押しも押されぬ人気で、いまやプレミアチケット化した新潟を代表する日本酒イベント「にいがた酒の陣」。2004年の初開催から20年——震災やコロナ禍などさまざまな困難を乗り越え、かたちを変えながら20周年の節目を迎えようとしています。
ほかには例を見ない日本酒イベントとして、県外・海外からも多くの視察が訪れ、一般来場者のチケットは即完。その経済効果は30億円以上とも言われています。では、どのような変遷を経て、現在のような一大イベントへと成長したのでしょうか。そして、20周年を迎えて見えてきたものとは。
日本最大級の日本酒の祭典「にいがた酒の陣」
「にいがた酒の陣」とは、新潟県内の酒蔵が一堂に会する日本酒の一大イベント。日本一の酒蔵数を誇る新潟県の日本酒のつくり手たちが、3月上旬(第1回は2月開催)に新潟市のコンベンションセンター〈朱鷺メッセ〉に集まり、2日間にわたって新潟県内外、海外からの来場者をもてなします。
各酒蔵が500種類を超える自慢の日本酒を取りそろえ、来場者はオリジナルお猪口を手に酒蔵のブースを訪れます。それに加え、新潟の食や物販、協賛ブースなどが軒を連ね、新潟の日本酒を心ゆくまで楽しむことができます。
来場者にとっては、日本酒の開発秘話や苦労話など、面と向かって酒のつくり手とコミュニケーションをとることができ、つくり手たちにとっては来場者が目の前で口にした感想をその場で聞くことができる貴重な機会でもあります。さらに、新酒のテストマーケティングの側面もあり、一般の日本酒愛好家とは別に、商談のために訪れる来場者も年々増えているそうです(商談会は会期前日に開催)。
コロナ禍を乗り越え、4年ぶりに開催された2023年からは、定員と時間制限を設けたチケット制を導入し、チケットは発売から数日で売り切れるほどの人気ぶりです。
進化し続ける「にいがた酒の陣」
「にいがた酒の陣」が初めて開催されたのは、2004年。開催のきっかけは、新潟県酒造組合50周年の記念行事として、一回限りのイベントとして企画されました。それまでも、日本酒PRのために新潟県酒造組合主催のさまざまなイベントが催されてきましたが、次第に参加者が固定化、決まった酒蔵を中心としたイベントとなってきたため、50周年を機に新しい展開が模索されていました。
そこで前年の2003年、新潟酒造組合の現会長・大平俊治さんはじめ組合員数名で、ドイツ・ミュンヘンで行われている伝統的かつ世界最大のビールの祭典「オクトーバーフェスト」を訪れました。ドイツ中のビールを飲み手とつくり手が一緒になって飲み明かし、それを目当てに世界中から来場者が集う、そんな姿を新潟県の日本酒でも実現できないか——そんな思惑から第1回の「にいがた酒の陣」が企画されました。
当時の日本酒業界は、〈十四代〉(山形県)や〈獺祭〉(山口県)などの他県の銘柄が勢いをつけてきた時期であり、新潟県でも〈久保田〉や〈八海山〉など全国区の知名度の日本酒はあったものの、「日本酒県・新潟」として新しい一手を必要としていました。
酒蔵や銘柄など、日本酒ひとつひとつにまつわるストーリーをきちんとつくり手たちが飲み手に伝える場が必要だったのです。そこで、前年の2003年5月に開業した、新潟市の新しいランドマークである〈朱鷺メッセ〉での開催と、朝10時から17時まで心ゆくまで楽しめて500円という異例の規格で、第1回開催を迎え初回から4万9000人もの来場者を集めたのです。
「にいがた酒の陣」の噂はたちまち全国に広がり、県内外、そして海外からも視察が訪れるイベントへと成長しました。当時、各県の日本酒イベントは、各地域から東京など都市圏に出向いて開催するのが主流でした。それが、地元主催・地元開催で、県外からも来場者が集う、日本初の日本酒イベントとして大成功を収めたのです。
その後、回を重ねるごとに生産者と消費者が直接対話できる場でありながら、酒蔵にとっては顧客からの直接のフィードバックや、新商品のテストマーケティングにも活用されるなど、日本酒イベントを超えた価値を提供していきます。また、希少性の高い酒は、各酒蔵の判断で有料試飲を実施するなど、消費者にも蔵元にもメリットのある工夫が凝らされていきました。
そして、コロナ禍での開催中止を余儀なくされるまで、来場者は増え続け、コロナ禍前年の2019年には、14万人もの日本酒愛好家が訪れるイベントにまで成長しました。来場者の比率も県内からが90%だった開催当初から、今では50%が県外や海外からの来場者となっています。
新潟大学・岸保行准教授の研究によると、その経済効果は県内外からの交通・宿泊・飲食など「30億円以上」とも試算されています。
「にいがた酒の陣」。20周年の集大成
2019年には14万人を超える人々が訪れましたが、その一方では、混雑による問題が潜んでいました。「飲みたい酒が飲めない」「人が多すぎる」といった声や、商談の場として機能していない状況にあるという課題も顕在化。これらの問題に対処するため、コロナ禍を経て時間制限と人数制限を導入する決断を下しました。
2024年3月9日、10日にわたって開催される、「にいがた酒の陣2024」は、前売りチケット各回4000枚限定で販売され、指定座席1000枚、立ち席3000枚という構成で午前・午後のふたつのクールに分けて実施されることで、来場者が混雑なくイベントを満喫できるよう配慮されています。
また、新たな試みとして、酒蔵のブース配置も見直されました。これまで一列に並んでいたブースを、4つの酒蔵を1組とし、ひとりひとりの来場者にていねいな接客ができるようスペースを拡大。屋内では酒蔵のみの出展に限定し、隣接したテント部分には海鮮丼や焼きガキ、新潟ラーメンといった多様な飲食ブースを12店舗設けることで、食の楽しみも広がりました。
かつて「淡麗辛口」と言われた新潟清酒は、「淡麗辛口」に加え多彩な味わいを持つ想像力ある日本酒へと進化を遂げました。「にいがた酒の陣」は、日本酒の伝統と革新を体現する場として、今後も多くの人々に愛され続けることでしょう。
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credit text:山田卓立 取材協力:新潟県酒造組合