伸縮性があり、着心地のいいニット
1951年に創業し、現在は国内最大級のニットメーカーとして知られる〈第一ニットマーケティング〉。2020年にファクトリーブランド〈トレンタセッタンタ(30/70)〉を立ち上げました。ファッションディレクターの干場義雅さんをブランドプロデューサーに迎え、シンプルで流行に左右されないスタンダードなニットウェアを提案。カラー展開は黒のみ、クルーネックやタートルネック、Vネックなどベーシックなアイテムで勝負しています。
松永さんが着用したのは、リネン100%のケーブル編みのVネックプルオーバー。サイドにジッパーがついたインパクトのあるパンツと合わせたスタイルを披露してくれました。
「普段オーバーサイズの服を着ることが多いのですが、このニットはジャストサイズでも体の締め付けを感じにくく、快適です」と松永さん。
第一ニットマーケティングはハイゲージニットを生み出す「18ゲージ」という編機を国内最多の50台以上所有。ひと目がぎゅっと詰まっているので、伸縮性抜群の編み地をつくることができます。ひと目わずか数ミリの編み地は縫製がとても難しいのですが、熟練のスタッフがずれないようにつなぎ合わせることで、この着心地のいいニットが生まれているのです。
ニットの話をしていると、松永さんからこんな本音が漏れました。
「気に入って何度も着ていると毛玉ができますよね。毛玉を取るうちに生地が薄くなったり、伸びたりしていくので自宅でのケアはなかなか難しいなと思っていて」と苦笑い。
そんな悩みを解消してくれるのが〈トレンタセッタンタ(30/70)〉のニット補修サービス。ほつれやひっかけ、虫食いなどダメージができてしまったニットを工場に送ると、丁寧にケアして返送してくれるのです。
「デリケートなニットだからこそ、大事にケアしながら長く着られるというのはうれしいですね。真夏などのオフシーズンに出しておけば、また次のシーズンに楽しめそうです」
Information
素材の特性を生かし、
防寒性があり、着心地のいいニット
分業体制をとっているニットメーカーが多いなかで、編立から裁断、縫製、検品まですべての工程を一貫して行い、品質の高いニットを生み出しているのが、五泉市にある〈高橋ニット〉です。〈PRODIGAL〉は高橋ニットが企画、デザインを自社で行い、“あなたがあなたらしくいられる”をコンセプトにしたファクトリーブランド。
「コーディネートの幅が広がるのでベストは好きなアイテムのひとつ」という松永さんが着用したのは〈PRODIGAL〉のオーバーサイズのベスト。アームホールがゆったりとしているのでシャツやカットソーなどさまざまなアイテムと重ね着もしやすいシルエットです。
このニット、実はカシミヤ100%でつくられています。
「見た目以上に軽くて驚いたのですが、カシミヤだからなんですね。たしかに着るとしっかり暖かいです」と松永さん。
高橋ニットはハイゲージからミドルゲージ、ローゲージなど編み方を変えるなどして、素材の特性を生かしたものづくりに定評があります。ひとくちに“カシミヤ”といっても、ふわっとやわらかいものからしっかりしたものまでさまざま。
上質なカシミヤの糸を使って編み上げてもすぐにふわふわの風合いになっているわけではありません。縮絨という工程によって編み目が詰まり、生地に厚みを出すことができます。水の温度や洗う時間、乾燥方法などによって風合いはまったく異なるものになるため、イメージする仕上がりによってそれらを細かく調整するという繊細な作業が必要になってきます。
〈PRODIGAL〉のカシミヤニットは、なめらかな肌触りをキープしつつ、しっかりめの仕上がり。目が詰まっていることで防寒性が生まれ、さらに耐久性も上がります。そして、着ていくうちに風合いが増し、やわらかく、なめらかになっていくそうです。
独特の凸凹は畦編み(あぜあみ)という手法によるもの。畦編みは厚手のニットによく使われる技法ですが、縫製や使う糸によって着心地や肌触りに差が出ることから、非常に高い技術を要します。高橋ニットはこうした編立から検品までの工程を一貫して管理しているため、一定のクオリティを保つことができ、上質な製品を生み出すことができるのです。
