「温泉」と言って思い浮かべる都道府県はさまざまですが、新潟も負けていません。「宿泊施設のある温泉地」の数はなんと137か所もあり、大分や群馬を抑えて北海道、長野に次ぐ全国第3位(※)です。ほかにも、県内の全30の市町村から温泉が湧出しているなど、実は隠れた温泉県であることをご存知でしょうか。
この記事では、新潟県上越エリアの温泉を5つに厳選してご紹介します。選者には新潟県長岡市出身で温泉エッセイストの山崎まゆみさんに監修していただき、個性あふれる温泉を紹介します。
Profile 山崎まゆみさん
新潟県長岡市生まれ。温泉エッセイスト・跡見学園女子大学“観光温泉学”講師。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)として日本の温泉文化を国内外に広く発信。国の観光政策の重要な会議に参画し、また「観光庁長官表彰」審査員や「新潟の魅力を考える懇談会」委員、「新潟プレミアサロン」のコーディネーターも務める。著作に『女将は見た 温泉旅館の表と裏』『温泉ごはん 旅はおいしい!』ほか。
Index この記事の目次
温泉好きを魅了する上越の温泉
温泉好きの人であれば、上越エリアの温泉として妙高市の「赤倉温泉」をご存知の方が多いと思います。「温泉ソムリエ」の発祥の地であり、スキーリゾートとして知られる赤倉温泉が、観光協会が中心となって2002年に「温泉ソムリエ」制度をスタート。今では全国2万8000人超の温泉ファンが認定されている人気資格へと成長しました。
また、赤倉温泉を含む7つの温泉地からなる妙高高原温泉郷(燕温泉、関温泉、赤倉温泉、新赤倉温泉、妙高温泉、池の平温泉、杉野沢温泉)は、どれも妙高山山麓に位置し、湯めぐりができる周遊ルートが整備されています。観光バスの周遊券「ぶらっと妙高山麓 周遊乗車券」なども販売され、数日かけて温泉旅行を楽しむ温泉ファンもいるほどです。
さらに、秘湯として知られ、富山県、長野県の県境に近い蓮華温泉(糸魚川市)や、オーシャンビューの鵜の浜温泉(上越市)など、定番の温泉街では満足できない温泉ファンも楽しめるのが上越の温泉の特徴です。
新潟・上越の温泉①妙高温泉・赤倉温泉
江戸時代に開湯。妙高高原温泉郷・古参の湯
妙高温泉は「越後富士」と呼ばれ、新潟県の南部に位置する妙高山の麓の高台に湧いている温泉。大きく裾野を広げる妙高山の全景を眺められるのが特徴です。妙高山の別称である「須弥山(しゅみせん)」は、仏教世界の中心にそびえ立つ神聖な山という意味をもち、そのためか神聖なる空気が流れていて、清々しさがあります。
開湯は1910年。当時は江戸時代に開湯した赤倉温泉の分湯でしたが、1922年に南地獄谷からの引き湯に成功し、現在の「妙高温泉」と改称されました。妙高山麓の南地獄谷から約10キロという長距離を配管で運ばれてくることにより、湯もみをされた状態の優しいお湯が浴槽へ届けられています。
妙高温泉と同様に、妙高高原温泉郷のひとつに数えられる赤倉温泉は、「温泉ソムリエ発祥」発祥の地。温泉ソムリエ協会の家元・遠間和広さんが2002年に赤倉温泉の観光協会を中心に温泉ソムリエの制度を発足しました。赤倉温泉は妙高高原温泉郷のなかでもっとも歴史が古く、江戸時代の1816年に開湯し当時は運営を高田藩が担当する日本唯一の藩営温泉でした。
Information
Information
新潟・上越の温泉②燕温泉
乳白色の湯が美しく表情を照らす美人に見える湯
燕温泉は、平安初期に弘法大師(空海)が発見したと伝えられる歴史ある温泉で、古くから湯治場として愛されています。標高約1100メートルと、妙高高原温泉郷のなかでもっとも高い場所に位置し、妙高山の登山口でもあるため下山後の利用客も多く、リウマチ・神経痛にいいお湯として多くの登山客に喜ばれています。
