骨の髄まで味わえる村上の鮭料理
続いて、村上の歴史や風土とともにあった鮭料理を味わうために訪れたのは、〈千年鮭 井筒屋〉。〈千年鮭 きっかわ〉が運営する、1年を通して村上伝統の鮭料理を提供する専門店です。
こちらでいただいたのは、「鮭料理 十四品」。その名の通り、14種類の鮭料理が一度に味わえるお膳です。
吉川さんのお話にあった「塩引き鮭」「鮭の飯寿司」「鮭の酒びたし」に加えて、「鮭の焼漬け」「鮭のかぶと煮」「鮭の白子煮」「はらこの味噌漬」「鮭の昆布巻」「鮭の中骨煮」「鮭手まり寿司」「鮭の生ハム」「鮭の白子の寒風干し」「酒びたしの皮 おどり焼き」「鮭のきそ」の全14品。
それでは、さっそくいただきます!
「最初はこちら炭火で炙ってお召し上がりください」と、七輪の上に置かれたのは、「酒びたしの皮 おどり焼き」。1年間、手間ひまをかけて完成した「鮭の酒びたし」の皮も大切に味わい尽くそうという一品です。
約5センチ四方の大きさの鮭の皮は、上の部分はつなげたまま、幅5ミリくらいの間隔で切れ目が入っています。これを七輪に乗せると、くるくると縮みながら香ばしく焼けていきます。
う、うまい! 鮭の皮はかたくて噛み切れないものですが、こちらはサクサクとした食感。そのあとに皮の旨みが口の中に広がります。
ほかも鮭の骨の髄まで食べ尽くせる鮭料理を次々と……。
「塩引き鮭」は、炭火に置いて2分ほどでこんがりと焼けました。熟成がしっかりと進んでいるから焼けるのが速いのかもしれません。
「焼いた鮭には、ご飯でしょ!」ということで、土鍋で炊いた新米ご飯の登場です。お米は、村上からほど近い関川村で収穫されたコシヒカリ。塩引き鮭のちょうどよい塩加減で、ご飯が進みます。
ご飯に合うといえば、「鮭の焼漬け」も負けてはいません。江戸時代から村上の各家庭でつくられ食べ継がれてきた定番の一品だそう。
「塩引き鮭がハレの料理とすれば、鮭の焼漬けはケの料理。塩引き鮭は父親がつくりますが、鮭の焼漬けは母親がつくるんです。日常的に食べ続けられてきた、“村上のいつもの味”ですね。焼き加減や調味料の配合など、各家庭によってそれぞれの味が受け継がれています」(吉川さん)
「鮭の焼漬け」は、その名の通り、生鮭を焼いて、熱々のうちに特製のかえし醤油の中に漬けたもの。冷めても固くならず、焼魚でも煮魚でもないふんわりとした食感です。醤油だれは、醤油、酒、みりんを同じ分量で混ぜ合わせるだけでも大丈夫です。鮭も調味料も用意しやすい材料ばかりなので、家庭でつくるのも簡単です。
かえし醤油が染み込んだ焼漬けがおいしくて、ひと切れだけで、ご飯茶碗が空になりました。
村上の鮭の歴史を辿り、鮭を余すことなく使い切る数々の料理を堪能した今回。村上の食文化が、まちを潤してくれた鮭への感謝と、鮭とともに生きるまちの人々の想いによってかたちづくられていることを感じました。
Information
【 レシピ 】
「鮭の焼漬け」(2人分)
レシピ考案:しらいのりこ(ごはん同盟)
【材料】
・生鮭 …… 2切れ(180g程度)
・醤油 …… 大さじ2
・酒 …… 大さじ2
・みりん …… 大さじ2
【作り方】
1 鍋に酒大さじ2、みりん大さじ2を入れて中火で熱し、アルコール分をとばす。醤油大さじ2を加え、ひと煮立ちしたら、火をとめ、そのまま冷ます。
2 生鮭2切(180g)を2~3等分に切り分ける。
3 切り分けた鮭をグリルで10分ほど焼く。
4 熱いうちに漬け汁につけ、1時間ほどおく。(冷蔵庫で1週間程度保存可能)
※一晩寝かせると、より味が沁みておいしくなります。
【農林水産省「うちの郷土料理」に掲載中の新潟県の郷土料理一覧はこちら】
Profile ごはん同盟
調理担当のしらいのりこ(新潟市出身)と、企画・執筆担当のシライジュンイチ(長岡市出身)による炊飯系フードユニット。料理雑誌へのレシピ提供のほか、炊飯ワークショップや料理教室などを精力的に開催する。近著は『これがほんとの料理のきほん』(成美堂出版)。www.gohandoumei.com
credit text:シライジュンイチ photo:ただ(ゆかい)