冬場に休みを取って足を運びたくなる温泉。新潟県内には、「美人の湯」として名高い月岡温泉、東京からのアクセスがいい越後湯沢温泉など、県内外から観光客が訪れる温泉街がたくさんあります。それもそのはず! 新潟県は温泉地数で全国トップ3に入る、日本屈指の温泉大国。新潟県内30市町村すべてで温泉が湧出している(利用施設がないものを含む)ことも、県内各地に多彩な温泉施設があることも、全国的に珍しい環境です。
今回は、新潟県長岡市出身の温泉エッセイスト・山崎まゆみさん監修のもと、新潟県内4エリア(下越・中越・上越・佐渡)別にとくにおすすめの温泉を3つずつご紹介いただきました。新潟の風土が生きる名湯、歴史深い秘湯の数々は必見です。
Profile 山崎まゆみさん
新潟県長岡市生まれ。温泉エッセイスト・跡見学園女子大学“観光温泉学”講師。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)として日本の温泉文化を国内外に広く発信。国の観光政策の重要な会議に参画し、また「観光庁長官表彰」審査員や「新潟の魅力を考える懇談会」委員、「新潟プレミアサロン」のコーディネーターも務める。著作に『女将は見た 温泉旅館の表と裏』『温泉ごはん 旅はおいしい!』ほか。
Index この記事の目次
全国第3位の温泉地数を誇る新潟県
日本海に面する海岸線(離島を除く)はおよそ330キロと、南北に長い新潟県。本土の下越、中越、上越、離島の佐渡島にも、その土地ならではの歴史・風土があります。おいしいグルメや美しい景観を楽しむのはもちろん、新潟県へ遊びに行くなら各エリアの温泉にも注目です。
県内だけで137か所(※)と、新潟県内には個性豊かな温泉が点在しており、新潟県の温泉の歴史は、江戸時代に記録された数々の文献からたどることができます。
新潟県内でもっとも古い温泉は、開湯から1200年余りを迎える出湯(でゆ)温泉(阿賀野市)。国内には「弘法太師が発見したもの」とされる温泉がいくつかありますが、出湯温泉もそのひとつです。世の中が安定し、人々の往来が盛んになった江戸時代中期から後期には、下越エリアと長野県に跨る北国街道や、江戸と越後を結んだ三国街道沿いなど、各地の宿場町で温泉が楽しまれるようになります。
明治時代には日本一の人口を誇った新潟県。川端康成や与謝野晶子など、多くの文人も新潟県の温泉を訪れ、記憶に刻まれた情景を作品に残しています。この頃は、県内各地で石油採掘が頻繁に行われ、石油の代わりに温泉が湧き出ることも多かったようです。そして大正、昭和と時代が移り変わると、観光資源として温泉地開発が加速。温泉数がもっとも増加した1989年から2000年にはリゾート開発が進められ、リゾート施設には欠かせないものとして温泉が採掘されてきました。
新潟県の温泉の魅力は、景色や泉質の良さだけではありません。古い言い伝えがあるもの、旅人たちの疲れを癒やすためにつくられたものなど、さまざまなストーリーがあります。温泉の歴史にも注目しながら、新潟の湯めぐりを楽しんでみてください。
新潟・下越の温泉①咲花温泉
全国でも珍しいひすい色のお湯
湯花が噴出していたことから「先花地」と呼ばれるようになり、その名がついた「咲花(さきはな)温泉」。全国でも珍しいひすい色の天然温泉で、「美肌の湯」として親しまれています。「日本観光地百選」に選ばれた景勝・阿賀野川ラインのほとりにあり、周囲の自然と調和した景色は圧巻です。
県下有数の豊富な湯量を誇り、硫黄泉は皮膚病や婦人病、神経痛にも効果的。硫黄が強すぎない「体に優しいお湯」です。
「温泉の成分によっては、気温でお湯の色が変化します。ここのお湯は、ひすい色、透明、緑色、乳白色と微妙な変化をもたらすのですが、この変化を見るのが楽しいです。硫黄泉ながらも、肌当たりが柔らかいのも特徴。〈佐取館〉の展望大浴場で、阿賀野川と山々を眺めながらひすい色のお湯に身を委ねた日が忘れられません」(山崎まゆみさん)