かつて、岩ツバメが群れを成して飛び交っていたことから「燕温泉」と名づけられました。
泉質は、「美肌の湯」と呼ばれる硫黄泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉を含む「トリプル美人湯」。燕温泉には、〈黄金の湯(男女別)〉と〈河原の湯(混浴)〉の無料で入浴できる野天風呂があり、露天風呂から望む美しい妙高山の渓谷は見応えがあります。
Information
新潟・上越の温泉③鵜の浜温泉
鵜の長者が住んでいたから「鵜の浜温泉」
全国的にはそれほど知られていませんが、夏は海水浴と温泉のセットで楽しめるのが鵜の浜温泉。かつて、温泉がある大潟町に鵜の長者が住んでいたというとても縁起の良い伝説があり、「鵜の浜温泉」と命名されました。
新潟県が調査した「新潟県子ども連れ家族旅行満足度」で第1位に選ばれています。日本海を望む鵜の浜海岸沿いにあるため、晴れた日には日本海に沈む夕日と佐渡島が望めるところもポイントです。
泉質はナトリウム塩化物泉(弱アルカリ性高張性低温泉)で食塩を含んでいるため、海水のように塩辛く無色透明のお湯となっています。入浴することにより、皮膚に塩分が付着し汗の蒸発を防ぐため、保湿効果がよく、湯冷めしにくいことから「熱の湯」といわれています。
Information
新潟・上越の温泉④蓮華温泉
バスでアクセスできる雲上の湯
蓮華温泉は、中部山岳国立公園内の標高1475メートルにある「ザ・秘湯」という感じの天然温泉です。新潟県側から北アルプス山行を目指す登山家たちの拠点でもあります。入浴しながら2000メートル級の山々を一望できる雲上の湯です。
入浴できるのは、3月半ばから10月20日頃まで。温泉を管理する〈白馬岳蓮華温泉ロッジ〉で入浴料500円を支払えば、〈三国一ノ湯〉〈仙気の湯〉〈薬師湯〉〈黄金湯〉の4つの野天風呂に入ることができます。どの温泉も登山道の脇にあり、脱衣所のない開放感あふれるお風呂です。
〈三国一ノ湯〉は酸性アルミニウム硫酸塩泉、〈仙気の湯〉は単純酸性泉、〈薬師湯〉は酸性硫酸塩泉、〈黄金湯〉はマグネシウム炭酸水素塩温泉と、泉質はさまざま。それぞれ徒歩でアクセスできる距離感にあります。路線バスでアクセスすることもできますが、歩いて山を登れば、温泉と絶景がより疲れを癒してくれそうです。
Information
新潟・上越の温泉⑤笹倉温泉
重曹のように肌を磨く、別名「クレンジングの湯」
〈龍雲〉〈千寿〉〈薬師〉の3本の源泉が湧き出る笹倉温泉は、ナトリウム炭酸水素塩泉(重曹泉)でとろとろでなめらかな肌触り。掃除などで使用する重曹と同様の効果が期待できることから、別名「クレンジングの湯」とも呼ばれる美肌の湯です。
薬師如来のお告げにより開かれたと伝えられる秘湯は、自然に囲まれ、癒される要素たっぷり。肌にいいだけでなく、入浴すれば筋肉痛や冷え性、皮膚炎、ストレスや疲労の回復などの効果も期待できます。
笹倉温泉に入れる〈龍雲荘〉は、料理に温泉水を使用しているのが特徴です。温泉水によって、素材の味がまろやかになるとのこと。源泉を使った、ほんのり黄金色がかった「温泉おにぎり」や、飲泉コーナーもあり、食前の空腹時に口にすると胃腸の働きをよくする効果があるといわれています。
露天風呂や陶器壺風呂に加え、源泉かけ流しの貸切風呂もあり、湯治場のような雰囲気を楽しむこともできます。
Information
上越の温泉は大自然に囲まれた開放感たっぷりの野天風呂や、海の近くで海水浴も楽しめる温泉など、実にさまざまな温泉ばかり。珍しい温泉が多く、誰かに話したくなるほどクセが強いですよね。
どの温泉も話のタネにぴったり。今年の冬は新潟ならではのちょっとマニアックな温泉に足を運んでみてはいかがでしょうか。ひとりで行くのもいいですし、友人や家族と一緒でも楽しめるはずですよ。
credit text:藤岡あかね