醤油や味噌、粕漬け、かつお節、酒……日本は世界有数の発酵食大国。その歴史は古く、各地域の風土に根差した多種多様な発酵文化があります。
発酵文化が築かれていく上で大切なのは、発酵に適した気候や風土。日本の夏の高温多湿になる気候だけでなく、厳しい冬の寒さにより微生物の活動を制御し、安全に発酵することができる環境が、新潟にはあります。
さらにはミネラル豊富な山の伏流水や清らかな雪解け水、それによって育まれた米や大豆など、発酵食に適した良質な素材が新潟には目白押し。
昨今の健康食ブームには欠かせない新潟の“発酵”を、旅するモデル・斉藤アリスが巡ります。
Profile 斉藤アリス
雑誌『Hanako』(マガジンハウス)のライターで、自身の世界のカフェめぐりをまとめた本『斉藤アリスのときめきカフェめぐり』(エイ出版)を著書に持つ。
辛さに潜む旨み〈かんずり〉の秘密、濃厚なとん汁と共に
かんずりの主役・唐辛子を雪にさらして、アクと塩を抜く
1月下旬、大寒入りの頃。新潟・妙高では、新潟の発酵香辛調味料〈かんずり〉で使用する唐辛子の〈雪さらし〉が大々的に行われます。
かんずりは、雪にさらした唐辛子に、麹やゆず、食塩を加えて寒中に仕込み、3年以上熟成発酵させて作られる新潟の発酵食品のこと。雪さらしとは文字通り、唐辛子を雪にさらすこと。会場には幅180センチ、長さ20メートルの雪の土台が数列並んでおり、そこに1列あたり100キロほどの唐辛子を、凍てつく寒さの中、人力で撒いていくのです。
降りしきる雪の中、天然海塩で漬け込んだ新潟産の長くて肉厚な唐辛子を大胆に撒いていきます。雪に撒く理由は、唐辛子が持つアクや塩気を抜くため。また、マイルドな辛みにする役割も担っているそうです。
空や大地、家々まで、あたり一面真っ白な雪原の中、真っ赤で大ぶりな唐辛子が空を舞う様子は、圧巻。その赤と白のコントラストの強さは、目を見張るものがありました。
降雪があったため、撒いた瞬間から唐辛子がどんどん雪に埋もれていきます。3〜4日このままさらしたら、ネットを掘り起こして回収後、洗浄して元仕込みの工程へうつります。この掘り起こしの作業が実は重労働で、雪が1メートル積もるときもあるそう。
なぜ、ここまで労力をかけて雪さらしをするのでしょうか。はじまりは、軒下に唐辛子が落ちて雪に埋もれ、それを数日後掘り出してをかじってみたら、アクが抜けていておいしかったから、という実にシンプルなもの。また、水でさらすよりゆっくりアクが抜けていくから、雪に撒いたほうがちょうど良い仕上がりになるといいます。今ではそれがかんずりを作るのに大切な作業工程のひとつとなっているそうです。
小学3年生のときに収穫体験をして、冬場に仕込み、6年生になったときに完成する〈卒業かんずり〉などの体験もあり、自然を有効活用した地域のイベントとして、地元の人から愛されています。
旨みを増幅させる熟成発酵、ひと口食べれば病みつきに
雪さらしが完了した唐辛子に、糀と塩、ゆずを加え、細かく刻んだ後、蔵で熟成発酵させます。その間、なんと3年以上。温度変化によって味にムラが出ないよう、置き場所を定期的に変えているといいます。
でき上がったかんずりをボトリングしたら、ボイラーに入れて加熱処理をし、殺菌・発酵を止める作業へ。加熱処理をしない〈生かんずり〉もあり、ゆずの風味がより一層際立っていておいしいことから、全国の有名割烹やホテルのシェフも隠し味として使用しているといいます。こうして手間ひまをかけてつくられるかんずりの年間生産量は、およそ50万本。製造特許取得、商標登録済みなので、〈かんずり〉といわれるものはすべてここで作られています。
有限会社かんずりの生産開発部栽培管理責任者の佐藤一茂さんは、次のように話します。「寝かせて糀の発酵を進めるほど、素材全体に統一感が出てきて味が馴染んでくる。また、寝かせるほど塩の角が取れ、まろやかな味わいに変化していくから、ひと口に同じかんずりと言っても、発酵具合によってまったく別物のように感じられるのではないでしょうか」。6年もの(非加熱)と3年ものを味見してみました。
前者はコクがあって、深い味わい。辛さもすっかり取れて、落ち着いた味のように感じます。後者は辛さが立っていて、ゆずの爽やかな香りが鼻へ抜けます。
香辛調味料とあるだけに、どちらも辛味の後に、麹の旨みが存分に味わえました。和のイメージがありましたが、実際口にしてみるとマイルドなスパイシーさやゆずの爽やかさ、発酵によるコクや旨みが広がって、洋風の料理にも合うことを確信。
実際、地元の方々は、お刺身やお味噌汁などの和食の他に、カレーやピザ、クリームチーズと合わせたカナッペなど洋風料理にも使うことがあるそうです。なかでもマヨネーズに絡めてイカの一夜干しを食べる食べ方がおすすめなのだそう。アレンジは無限大!