Information
新潟・下越の温泉②新津温泉
温泉ファン垂涎の石油臭のお湯
「新津温泉は、石油産出県の新潟らしい温泉。強烈な油の匂いがする温泉で、温泉好きの間ではかなり有名で、入浴すると鼻がつんとします。新潟県は石油掘削中に温泉を掘り当てられた温泉地が多く、その代表的な温泉がここ。無色透明のお湯は自家源泉です」(山崎まゆみさん)
JR新津駅から徒歩15分ほどの市街地に、自家噴出の入浴施設があります。浴場に備えつけのシャンプーや石鹸はないので、体を洗いたい方はセルフで準備をしておきましょう。ちなみに、シャワーもありませんのでご注意を。
1954年に開業された、ごく一般的な民家が営業する日帰り温泉で、地下深層部から染み出してくる石油成分によって強烈な石油臭を放つ、全国各地から温泉ファンが足を運ぶスポットです。温泉の味は塩辛く、お湯で顔を洗うと目にしみるのでご注意を。後世に残したい、個性強めな名湯です。
Information
新潟・下越の温泉③出湯温泉
1200年の歴史を誇るお寺で入る温泉
「出湯(でゆ)温泉は、県内最古といわれる温泉。弘法大師伝説が今なお残り、浴場の湯口の上には小さな弘法大師像があり、寺境内で入浴できるという、貴重な体験ができますよ。お湯は無色透明で無臭。光が射し込むと、お湯がキラキラする透明感が美しく、神々しくさえ感じます」(山崎まゆみさん)
五頭山の麓にある温泉地のひとつ。出湯温泉のほか、村杉温泉、今板温泉の3つの温泉地がある五頭温泉郷は、自然豊かな環境からアウトドア好きもよく訪れます。新陳代謝の促進、神経痛などの病気にも効果的なラジウム温泉で、入浴、飲泉だけでなく、蒸気を吸入するだけでも体にいいのだとか。
温泉街にある〈出湯温泉パン工房〉では、温泉水を100%使用したふわふわのパンを販売。歴史ある名湯を食事でも堪能してみてはいかがでしょう。
Information
新潟・中越の温泉①松之山温泉
太古の化石海水の湯が湧き出る「日本三大薬湯」
松之山温泉は、古くから湯治場として地元の人たちに愛され、草津温泉(群馬県)、有馬温泉(兵庫県)と並ぶ「日本三大薬湯」としてファンも多い秘湯です。塩分濃度が高い源泉の正体は、1200万年前の海水が地殻変動により地中に閉じ込められた「化石海水」ともいわれています。露天風呂からは渓谷の風情ある景観も楽しめます。
「太古の海水に浸かるロマン。心身ともにコリをほどいてくれる独特な匂いで、私は『天然和風アロマ』と呼んでいます。入浴すると、その晩は深い眠りに。さすが、『日本三大薬湯』のひとつと思わずにはいられません。温泉熱で豚肉を低温調理した『湯治豚』や地熱発電など、温泉を活用した展開もすてきです。温泉街全体でエコビレッジを目指しているので、ぜひ訪れてみてください」(山崎まゆみさん)
Information
新潟・中越の温泉②逆巻温泉
逆巻温泉唯一の宿〈川津屋〉の洞窟風呂
豪雪地帯として知られる新潟県津南町の秘境・秋山郷の山中に佇む〈川津屋〉は、江戸時代末期創業の長い歴史を持つ温泉旅館です。ここでしか入ることのできない逆巻(さかさまき)温泉は、創業当初から200年以上湧き続ける天然温泉。詳細は不明ですが、〈川津屋〉の創業者が知人とともに手掘りで温泉を掘り当て、この場所に旅館を建てたといわれています。
昔から「薬師の湯」として親しまれ、〈川津屋〉のすぐそばを走る旧草津街道を行き来した商人や旅人の傷を癒やしてきた歴史があります。
「逆巻温泉唯一の宿となる〈川津屋〉は、文豪・吉川英治ゆかりの宿であり、岩山をくり抜いてつくられた県内では珍しい洞窟風呂があります。岩間から源泉が染み出し、新鮮なお湯に浸る。瞑想するにはもってこいの温泉です」(山崎まゆみさん)
現在は1日ひと組限定で営業。洞窟風呂なので浴室から外の景色は見えませんが、全部で5つある客室からは雄大な自然を望む抜群のロケーションと由緒ある空間を満喫できます。