「カシミヤって繊細なイメージがあって、なかなか手を出せずにいたのですが、こんな感じで気負わずラフに楽しめるのもいいですね」
高橋ニットは〈PRODIGAL〉以外に、〈toiro〉、〈nacnarumade〉といったオリジナルブランドも展開。ニットの可能性を追求し、選ぶ楽しみを広げています。
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異素材や編みと織りを
組み合わせる高い縫製技術
「これもニットなんですか!?」と松永さんが驚いたのが、ウメダニットが手がけるブランド〈WRAPINKNOT(ラッピンノット)〉のオーバーサイズTシャツ。五泉市で60年以上の歴史を持つウメダニットが、2012年にスタートしたコレクションブランドです。編みと織りを組み合わせたり、異なる素材をかけあわせるなどテクニックが効いたアイテムを多数発表しています。
今回松永さんが着用したアイテムは、高い縫製技術を必要とするウール素材でつくられたもの。ほどよい光沢感のあるウールジャージー素材を緻密な縫製技術によって端正な表情に仕上げています。ウールは高い吸放湿性や消臭性を持ち、真夏に着ても汗の匂いが気にならず、肌にまとわりつかずに快適に着られる素材。程よい厚みで寒い季節はインナーとして着られるので一年中活躍します。
こちらのウールジャージーシリーズはすべて洗濯耐久性があるため、ホームクリーニングも可能。快適な着心地を長く楽しむことができるのです。
「夏でも着られるなんてすごいですね。自宅で洗濯ができるのもうれしいです」
同じ素材でつくったパンツもあり、セットアップで着用も可能。ゆったりとした着心地ながら、きちんとして見えるところが上品なニットウェアの強み。出張や旅行の移動中、家で過ごすときのリラックスウェアとしても重宝します。
ふだん家ではどんな格好をしていますか? と松永さんに聞くと、ハッとした表情でこんな話をしてくれました。
「そういえば僕、寝巻きと部屋着の区別がついていないことに今気づきました(笑)。起きてそのままの格好で曲をつくったり、ごはんを食べたり。近くのコンビニに行ったりもしてしまいます。家で仕事をするとなかなかオン・オフの切り替えが難しいなと思っていたのですが、着替えればいいのか! スティーブ・ジョブスがブラックのタートルニットを定番で愛用していたように、僕も家で過ごすときの定番としてニットのセットアップを着るのもいいかも。快適に仕事ができそうです」
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新潟生まれのニットは品質の高さ、バリエーションの豊かさが魅力。流行に関係なく、長く着られるエッセンシャルなデザインが多いので、自分のワードローブに加えたいアイテムがきっと見つかるはず。
「ニットって自宅でのケアが難しかったり、動きにくいイメージがあったんですが、クオリティの高いニットはそんな悩みを払拭してくれるんだと実感しました。新潟県出身者として、そして『新潟のつかいかた』アンバサダーとして、地元のニットにこれからも注目していきたい。まずは気に入ったものがあれば自分のワードローブにも取り入れてみたいですね」
生まれ故郷でつくられたニットだったら愛着も暖かさもより一層感じることができそうです。
Profile DJ松永(Creepy Nuts)
新潟県長岡市出身。DJ、Track Maker、Turntablist。ラッパー・R-指定と〈Creepy Nuts〉を結成。イギリス・ロンドンで行われた世界最大規模のDJ大会〈DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019〉で優勝し、世界一のDJに。オリンピックの東京2020閉会式に出演するなど多方面で活躍中。
credit photo:小笠原真紀 text:浦本真梨子
styling:鹿野巧真 hair & make-up:藤井陽子