新潟・粟島フォト旅レポートとは…
この記事は、2018年9月に実施した2泊3日の新潟県・粟島モニターツアーの参加者による寄稿記事です。個性豊かな旅人によるリアルな新潟フォト旅レポートをお届けします!
あのタコ、出てこいや! いったい、どこへ逃げやがったんだ--。
僕は両手に長い棒を抱えたまま夢中であいつを追いかけた。でも、逃げ足だけは流石の早さだ。見失い、ため息をついて顔を上げると、仲間たちが海の中に棒を突いている。
振り返ると、いつもそこには美しい空と海があった。
この物語は、童心に返った僕らの夏の戦いの記憶だ……。
もともと、粟島は知らなかった。だから、モニターツアーの告知を見て、僕はまるで吸盤に吸い込まれるように応募を決めた。ツアーには自然を楽しむアクティビティがたくさん用意されていたが、特に興味をひいたのが〈磯ダコ捕り〉だった。「片方の棒でツンツンと岩場をつついてタコを誘き寄せ、出てきたところをカギで捕る」と説明があるが、そんなことができるのか。完全に“二刀流”じゃないか。
そんな思いで、迎えたツアー初日。やはり、簡単ではなかった……。
ツアー参加者に磯ダコ捕りをレクチャーしてくれた地元の名人(僕は、“師匠”と呼ぶ)ですら、捕獲はゼロ……。
タコには縄張りがあるということで、僕は少しでも可能性をあげるため、仲間たちから距離を置いて、海に攻め込んだ。だが、くる気配すらない。
諦めかけたその時、半信半疑だった僕のもとにあいつがやってきた。
慌ててカギの棒を掬う!
……タコがかかった!
みんなの歓声が上がる。
しかし、それも束の間、あいつは嘲笑うかのように水中に逃げていった。僕は、カギをしっかりと引っ掛けられていなかったのだ。“カギのかけ忘れ”とは、悔しすぎる!
その夜、敗戦のショックを抱えたチーム“タコス”一行は、〈わっぱ煮〉体験をした。木製の“わっぱ”に、小さなタイとメバル、味噌を入れて湯を注ぎ、焚き火で熱した石を入れる。すると一気に沸騰! ネギで蓋をして完成だ。一口飲むと体の芯から温まった。
ツアー初日を振り返り楽しむ晩御飯。すると、メンバーから 「めっちゃ悔しい。明日、リベンジしよう」と声があがった。たき火とともに、チームタコスのメンバーの狩猟本能が燃え上がる。
そして、再び、タコとの戦いの火蓋は切って落とされた……。
同じ轍は踏まない。翌日、僕は静かにその時を待った。やつが現れるその時を。
……来た!
意外と早く、その時は訪れた。今度こそカギをしっかりとかける。ガッと引いて一瞬でロックした。
獲ったどーーー!
しかし、今度は、カギをしっかりかけすぎて、自分で解除できないというなんともカッコ悪い体たらく……。
仲間たちも続々とリベンジを果たした。師匠のアドバイスを聞いて、コツをつかめば、初心者でも、女性でも十分に、成果を上げられる楽しいアクティビティだ。
3日間の滞在を終え、島を出る際、お世話になった磯ダコ捕りの師匠や観光協会のみなさん、ゲストハウスの主人たちが大漁旗を振って、出航を見送ってくれた。
すると目の前の女の子が、別れの寂しさに号泣し始めた。
その気持ち、おじさんだってわかるよ……。
僕もまた必ず来たい。いや、来る。その時にやっと気づいた。わずか3日間の滞在だったが、ロックされたのは自分の方だったのだ。
磯ダコ捕りだけじゃなく、さまざまな体験をしたがそれは、また別のお話で。
Reporter Profile 八木圭一さん
元旅行雑誌の編集者で、IT企業に勤める旅好きの兼業ミステリー作家。2014年に『一千兆円の身代金』で、宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞してデビュー。同作は翌年、フジテレビでドラマ化。最新刊は、『北海道オーロラ町の事件簿 地域おこし探偵の奮闘』(宝島社)。