Information
新潟・中越の温泉③栃尾又温泉
薬効パワーに優れた「万病の湯」
栃尾又温泉は、世界的にも希少なラジウム泉。開湯は奈良時代と歴史ある温泉です。ぬるい温泉に長く入り、上がるときにさっと熱い上がり湯で温まってから出る「長湯」の慣習があり、免疫力や自然治癒力に良い影響を与えるといわれています。体の芯まで温まる子宝の湯としても有名です。
「両親がここに通っていたそうで、私のルーツでもあります。ラジウム含有量が多い温泉はぬる湯。じっくりと入り、身体を温めてみてください。共同浴場がおすすめです。宿の近くにある子持ち杉、夫婦欅、薬師堂も合わせて見学してみてください」(山崎まゆみさん)
栃尾又温泉3宿の共同浴場となる大浴場「霊泉の湯」には、「したの湯(写真・上)」「うえの湯」「おくの湯」があります。無色透明のお湯は、薬効パワーに優れた「万病の湯」。お湯に浸かりながら蒸気を吸って、飲泉することで、温泉や空気中に含まれるラドンが細胞を活性化し、デトックス効果が期待できます。
Information
新潟・上越の温泉①赤倉・妙高温泉
7つの温泉、5つの源泉を楽しめる妙高高原温泉郷
赤倉、新赤倉、池の平、妙高、杉野沢、関、燕の7つの温泉が妙高山麓にある「妙高高原温泉郷」。ここには5つの源泉があり、5つの泉質を同じエリアで楽しめるのも魅力です。
赤倉温泉は妙高高原温泉郷ではもっとも大きく、江戸時代に開湯した歴史ある温泉地。妙高温泉は1912年に赤倉温泉の分湯として開湯しました。
「『越後富士』と呼ばれる妙高山。大きく裾野を広げる妙高山の全貌を見られるのは、山の麓の高台に湧く妙高温泉だけです。妙高山は、仏教世界の中心にそびえ立つ神聖な山である『須弥山(しゅみせん)』という別名があるためでしょうか。いつ訪ねても神聖な空気が流れていて、清々しさを感じられます。赤倉温泉は温泉ソムリエ発祥の地としても名高い温泉です」(山崎まゆみさん)
Information
Information
新潟・上越の温泉②燕温泉
3つの美肌効果成分を含むトリプル美人湯
標高約1100メートルにある燕温泉は、妙高高原温泉郷のなかでもっとも高所に位置する温泉。かつて、岩ツバメが群れを成して飛び交っていたことからその名がついたといわれています。弘法大師が発見した湯として伝わり、古くから惣滝(そうたき)の岩窟の下に温泉が湧いているそうです。
「昔から湯治場として愛されてきたことは、お湯の効果効能が教えてくれます。乳白色のお湯はモデル撮影などで使用されるレフ板代わりになり、きれいに写真が撮れますよ。美しい妙高山の渓谷も見応えあり」(山崎まゆみさん)
源泉は、3つの美肌効果成分を含むトリプル美人湯。上杉謙信の隠れ湯ともいわれ、白い湯花が特徴です。無料で入浴できる野天風呂〈黄金の湯(男女別)〉と〈河原の湯(混浴)〉は人気の秘湯スポット。帰りに地元名物「山もち」を召し上がれ。
Information
新潟・上越の温泉③鵜の浜温泉
海水浴と温泉をセットで楽しめる「ビーチ温泉」
松林に囲まれた鵜の浜海岸沿いに温泉が湧き出たのは1956年。鵜の浜温泉は、石油天然ガスの掘削中に温泉が湧き出た歴史を持ちます。1958年に共同浴場が開湯。1997年には、天然温泉を活用した本格ケア温泉大潟健康スポーツプラザ〈鵜の浜人魚館〉として生まれ変わりました。同施設では、サウナや薬草湯、温水プール、ウオータースライダーも楽しめます。
鵜の浜温泉に入浴できる宿泊施設のひとつが〈汐彩の湯みかく〉。屋上にある「日本海展望酒樽風呂」から日本海の夕日を見ながら、湯に浸かってゆっくりすることができます(写真・上)。
「海水浴と温泉をセットで楽しめる穴場スポットなので家族旅行に最適です。市場が近くにあり、白身魚が豊富。おいしい海鮮も味わえます」(山崎まゆみさん)
