Index この記事の目次
- Page 1
- モーニングも楽しめる、コーヒーとサンドイッチの店〈CASUAL DAYS〉
- 高田に現存する最古かつ最大級の町家〈旧今井染物屋〉
- まちの“たて(歴史)”と“よこ(住民)”をつなぐ書店〈たてよこ書店〉
- Page 2
- 少量生産で独創的な酒づくりを目指す酒蔵〈武蔵野酒造〉
- 国産牛のやわらか食感と手づくりの味わい〈ハンバーグ&グリル YUKI MI〉
- 高田城址公園内に佇む端正な数寄屋建築〈小林古径邸〉
- Page 3
- 人気イラストレーター大塚いちおさんが営む〈DIGMOG COFFEE〉
- 市民に愛される日本最古級の映画館〈高田世界館〉
- 読書も「ちょっと一杯」も楽しめる、古本と日本酒の店〈スイミー〉
複合施設〈兎に角〉で
人気イラストレーター大塚いちおさんが営む
〈DIGMOG COFFEE〉
さて、再び高田駅前に戻って雁木のあるまち並みへ。ニトデザイン&リビルドの事務所がある町家の複合施設〈兎に角(とにかく)〉は、築約150年の元足袋問屋を打田さんがリノベーションした、“シェアする町家”。シェアオフィスやシェアキッチンなどが入る大型の町家で、2020年にオープンしました。

それに先立ち、2019年にオープンした建物入り口のコーヒーショップ〈DIGMOG COFFEE(ディグモグ コーヒー)〉は、イラストレーター大塚いちおさんの自家焙煎コーヒー店です。コーヒーやドリンク、ジェラートやゴーフルを提供し、大塚さんがデザインした上越妙高駅のお出迎えキャラクター「ウェルモ」のイラストが入ったオリジナルグッズも充実しています。

オープンのきっかけは、大塚さんが市内でコーヒー店の開業を目指していたところ、もともと知り合いだった打田さんが声をかけたこと。店内には大塚さん直筆のキュートな絵やアイテムが飾られ、ファン垂涎の空間です。
店舗奥にはコーヒー焙煎所もあり、現在、東京と上越の2拠点で暮らす大塚さんが実際に焙煎を手がけます。ときには店内で大塚さんに会えることも。テイクアウト専門店ですが、店舗横の8畳ほどの共有スペースでイートインも可能です。

Information
市民に愛される日本最古級の映画館
〈高田世界館〉
雁木のある高田のまちを語るうえで、雁木通りに残る日本最古級の映画館〈高田世界館〉の存在は欠かせません。もともと芝居小屋〈高田座〉として明治時代後期の1911年に開業し、1916年に映画館としての営業を開始しました。
2009年には建物の老朽化により取り壊しの危機もありましたが、市民が主体で保存運動が立ち上がり、その後設立されたNPOが建物を引き継いでいます。

2014年からは打田さんとも親交が深い現支配人・上野迪音(みちなり)さんのUターンを機に定期上映を再開。ミニシアター文化の一端を担う劇場として、さまざまな作品を幅広く上映しています。

古代ギリシア・ドーリア式の意匠が施された柱が立つ館内の見学も可能で、上映時間以外であれば昔のままの客席や映写室を見ることもできるそう(見学のみの場合は入館料500円)。
「客席から見る木組みの天井がすばらしく、ここで結婚式を挙げる人もいるほど雰囲気がいい空間です。客席の昔ながらの椅子は決して座り心地がいいとは言えず、防音機能がないので上映中は映画の音がロビーに丸聞こえですが、それも“味”です」と打田さん。国の登録有形文化財や近代化産業遺産にも登録されている、雁木通りの貴重な文化遺産です。

Information
読書も「ちょっと一杯」も楽しめる、
古本と日本酒の店〈スイミー〉
高田世界館での映画鑑賞後におすすめしたいのが、高田世界館から徒歩1分ほどのところにある古本と日本酒の店〈スイミー〉です。古くは中華料理店だった町家の車庫スペースをリノベーションし、2021年3月にオープンしました。
店舗となった物件は店主の川上眞咲さんが不動産屋のホームページで見つけたそう。打田さんはリノベーションの相談を受け、設計、デザインや改修のお手伝いをしました。解体工事や塗装・タイルなどの仕上げ工事は川上さんが仲間とともにDIYで改修したそうです。

日本酒は酒匠(さかしょう)の資格を持つ川上さんの好みを中心に約20種類ほどセレクト。地元だけにこだわらず、全国からバランスよく取り揃えています。

「来るたびに違う品揃えで、どれを飲んでも本当においしい」と太鼓判を押す打田さん。おすすめは「日本酒がすすむオムライス」で、居酒屋のだし巻き卵にヒントを得て編み出したオリジナルメニューです。ジャコ、海苔などを加え、隠し味に使った焦がし醤油がポイント。ほかにも、手頃な価格のアテやスイーツが揃います。

客席はカウンターとソファ席があり、ひとりでも利用しやすい雰囲気。オープンキッチンのカウンター席では、料理をする川上さんとの会話も楽しめます。また、ノンアルコールメニューも豊富なので、夜カフェのように利用しても楽しいでしょう。

Information
雁木のまち並みで人の温かさに触れる上越旅
モーニングから夜の日本酒バーまで。1日たっぷり高田のまちを巡った上越市の旅。打田さんにとって高田の魅力とは「雁木が残る風情ある町家で、昔から住んでいる人と新しく暮らし始めた若い人が入り交じり、いろいろな世代が協力できているおもしろさがあるところ」だと言います。
もちろん、隣家が密接した古民家の暮らしは大変な面もありますが、スーパーも飲み屋も気軽に歩いて行ける利便性も気に入っているのだとか。さらに、リノベーションを手がける仕事は、まちの変化を目の当たりにできるやりがいがあるとも話します。

まち歩きをしていると、通りかかった店舗の中から打田さんに手を振る人がいたり、まちなかですぐに知り合いに話しかけられたり。小さなコミュニティに根づく人の温かさもこのまちの魅力のようです。
*価格はすべて税込です。
credit text:島田浩美 photo:市川諒香