新潟の燕市と三条市は、金物や洋食器などで有名なモノづくりのまち。
燕三条エリアの工芸や文化に触れる旅へ出かけたら、その帰りにぜひ立ち寄りたいのがほっとひと息つけるカフェ。
田園に囲まれた〈KKVEL〉、中世ヨーロッパを思わせる〈LAND.〉、本と喫茶〈SANJO PUBLISHING〉、小さな複合施設〈ツバメコーヒー〉。
わざわざ足を運ぶ価値がある個性豊かなカフェを、モデルでカフェ好きの斉藤アリスが巡りました。
Index この記事の目次
田んぼに佇む薪窯カンパーニュと自家焙煎コーヒー店〈KKVEL〉
見渡す限り広大な田んぼと青空が広がるなか、突如現れるシックな建物がカフェ〈KKVEL(クベル)〉。
ここは薪窯カンパーニュと自家焙煎コーヒーのお店で、2021年3月にオープンしました。
郊外にもかかわらず、取材中もひっきりなしにお客さんが訪れるほどの人気ぶりです。
店外には窯での燃料である薪が山積みに。パンを焼く香ばしい香りが風に乗って漂ってきます。
さっそく、アリスさんとお邪魔しました。
たっぷりの日差しが差し込む店内は、どこを切り取ってもおしゃれでスタイリッシュ。
人気の席は、もちろん窓際。
窓の位置が低く設計されているので、着席して初めて圧巻の田んぼビューを堪能することができます。
オーダーしたのは、しっとりふわふわの台湾カステラと本日のコーヒーであるグァテマラ。
台湾カステラをはじめ、KKVELで焼いたパンや焼き菓子は、三条市産の小麦や村上市の笹川流れの塩を使用しており、新潟県内の“おいしい”が詰まった一品です。
コーヒーのこだわりは、焙煎の見極め。
豆の種類によって焙煎を定めているのではなく、豆の状態を見ながらベストな焙煎度合いに調整しているそう。
「台湾カステラの生地の下にはザラメがついており、ジャリジャリとした食感のアクセントが楽しい。コーヒーも分厚いマグカップだから保温力が高くて、ゆっくりのんびり飲めますね」と、アリスさん。
KKVELの看板メニューであるカンパーニュの製造現場も見学させてもらいました。
カンパーニュはできたてよりも2〜3日寝かせて食べると味にまとまりが出てくるのだそう。
実際に食べてみると、酸味がアクセントのあっさり素朴な味わいなので、何にでも合いそうです。焼いて食べるともっちり感がアップします。
おすすめはカンパーニュにクリームチーズをのせてハチミツをたらす食べ方と、薄くスライスして生ハムと一緒におつまみ感覚でいただく食べ方。
毎日の朝食が楽しくなりそうな一品です。お土産にひとつ、いかがでしょう。
Information
築90年超の医院を中世ヨーロッパの世界観にリノベした〈LAND.〉
壁面に這う蔦(つた)が美しい一軒家のカフェ〈LAND.(ランド)〉。
実はここ、築90年以上にもなる病院をリノベーションしてカフェに生まれ変わったのです。
中世ヨーロッパのまち並みをイメージしてつくられたLAND.。
タイル地の床は、まるでイタリアの石畳のようです。
今回はLAND.で一番人気のワッフルと、たっぷり2杯は飲めるフレンチプレス式のコーヒーをオーダー。
新潟県産〈ゆきちから〉の小麦粉を使用したワッフルは、もちもちとした弾力を楽しめます。
大ぶりなので食べ応えも抜群。メープルシロップをかけ、添えられた燻製ベーコンと一緒に口へ運べば、クセになる甘じょっぱさでぺろりと1枚食べられちゃいます。
コーヒーは長岡市の焙煎スペシャリストである〈ナカムラコーヒーロースターs〉の豆を使用。
フレンチプレスで提供しているから、豆の油分や香りなどをダイレクトに味わうことができます。
「広々とした空間だからゆっくり過ごすのに最適。Instagramにあげたくなるカフェですね」とカフェ好きのアリスさんも絶賛。
さて、今度来る時はどの席で一服しよう?