泉質はナトリウム塩化物泉で、海で遊んだあとでもしっかりと体を温めてくれます。また、新鮮な海の幸が一度に楽しめる温泉街も楽しみのひとつ。ほてった体に浴衣を羽織り、海辺の温泉街をそぞろ歩きできるのは、鵜の浜温泉ならではです。
Information
佐渡の温泉①相川長手岬温泉
佐渡島西岸から日本海を一望
佐渡島の西岸に位置する相川地区。約10キロメートルの海岸線・七浦海岸は、佐渡島のなかでも特にきれいな夕陽が見られる絶景ポイントです。オーシャンビューを満喫できるホテル・温泉も充実しています。
「佐渡島の西岸に湧く相川長手岬(ながてみさき)温泉からは、目の前の雄大な日本海に太陽が沈む様子を眺められます。黄金色の風景と一体となれる温泉です」(山崎まゆみさん)
周辺には縁結びのご利益がある「夫婦(めおと)岩」や、「佐渡のラピュタ」と呼ばれる鉱石処理場跡「北沢浮遊選鉱場」「佐渡島(さど)の金山」の歴史を楽しく学べる、「きらりうむ佐渡」など、観光スポットも目白押し。
戦国時代から平成まで続いた国内最大の金銀山の歴史をたどるなら、金銀山と奉行所を結ぶメインストリート・相川京町通りを散策してみてください。相川長手岬温泉の旅館でいただける地元漁師から直接仕入れた新鮮な魚介、佐渡産のお米、旬の野菜を使った料理のおいしさもお楽しみに。
Information
佐渡の温泉②佐和田温泉
風情ある畳の浴場と「モール温泉」
佐和田温泉は、真野湾に面する佐和田海岸に湧く黒い「モール泉」です。モール泉とは日本では数少ない植物由来の有機質を含んだ褐色湯の温泉のこと。北海道十勝川温泉と同じお湯を楽しめます。
佐和田温泉の黒いお湯に入れるのは、〈旅館入海〉のみ。温泉利用は宿泊者限定です。仕事で佐渡島を訪れた方には、お得なビジネスプランがおすすめ。脱衣所や浴室が保温と滑り止めのために畳敷きというのも珍しい温泉です。
「コーラ色のお湯が印象的な温泉です。畳の浴場は高齢の方でも安心して入浴できるのもポイントです。食の宝庫・佐渡島の料理と地酒に舌鼓……。五感で佐渡島を楽しめます」(山崎まゆみさん)
Information
佐渡の温泉③佐渡八幡温泉
佐渡随一を誇る湯量と皇室御用達ホテル
佐渡八幡(やはた)温泉の一番の特徴は、驚きの湯量。地下1000メートルから毎時1トン、48度の豊富なお湯が噴出し、訪れた人々を癒やします。しっとりと肌に馴染む柔らかな泉質は島内屈指と好評です。ナトリウムイオン、塩素イオン成分が多く含まれ、美肌効果が期待できると女性に選ばれています。
「佐渡随一を誇る湯量! 佐渡八幡温泉のナトリウム塩化物泉は温まり効果抜群です。また、佐渡中央部に位置し、観光にもビジネスにも便利な点もポイントです」(山崎まゆみさん)
佐渡八幡温泉に入浴できる宿泊施設のひとつが〈国際観光ホテル 八幡館(やはたかん)〉。広大な松林庭園にそびえ立つ7階建ての建物で、美しい真野湾や大佐渡・小佐渡の両山脈を一望できる自然豊かな環境にあります。昭和天皇をはじめ、皇室関係者や政府の要人、著名人も足を運ぶ名ホテルで、第44回「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」にも選出されています。
敷地内には佐渡金銀山に関する展示や佐渡出身の日本画家・土田麦僊(ばくせん)の作品も鑑賞できる〈佐渡博物館〉があり、佐渡島の歴史・文化を深く知ることができます。
Information
今回ご紹介した新潟県の温泉はほんの一部。まだまだバラエティ豊かな名湯、秘湯がたくさんあります。同じ温泉宿でも季節によって楽しみ方が変わるので、四季折々の景色、郷土の味と共に温泉を楽しんでみてください。雪国新潟らしい、冬の雪見風呂と日本酒も最高ですよ。
異なる歴史と風土、食文化がおもしろい上越・中越・下越、そして佐渡。広大な新潟県はいくつものエリアをめぐることで真価が見えてきます。湯めぐりで各地を回れば、新潟がもっと好きになるはずです。
credit text:松永春香