味の決め手は、生姜味噌
それでは、「けんさん焼き」のつくり方をみていきましょう。
「まず、おむすびを握ります。『けんさん焼き』は、おむすびに味噌を塗って焼いたものですが、〈お米の楽校〉ではおだしをかけたお茶漬け風で提供しているので、お米の粒が感じられるように玄米を使っています。使っているお米は、もちろん、地元・南魚沼産のコシヒカリです」(小澤さん)
ご飯を手にとって、やさしく握ります。
「お味噌をのせることを考えて、少し平らに握って真ん中をくぼませるとよいですよ。だしでほぐしながらいただくので、あまりかたく握らないのがポイントです」(小澤さん)
続いて、網に乗せておむすびの表面に焼き目をつけていくと、キッチンには玄米の香ばしい香りが漂い始めました。
「昔の人は囲炉裏のそばに置いて、炭火でゆっくりと焼いていたんでしょうね」(小澤さん)
おむすびが焼けたら、次は味噌の準備。「けんさん焼き」に使うのは、生姜味噌です。
「地元の米味噌に、砂糖とみりん、生姜のすりおろしを加えて、全体がなじむようによく練り込みます。この生姜味噌は、魚沼地域ではなじみが深い合わせ調味料で、焼いたお餅につけてもおいしいんですよ。分量はしっかりと決まっていなくて、各家庭によって配合が違います。『けんさん焼き』は、家にある材料でさっとつくるものなので、かしこまる必要もありません」(小澤さん)
こんがりと焼けたおむすびに、生姜味噌を塗っていきます。もう、これだけでおいしそう!
生姜味噌は塗りすぎるとしょっぱくなるので、ほどほどに。
塗り終えたら、ガスバーナーで味噌の表面を焦がさないように、軽く焼き目をつけます。ガスバーナーがない場合は、オーブントースターで焼いても大丈夫。
刻んだネギを乗せて、昆布ベースのだしを注いだら、お茶漬け風の「けんさん焼き」のできあがりです。
さっそく、熱々のうちに、いただきましょう!
素朴ながら味わい深い「けんさん焼き」
「いただきまーす!」
おむすびの外側はカリカリですが、中はふんわり。やさしく握ったことが、ここで生きてきます。玄米の甘みと味噌の塩味のコントラストがたまりません。生姜の風味も効いています。
食べ進めると、香ばしい焼き目のついた味噌がだしに溶け出してきました。つぶつぶの食感だった玄米も次第にやわらかくなり、ご飯と味噌とだしが、ひとつにまとまっていきます。
寒い日の夜食やお酒を飲んだ後の〆にぴったりな、サラっと食べられる一品でした。
越後魚沼の雪国の生活を描いた江戸時代の書物『北越雪譜』には、「吹雪に焼き飯を売る」というエピソードが書かれています。おむすびの表面をあぶった焼き飯は、旅の携行食として当時から重宝されていたのでしょう。味噌を塗ることで、味わいがよくなり、保存がきくようにもなります。
塩沢宿で出会った「けんさん焼き」は、そんな雪深い魚沼の生活とともに受け継がれてきた知恵を今に伝える郷土料理でした。
【 レシピ 】
「お茶漬け風 けんさん焼き」
レシピ考案:しらいのりこ(ごはん同盟)
【材料】
(おむすび)
・ご飯 …… 400グラム(4~5個分)
・米味噌 …… 40グラム
・砂糖 …… 大さじ1/2
・みりん …… 小さじ1
・生姜(すりおろし) …… 1/2片
(出汁)
・水 …… 2カップ
・白だし …… 大さじ1
・昆布茶 …… 小さじ1/2
【作り方】
1 鍋に米味噌、砂糖、みりん、生姜のすりおろしを入れて、中火で熱し、水気がなくなるまで錬る。
2 平たい丸型のおむすびを握り、真ん中を軽くくぼませる。
3 1の生姜味噌をおむすびに塗り、オーブントースターで焼き目がつくまで10分ほど焼く。
4 別の鍋に水2カップを入れ、沸騰したら白だしと昆布茶を入れる。ひと煮立ちしたら、火を止める。
5 器に3のおむすびをのせ、4のだしをかけていただく。
【農林水産省「うちの郷土料理」に掲載中の新潟県の郷土料理一覧はこちら】
Profile ごはん同盟
調理担当のしらいのりこ(新潟市出身)と、企画・執筆担当のシライジュンイチ(長岡市出身)による炊飯系フードユニット。料理雑誌へのレシピ提供のほか、炊飯ワークショップや料理教室などを精力的に開催する。近著は『これがほんとの料理のきほん』(成美堂出版)。www.gohandoumei.com
credit text:シライジュンイチ photo:ただ(ゆかい)