生のかんずりはここ本店の売店と、道の駅あらいのみでしか手に入らない希少品。蔵出し一番の味を堪能するなら見逃せないですね。アリスさんも大興奮でかんずりを大量購入していました。
卒業かんずりってすてきだなと思いました。私は地元を離れてから初めて地元の良さを知ることができたので、そういう地元ならではの思い出って、きっと一生の宝物になるんじゃないかな。
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あったかうまい、からだにしみるとん汁、時々、かんずりで。
新潟の本格的な冬を体感した後は、すっかり冷えた体を温めに、とん汁専門店〈とん汁たちばな〉を訪れました。たちばな名物〈とん汁定食〉をいただきます。
同店のとん汁は、玉ねぎ、豚肉、豆腐の3つから構成されるシンプルなもの。だけど最後まで飽きずにいただけてしまうのは、大きめにカットされた具材にもしっかり味がしみ込んでいて、食べ応えがあるから。
それもそのはず、スープの8割が玉ねぎの水分から出たものなので、玉ねぎの甘さがギュッと濃縮されていて、とにかく濃厚な味付け。スープに溶け出した玉ねぎのとろとろでなめらかな口当たりにより、最後まで熱々。はふはふしながら口に運べば、いてついた体が芯からほぐれる感覚を味わえます。
「うちのとん汁はメインになるから、具だくさんの味噌汁ではなく、シチューに近いおかず感覚で召し上がってもらえると思います。煮込み時間は40分なんですけど、代々継ぎ足してつくっているからこの深い味わいを短時間でつくり出せるんです」と同店専務取締役の松澤崇さん。
昭和47年に創業した同店。もともとは、国道沿いにあることから、トラックの運転手たちに愛されていた食堂だったそう。かつてはラーメンやカツ丼などさまざまなメニューを置いていましたが、とん汁人気が高まり、今日に至るのだとか。ほかでは味わえない、納得の味に舌鼓を打つアリスさん。
お好みでトッピングにかんずりをチョイス。甘いスープに溶かせば、味が引き締まって良いアクセントに。玉ねぎの甘さとかんずりの爽やかな辛さが絶妙なハーモニーを生み出していました。
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宿泊は格式高い絶景の赤倉観光ホテルへ
創業80年以上もの歴史を持つ〈赤倉観光ホテル〉は、国際スキー場の発祥の地。のちにホテルオークラ東京を創った大倉喜七郎により設立。ホスピタリティも抜群な、オークラスピリットを継承している格式高いホテルです。
標高1,000メートルにそびえ立つ同ホテルからは、雪化粧した野尻湖や妙高山などを一望できます。気象状況によっては雲海が発生することもあるので、運が良ければ眼前に広がる壮大なパノラマの目撃者になれることでしょう。
食事は懐石料理・本格フレンチから選べます。今回選んだのは和食。先附から水菓子まで9品の新潟の幸を味わえます。旬の素材を使った豪勢な料理を贅沢にいただきましょう。
赤倉観光ホテルについては、〈コロカル〉の「おでかけコロカル 新潟編」にて、詳しく紹介しています。記事はこちらから↓
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〈越後みそ西〉、和洋で楽しむ 】