ふるさと・新潟に恩返ししたい
高校を辞めてDJになり、アルバイトなどをしながらもがき続けましたが、音楽で“食える”ようになる未来をなかなか思い描けない時代も長くありました。上京当時は、「職業=DJ」になれるだけで御の字と思っていたのです。
「DJを職業にできるようになるだけでも天文学的な確率かと思っていましたが、いまの状況は、僕が望んでいた以上のものを得られています」
好きという一心でがんばり続けていたら、ここまで到達できました。しかしそのがむしゃらな行動ゆえに、いろいろなものを見過ごしてきたようです。自分は一般的な社会人とは違う道を歩んできたという自覚がありました。
「自分は学校を辞めてまで、ヒップホップ、DJの道へ進みました。みんなが大人になっていく過程で当たり前に通る大学生活や就活、そして社会の一般的なマナーやルール、そういったものから一線を引いた場所に身を置いて、しかもそれがかっこいいという価値観の世界にいたわけです」
しかし一定の成功を掴んだからこそ、見えてくる地平もありました。
「今では事務所に入って、スタッフが支えてくれて。とんでもなくたくさんの人が携わっているプロジェクトのド真ん中にいる。大きく遠回りしたけど、気がついたら社会の一員になっていました。そういうことにちゃんと向き合えたのは、去年くらいのことです」
社会の一員であることに気がついたとき、DJ松永さんのモチベーションは方向がひとつではなくなりました。
「もう自分のためだけにはがんばれない。自分ががんばることが、人のためになるという価値に気がついたんです。利己的なことと利他的なことは両立ができるんだと。これまではがんばるモチベーションの矢印が自分にしか向いていなかったけど、外にも向くようになりましたね」
その矢印のひとつは、大好きなふるさと・新潟に向かっているといいます。
「いま自分がここにいるのは、奇跡的な出会いと巡り合わせ、そのひとつひとつの重なりのおかげ。何かひとつでも足りなかったら、今の僕はいません。その大部分を新潟・長岡時代が占めています。ヒップホップを好きになったのも、DJになると決意したのも、長岡。だからやりがいのモチベーションのひとつに、地元への恩返しがあります」
DJ松永というアーティストの原点は間違いなく、新潟にあります。表現活動をする人にとって、そうした原点が重要であることを、松永さんも自覚しています。
「こういう仕事をしていて思いますが、人のセンスとか好きなものって、原体験からは離れることができない。結局、そのときにかっこいいと思ったものの延長線に過ぎないですよね」
松永さんにとってその原体験は、新潟にいた中学2年生のときに訪れたわけです。
「俺にとっては長岡のアパレルショップであり、友だちと語り合った〈原信カフェ〉であり、その後お世話になったレコード屋の〈ワンループレコード〉である。そういう長岡時間のすべてが、俺の根っこを形成しています」
だから今度は地元に恩返ししたいというDJ松永さん。これからどうやって恩返しをしていくのでしょうか。
これだけ新潟愛を語れば、すでに恩返しできているようにも思えます。しかし松永さんは、みんなに同じことを強要したいわけではありません。「ふるさとへの関わり方は人それぞれの距離感でいい」と言います。上京してから気がついたって遅くはありません、DJ松永さんだってそうでした。それぞれの思いでふるさとを忘れないことが大切なのだと教えてくれました。
Profile DJ松永(Creepy Nuts)
新潟県長岡市出身。DJ、Track Maker、Turntablist。ラッパー・R-指定と〈Creepy Nuts〉を結成。イギリス・ロンドンで行われた世界最大規模のDJ大会〈DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019〉で優勝し、世界一のDJに。オリンピックの東京2020閉会式に出演するなど多方面で活躍中。
※現在、『新潟のつかいかた』では、「Twitterフォロー&リツイートキャンペーン」を実施中! そのキャンペーンアンバサダーに、長岡市出身のDJ松永さんが就任しました! 米菓やふるさとグルメが当選するキャンペーンなので、ふるってご応募ください。詳細はこちらまで。
credit photo:ただ(ゆかい) text:大草朋宏