新潟のつかいかた

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集落に自生する「苔」に注目。
サステナブルな苔栽培を目指す | Page 2 Posted | 2022/03/18

モットーは「山採りから栽培へ」

苔栽培の様子
休耕田を活用して栽培。

胎内市坂井は「日本一小さな山脈」といわれる櫛形(くしがた)山脈のふもとに位置する、およそ80世帯、230人ほどが暮らす集落。2016年から地域おこし協力隊の制度を導入しており、朽網さんはこの地区2代目の協力隊員として2018年4月から活動を始めました。

面接では苔のことしか話していなかったと笑う朽網さん。着任後、まず企画したのが、苔栽培の専門家を招いての講習会でした。回覧板を利用して参加者を募ると10人ほど集まったといいます。

いろんなサイズ・形の陶器の器に入った苔たち
それぞれ異なる特徴を持つ苔。自分の生えたいところにしか生えない、そんな妥協しないところが魅力だといいます。

そして同年7月には、地域の人たちとともに苔栽培組合〈坂井苔人(さかいこけびと)〉を設立し、ウマスギゴケの栽培に着手。苔の“もと”をつくるところから始めました。

「“もと”とは、種子の役割をするもの。苔は胞子で増えますが、葉や茎から自分のクローンをつくって増殖することもできるため、人工的に増やす場合の多くは、その性質を利用します。まず苔を採取し、きれいに洗浄してから、乾燥させます。それを細かく刻んだものが“もと”で、これを土に混ぜて育てます。といっても苔苗として販売するには2年ほどかかるので、まずは栽培したい人向けに、この“もと”を販売することに。1リットル400円ほどで、1年間で約1000リットル売ることができました」

苔を手にする朽網さん
苔のイラストが描かれたTシャツが印象的。ユニフォームのように愛用しているそう。

朽網さんが栽培にこだわるのは、自生する苔をこれ以上、減らさないため。

「近年、苔の乱獲である“山採り”が問題になっています。苔は単体では生きていけず、仲間同士で寄り添って生きているので、無造作に採ってしまうと、元の状態に戻るまで30年ほどかかるものも。一度栽培できれば、そこからさらに増やしていくことができるので、“山採りから栽培へ”をモットーにサステナブルな苔づくりができればと考えています」

栽培と並行して、苔テラリウムのワークショップを開催したり、イベントに出店したりと、精力的に苔の魅力を伝え続けている朽網さん。その甲斐あって、坂井集落は2019年から新潟市で活動する「日本苔技術協会」の研修先となり、現在も定期的に研修生を受け入れています。

苔テラリウムワークショップの様子
子どもから大人まで楽しめる、苔テラリウムのワークショップ。
苔圃場
「日本苔技術協会」の研修では、圃場見学や坂井地区内に自生する苔を見学するフィールドワークを行っているそう。

また「苔栽培を坂井地区の産業にしたい」という、朽網さんの構想も少しずつかたちになっています。庭園用ウマスギゴケの栽培は集落の人たちが中心となって行い、朽網さんは個人事業として2020年に〈mossy mossy Japan〉を設立。10種類ほどの小さな苔苗を育てながら、個人向けに販売しています。

沼垂(ぬったり)朝市に出店したときの様子
〈mossy mossy Japan〉の活動としてイベントにも参加。写真は新潟市の沼垂(ぬったり)朝市。今年も出店する予定。
一面に広がるシッポゴケの苗
立派に育っているシッポゴケの苗。
沼垂(ぬったり)朝市に出店したときの看板

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