューバサンド」をはじめとするホットサンドと食パンを使ったサンドイッチのほか、朝限定のモーニングプレートの提供もあり、イートインもテイクアウトもOKです。

「キューバサンド」とカフェラテ
「キューバサンド」(700円)とカフェラテ(550円)。イートインの場合はサンドイッチにサラダと惣菜が付き、テイクアウトはサンドイッチ単体での提供。

建物は町家ならではの、間口が狭く奥行きが長い、いわゆる「うなぎの寝床」。細長い敷地を生かし、入り口付近に注文カウンターやキッチンを設け、奥の10席ほどの客席を吹き抜けにして2階部分から彩光することで明るく開放的な空間が生まれています。

〈CASUAL DAYS〉の店内

リノベーションを担当した打田さんによると、解体時は柱や梁にダメージを受けているなど、さまざまな対策が必要だったそう。それでもこれまでの古民家改修の豊富な経験から、昔ながらの梁や柱を生かした落ち着きのある空間が生まれています。

〈CASUAL DAYS〉店主の齋藤直樹さんと打田さん
店主の齋藤直樹さんと話す打田さん。

Information

【CASUAL DAYS】
address:新潟県上越市大町5-1-16
tel:080-9993-1587
access:高田駅から徒歩約7分
営業時間:8:00~17:00
定休日:火曜、第2・第4水曜

高田に現存する最古かつ
最大級の町家〈旧今井染物屋〉

続いて訪れたのは、CASUAL DAYSから大町通りを北に150メートルほど進んだ〈旧今井染物屋〉。江戸時代末期に建てられた、市内に現存する町家のなかでも最も古い最大級の町家です。保存状態も良好な高田を代表する町家として価値が高いことから、2019年8月に上越市文化財に指定されました。

〈旧今井染物屋〉の外観
古い形態の「造り込み式」の雁木。通路の上部は物置や住居に使用されていました。

旧今井染物屋という名のとおり、かつては染物屋を営み、多くの職人や使用人が住み込みで働いていたという建物。現在は建物の保存を兼ね、約130年続いてきた高田の地場産業である「バテンレース」の常設工房を設置し、地域文化の継承と発信の拠点として活用されています。

バテンレースの日傘
農閑期に女性の内職として大流行したバテンレース。高田の一大産業として発展し、明治時代には高田の人口の3分の1が従事するほどの基幹産業だったとか。

「以前はこの近くに住んでいて、実はここの店番を務めていたことがあるんです。観光客が来たら建物の説明をしていました。だから、ここは僕のなかでも思い出の地です」と打田さん。

建物内部のチャノマ(茶の間)は三間四方もあり、太い梁に細い梁が整然と組まれ、天井が張られていない吹き抜けの開放感のある空間が広がります。技術的にも意匠的にも洗練され、雪国高田の町家の特徴をよく表した建物です。

〈旧今井染物屋〉の建物内部
チャノマ(茶の間)やザシキ(座敷)を抜け、裏手の土間へと続く空間。

Information

【旧今井染物屋】
address:新潟県上越市大町5-5-7
tel:025-520-9788
access:高田駅から徒歩約10分
営業時間:10:00~17:00
休館日:月曜、祝日の翌日、年末年始(12月29日~1月3日)

まちの“たて(歴史)”と“よこ(住民)”を
つなぐ書店〈たてよこ書店〉

次に目指したのは、旧今井染物屋から徒歩5分ほどの〈たてよこ書店〉。雁木町家をリノベーションして2022年末にオープンした小さな書店です。

古本を中心に、ZINEや独立系出版社の新刊本も設置している店内では、家族や友人などに向けて手紙が書けるスペースも。最近では、コーヒー屋やタコス屋を併設したり、2階建ての離れ(別棟)を子どもの遊び場としてアスレチック施設にしたり、新たにセレクトショップを設けたりと、多彩な取り組みを展開しています。

〈たてよこ書店〉の店内
10畳ほどの広さの店内に、古本など数百冊が並んでいます。

店主の堀田滉樹さんは上越市出身。東京の大学に通っていた学生時代に地元で本屋業を開始し、現在は都内との2拠点生活で店を営んでいます。

「オープン前から高田で書店をやりたいというおもしろい若者がいると知り合いから聞いていました。高田には朝市が立つのですが、リヤカーで朝市に古本を持っていって売るなど、とにかくいろいろなことをやってみたいというチャレンジ精神のある若者が、このまちで本屋をやりたいというのはすごくいいなと思いました」と打田さん。

店内に並ぶオリジナルZINE
店主の堀田滉樹さんが自ら執筆したエッセイ集もオリジナルZINEとして販売。

この建物は、雁木町家の再生を目指す一般社団法人〈雁木のまち再生〉から紹介を受けた物件を活用しているそう。

「いままで地域になかった古本屋ができたことで、まち歩きにいいスポットができましたし、まちの文化度も上がりました。店を運営していくうえで大変な部分もたくさんあるでしょうが、みんなが応援しています」と話す打田さん。実際、取材に訪れた日はタコス屋の店主が店番をしており、地域の助け合いの精神が感じられました。

壁に本がディスプレイされた一角
店の奥が〈たてよこキッチン〉になっていて、自家焙煎コーヒーや本格派のタコスが味わえます。

Information

【たてよこ書店】
address:新潟県上越市東本町2-1-4
tel:なし
access:高田駅から徒歩約15分
営業時間:13:00~19:00(冬季は~18:00)
定休日:不定休
web:たてよこ書店 オンラインショップ

〈武蔵野酒造〉のお酒4種

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