Information
アイデアを刺激する本と定番ナポリタンで一服
〈SANJO PUBLISHING〉
三条市の中央商店街に構える、本と喫茶の店〈SANJO PUBLISHING(三条パブリッシング)〉。
三条市はモノづくりのまちとして栄えているため、本のセレクトもモノづくりのインスピレーションになるようなものを、あらゆるジャンルからピックアップしています。
本を読む習慣がない人でも手に取りやすいように、本の並びにも工夫が。
入り口近くはラフで定番のものを、店の奥に進むにつれ文芸やデザインなどコアな内容の本が置かれています。
しかも、購入前の本でも喫茶を利用しながら読むことが可能。
読書に対してのハードルを下げ、もっと本を身近に感じてもらいたいからなのだとか。
お気に入りの一冊を選んだら、さっそく腹ごしらえをしましょう。
生クリームとバター、隠し味にたまり醤油を加えた濃厚なソースが、もっちりとした太麺に絡んで食欲をそそります。
ちなみにアリスさんが食事しているこの大きなテーブルは、小学校の図工室で使用していたもの。
本屋でもコンビニでも立ち読みができず、本に出合うシーンが限られているなかで、なるべくフランクに本を読んでもらえるように、ぴかぴかの高級テーブルではなく、絵の具がはねたこのアトリエテーブルを採用したそうです。
「これなら気兼ねなく長居できちゃいますね」(アリスさん)
「自分の居心地がよい場所を見つけて、じっくり本を読めるのはいいですね。クリエイティビティが刺激されます」と読書に没頭するアリスさん。
喫茶店として利用しようと思って入ったら、思いがけず本に目を奪われてしまう。おもしろい本を探しに来たら、コーヒーとナポリタンのいい香りに誘われてしまう。
そんな、本と喫茶のシナジーが生まれる不思議な空間でした。
Information
ランドリーにヘアサロン、読書、看板犬。多様な過ごし方ができる〈ツバメコーヒー〉
新潟県出身のイラストレーター・大塚いちおさんが手がけたツバメのロゴが目印の〈ツバメコーヒー〉。
新潟のちょっといいものから生活が豊かになりそうな雑貨のセレクト。
建築やデザイン、アート、哲学を中心に店主の思考を反映した書籍が並ぶ本棚。
併設されたヘアサロンと入場料制のブック&コインランドリー。
看板犬の“黒スケ”、そしてカフェ。
ツバメコーヒーは、思い思いの過ごし方ができる小さな複合施設でもあります。
世の中がどんどん便利で豊かになっていく一方で、排除されてきた非合理性やムダの中に、思ってもみない楽しさがあるのではないか。
そんな視点を取り入れたのが、新たにオープンした入場料制のブック&コインランドリー〈WASH AND BOOKS〉。
洗濯をしながらあえてムダな時間を生成し、本を読むインプットの時間に変えていきます。
当初ヘアサロンを盛り上げるためにオープンしたツバメコーヒーですが、現在はそんな偶然の発見を楽しむ場所として、さまざまな要素が加わりながら今もなお、姿を変え続けています。
カフェスペースにある大きな本棚には、アートフリークな人にはたまらない本がたくさん。
「普段読まないジャンルだからこそ、インスピレーションを得られそう」とアリスさん。
「クセがなく後味もすっきりしたコーヒーだから、毎日飲めそう。ガトーショコラは濃密なのにあっさり軽い口当たり。甘さもほどよくてホイップと相性抜群ですね」(アリスさん)
コーヒーを飲みにきたのに、ついつい買い物もはかどってしまいそうです。
目的とは違った楽しみ方を発見できるツバメコーヒー。
終始ワクワクが止まりませんでした。
Information
旅のついでに寄ったつもりが、旅の目的にもなりうる燕三条エリアのユニークなカフェ。一度訪れてみる価値はありそうです。
※価格はすべて税込です。
credit model:斉藤アリス photo:ただ(ゆかい)
text:藤田佳奈美