文・シライジュンイチ(ごはん同盟)
南北に長く自然豊かな新潟県では、地域の食材を生かしたさまざまな郷土料理が、そこに住む人々の生活に深く息づいています。私たち〈ごはん同盟〉は、まだ知らぬ郷土の味を求めて新潟県妙高市へと向かいました。
東京から約2時間半。えちごトキめき鉄道・妙高高原駅に降りてまず目に飛び込んできたのは、積雪2メートル近い白い雪の壁でした。それでも、きれいに除雪された道路を見ると、新潟に帰ってきたという実感が湧いてきます。各地の食材や郷土料理を求めて日本全国を旅することが多い〈ごはん同盟〉ですが、出身地である新潟を取材で訪れるのは久しぶり。
タクシーに乗り、雪道を進むこと10分ちょっと。雪がこんもりと積もった茅葺き屋根の建物が見えてきました。
こちらが本日の目的地、長野県との県境にほど近い、新潟県妙高市にある〈民宿はるみ荘〉。明治時代に建てられたという築200年の古民家を改装して民宿をしているほか、郷土料理の提供や体験も行っています。
出迎えてくれたのは、オーナーの岡田均(ひとし)さんと孝子(たかこ)さん。青空のような笑顔がすてきな仲の良いご夫妻です。
笹の葉は新潟に夏の訪れを教えてくれる
新潟県では笹の葉を使った料理が多く、有名なのが「笹団子」。よもぎの葉を練り込んだ生地であんこを包み、それを数枚の笹の葉でくるんで蒸し上げた笹団子は、新潟を代表する名産品のひとつ。そのほかにも、もち米を笹で包んで茹で上げた「三角ちまき」や、つきたてのお餅を笹の葉でくるんだ「笹もち」などがあり、新潟県民にとって笹の葉はとても身近な存在です。
そんななかでも今回おふたりに習うのは新潟県妙高地方の郷土料理、「笹箕寿司(ささみずし)」。上越地方に「笹寿司」として広く伝わるこの郷土料理の由来は古く、越後の戦国武将・上杉謙信が川中島の合戦に出陣した際に、街道に住む村人たちが笹の葉の上にご飯とおかずを一緒にのせて献上したのが始まりとされています。そのため、地元では、別名「謙信寿司」とも呼ばれています。
妙高地方では笹寿司を後世につないでいくために、岡田さんをはじめとした地元の商工会で独自の形状を考案。農作業で使う竹で編んだ「箕(み)」のような形につくる笹箕寿司として伝承しています。
「笹の葉には抗菌や防腐の作用がありますからね。戦の携帯食にはもってこいだったのでしょうね。具材は近隣の山々で採れるものばかりです。このあたりはとても雪深い地域。春になって雪が溶けて、山菜が芽吹き、そして新しい笹が生えてくる。笹箕寿司は雪国の季節の変わり目を感じられる郷土料理なんです」(孝子さん)
「毎年6月頃になると、近隣の山々で自生している笹からやわらかい葉が生えてきます。それを収穫して、冷凍保存しておくんですよ。冷凍すると、笹の葉の青々とした色合いが変わらないからね」(均さん)
笹の葉は、新潟県民に夏の訪れを教えてくれます。そういえば、実家の両親も毎年初夏になると笹の葉の収穫に出かけ、笹団子をつくっていたことを思い出しました。