新潟の食卓に欠かせない〈越後みそ西〉、和洋で楽しむ
味噌の要“麹”は生き物。生き物と対峙する手入れ作業
発酵食品の代表格といえば、“味噌”。身近な調味料だからこそ、どうつくられているのか知っておきたいところ。新潟・柏崎の山々と田園に囲まれた一角にある〈越後みそ西〉は、1831年創業の味噌界のパイオニア。発酵の秘密を探しに、工場見学にうかがいました。
「麹菌は生き物」と語るのは、杜氏で製造部長の西巻洋一さん。これは“手入れ”という作業で、味噌づくりに欠かせない麹菌を活発にさせるため、自らの手で菌を付着させた米をかき混ぜます。
「普通のご飯を炊く要領でお米を水で炊くと、粘り気が出て米同士がくっついてしまうでしょ。そうするとダマになって、菌が中に入っていかない。それは水分が多すぎるからなんです。麹づくりの場合は水につけた生米を炊かずに蒸して、サラサラに仕上げる必要がある。その後、麹菌をつけて布で包んで寝かせ、30〜40度の温度で保たせます。生き物ですから、生きやすい温度というものがあるので、つきっきりでみてますね。麹菌がきちんと活発にならないと、お米の甘みも大豆の旨みも出てこない。全体の味がぼやけちゃうんですよ。だから麹菌は味噌の要なんです」(西巻さん)
この段階の米は意外にも芯がなく、グミのような食感。この後さらに寝かせ、製麹機を介して風通しを良くしたら、ふわっとした産毛のような麹菌が生えてくるのだそう。
「昔から麹づくりは冬場に行われることが多いです。新潟の冬は気温も湿度も低いから、雑菌が繁殖しづらい。夏は温度を下げる調整が大変でね。今は温度調整ができるから通年でつくれるけど、安全な水や、お米・大豆の産地で原料を入手しやすいという環境もあって、新潟は味噌づくりには適していると思います」(西巻さん)
酵母菌が住んでいる“木桶”で育まれる、味わい深い味噌
蒸したお米に麹菌を付着させ米麹をつくったら、煮て潰した新潟県産の大豆〈エンレイ〉と塩、水を合わせていきます。
最大で味噌を約4トンも仕込める杉の木桶が10本あり、100年以上も使い続けているのだとか。酒屋さんで50年使われていたものが、味噌蔵に回ってきたものも多く、たくさんの微生物が住み着いています。「それらが織りなす味わいというものがここにはある」と話すのは、専務取締役の杤堀佳倫さん。
「ステンレス製の桶だと衛生面では管理しやすいかと思いますが、微生物が住み着かない。うちのこの木桶に住み着いている微生物があってこその、うちの味噌だと思っているので、この木桶は欠かせない宝です」(杤堀さん)
手間ひまかけて作った米麹と、旨みが抜群のエンレイ大豆、微生物の働きが一役買っている木桶、これらのこだわりが合わさって、〈越後みそ西〉の味噌はつくられていました。
人が20人くらい入れそうな大きな味噌樽の中を覗かせてもらいました。この樽の中には酒屋の育てた菌がいて、その菌が今度は味噌を育てる。だからこそおいしい味噌になる、という目には見えない地元の菌の連携に感動しました。
料理に合いやすい味噌づくりを目指して
「その時々の採れる素材や、時代の流行などは違うため、同じものをつくり続けるのは正直とても難しい。発酵は進めば進むほど味も風合いも変わってしまいます。ですが、職人たちから職人たちへ伝承された技や伝統的なつくり方、麹菌の声を聞くこと、料理に合う味わいなど、味噌づくりへのスタンスは創業当時から変わりません」(杤堀さん)
〈糀〉は、淡白でさわやかな甘み、〈田舎〉はコクや旨みをしっかり感じられ、〈特撰〉は程よい甘みと旨みが。寝かせるほど味に深みが増します。
〈越後みそ西〉の味噌は、大豆と米麹の比率が大豆に対して麹6割。米麹の比率を上げると甘めの味噌ができ上がるのですが、料理にすると味全体がボケやすいそう。大豆の旨みがより引き立つ同社の味噌は、どんな料理にも合いやすくなるといいます。
こちらは塩漬けを2回した後に数回別の味噌へ漬け替えながら、6か月漬け込んだ味噌漬け。水飴やみりんなどの糖類を加えて調整した味噌の漬け床に漬け込んでいるから、噛めば噛むほど旨みと甘みも出てきて風味豊かな味わいです。新潟の素材がぎゅっと詰まった〈越後みそ西〉のこだわりを堪能したひとときでした。
Information
〈越後みそ西〉と柏崎食材のハーモニー、洋食で堪能
〈越後みそ西〉からすぐの〈里山cafe I’m Home〉では、生まれも育ちも柏崎の兄弟が作る、〈越後みそ西〉の味噌と地元の素材を使った料理が食べられます。
「実家が飲食店なのですが、そこでもみそ西さんの味噌を使っていて、昔から馴染み深い味でした。このお味噌は料理に使ってもしっかり香るのに、嫌な感じで残らない。蔵も見学させてもらっていて、どうやってつくっているのかを知ることができて、そして何より生産者の顔が見えるから、お客さんにもこだわりを説明しやすいですね」と話すのは、同店シェフ・西村遼平さん。
料理とマッチするというのは、先ほどの〈越後みそ西〉の杤堀さんが話していた通り。ここでは地産地消が推奨されており、地元・柏崎産の素材も味わえます。グラタンの具材に鮭がチョイスされたのは、味噌を活かすために考案したからなのだとか。
「味噌にあう具材を考えた時、ちゃんちゃん焼きのようなイメージが浮かびました。そこからグラタンに落とし込んでいく過程で、普通グラタンには玉ねぎですが、味噌との相性を考えて長ねぎを採用しました」(西村さん)
ほかにも思わず写真を撮りたくなるようなかわいらしい盛りつけに、シンプルだけど料理が映えるお皿にも注目です。
ハイセンスな料理を提供していますが、〈夢の森公園〉という開放的でアットホームな公共施設内にあるため、親子連れや初めての人でも入りやすい同店。地元の素材を生かしたした料理が食べられるので、ぜひ足を運んでみてはいかが。
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日本酒にあり、彌彦神社で心も美しく 】