新潟のつかいかた

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旨みあふれる熟成鮭
新潟・村上の「塩引き鮭」 Posted | 2021/11/30

ご当地の食材をお取り寄せして調理し、おうちにいながら現地を訪れたような最高の旅気分を味わいませんか? 今回は、新潟が誇る「塩引き鮭」のおいしいヒミツと、名店シェフが提案する贅沢レシピをご紹介します。

歴史的な“鮭のまち”が誇る熟成鮭

村上市は新潟県最北の城下町。平安時代には京の朝廷に租税として鮭を納めてきたとされる“鮭のまち”でもあります。

村上を流れる三面川(みおもてがわ)には毎年、秋になるとたくさんの鮭が遡上してきます。というのも、川で生まれた鮭は、海に出たあと、産卵のために再び故郷の川に戻ってくる習性があるためです。

そんな秋鮭のオスを使ってつくるのが、村上の伝統食である「塩引き鮭」! つくり方は、鮭をよく洗い、エラと内臓を取り除き、丁寧に塩を引き4~5日漬け、北風の冷たい風にあて3~4週間ほどじっくり干します。

この風を受け、鮭が熟成し、アミノ酸が生まれ、他の鮭では味わえない独特の新しい旨みが生まれるんだそうです。村上に生きるご先祖たちが、貴重なたんぱく源を保存するために編み出した知恵なんですね。

天井から吊るされ干されている塩引き鮭

〈料亭 能登新〉の山貝シェフも太鼓判

「鮭は頭から尻尾まで、すべてを食べ尽くせる食材です。昔、鮭がこの地でたくさんとれた時代は大根1本と同じ値段だったそうです。でも、江戸時代の一時期に鮭が激減してとれなくなってしまい、村上の人々は大切にすべてを食べ切るようになりました。それがきっかけとなって、たくさんの調理法が生まれてきたと聞いています」

そう教えてくれたのは『ミシュランガイド新潟2020特別版』に掲載された老舗〈料亭 能登新〉の11代目・山貝誠さんです。

〈料亭 能登新〉11代目・山貝誠さん

江戸時代、鮭の不漁が続いたことで村上藩は財政難に陥ります。そのとき、鮭の回帰性に気付いた村上藩士・青砥武平治を中心に、鮭が産卵しやすいよう河川を整備。再び村上にたくさんの鮭が戻ってくるようになったのだとか。

山貝さんが代表兼料理長を務める〈料亭 能登新〉が創業されたのも同じ頃。1777(安永6)年のことでした。

〈料亭 能登新〉の外観
(写真提供:料亭 能登新)
能登新で提供される越後村上鮭料理
越後村上鮭料理(写真提供:料亭 能登新)

お店で提供するのは、昔ながらの鮭料理や名物である村上牛をはじめとする地元の幸を生かした料理。鮭料理については、なんと幕末の志士・西郷隆盛もこちらで召し上がったのだそう。

「私たちは経営理念を『喜びを繋ぎ未来を拓く』とし、経営信条を『不易流行』としています。たゆまず変化し、価値を高め、社会とともに繁栄するというものです」(山貝さん)」

この「不易流行」の教えに沿って、伝統の鮭料理は提供のスタイルを少しずつ変えているという山貝さん。鮭尽くしで人気の「越後村上鮭料理コース」も現代風に、少量ずつ33種類の調理法で鮭を味わえるようにしているとか。大事な鮭を長く保存しながら大切に食べるための知恵である「塩引き鮭」はもちろん、前菜だけで13種類の鮭料理が出てくるというから驚きです。今日もおいしい名物の鮭を求めて、お客さんが〈料亭 能登新〉を訪れています。

Information

【料亭 能登新】
address:新潟県村上市飯野2-1-9
tel:0254-52-6166
営業時間:11:30~14:00(13:30L.O.)、17:00~23:00(22:00L.O.)
定休日:不定休
web:料亭 能登新

山貝シェフのおすすめ塩引き鮭レシピ

「村上では、秋冬のごちそうといえば鮭。各家庭に“塩引き名人”がいて、塩引き鮭をおうちでつくるカルチャーが根づいているんですよ」(山貝さん)

〈料亭 能登新〉でも、その時期になると軒先に鮭がずらりと吊り下げられます。冬に乾いた北西風が吹く村上は、鮭を干すのにぴったりの地域なんだとか。ギリギリ凍らない絶妙な気温のなかで発酵が進み、おいしく干しあがるといいます。

軒先にずらりと吊り下げられた鮭

そんな新潟の秋冬の風物詩である「塩引き鮭」。これを使って山貝さんが教えてくれたのが「炊き込みご飯」です。

「通常、塩引き鮭は焼いて食べるのがスタンダード。でも、焼き台を使うのってちょっと面倒だったりもしますよね。そこでオススメなのが“炊き込みご飯”。ご飯に混ぜて炊くだけのシンプルなつくり方ですが、旨みもしっかり味わえる食べ方です」(山貝さん)

このレシピは、新潟のスゴ腕シェフたちのレシピ動画を発信しているメディア『新潟ウチごはんプレミアム』に掲載されています。

「ちなみに、今回のレシピのなかで用いたのは赤カブです。村上では秋になると山の頂上から火を放って野焼きをするのです。こうすることで土の成分が酸性からアルカリ性に変わり、完全無農薬で鮮やかな赤カブができるんですよ。火が入ると、さらにパーッと明るくなって美しいのですが、もちろん普通のカブや大根でもおいしいですよ」(山貝さん)

食感の楽しさや彩りを増やす食材を入れることで、秋の豊かさを目でも楽しめるような炊き込みご飯になるんですね。

レシピ自体は、塩引き鮭と野菜をサイコロ状に切って、軽く炒めて、炊飯器でお米と一緒に炊くだけ。シンプルだからこそ、ハッとするような衝撃を受けることまちがいなし。「さすがは村上……!」と思わず唸っちゃう絶品炊き込みご飯、ぜひおうちでお試しを。

Recipe

越後村上塩引き鮭の炊き込みご飯

【材料】 2人分
・塩引き鮭 …… 100グラム
・カブ …… 50グラム
・サラダ油 …… 少々
・米 …… 1合
★カツオと昆布の合わせだし …… 150cc
★薄口しょうゆ …… 大さじ1
★みりん …… 大さじ1
・生姜 …… 少々
・ごま …… 1つまみ
・青じそ …… 1枚
【作り方】
1 塩引き鮭とカブをサイコロ状に切り分け、油で炒める。
2 お米をとぎ、30分給水し、ざるにあけ水を切る。
3 を火にかけて沸かし、冷ましておく。
4 炊飯器に→千切りにした生姜→を入れて炊く。
5 炊き上がったら、ごま、青じそを入れて混ぜ合わせる。
6 茶碗に盛り付けて完成。

矢口あやはさん

Profile 矢口あやは

大阪生まれ、東京在住。ライター・編集・イラストレーター。雑誌やWEB、書籍などの制作を中心に活動。料理が大の苦手。文化祭でゴマ団子を調理した際には破裂した団子が天井で跳ね返り、意中の人を直撃した。 Web|ayaha-yaguchi.amebaownd.com Instagram|@ayaha614

credit text:矢口あやは photo:やまひらく

越後村上塩引き鮭の炊き込みご飯み

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