文・シライジュンイチ(ごはん同盟)
室町時代に中国へ修行に行った僧侶が持ち帰り、日本に伝わったというお麩。新潟では、江戸時代に北前船が立ち寄ったことから加工技術が伝わり、製造が始まったといわれています。
日本全国にはさまざまなお麩がありますが、新潟でよく食べられているのは「車麩(くるまふ)」という焼き麩です。
金属の棒に生地を巻きつけて焼き上げるので、車輪のように真ん中に丸い穴が空いているのが特徴。車麩は長期の保存ができるため、雪深い新潟では冬場の貴重なタンパク源として重宝されてきました。
煮汁をたっぷり吸わせて、もっちりと仕上がった「車麩の煮物」は、新潟を代表する郷土料理のひとつです。
今回は明治時代末期の創業以来、長岡で車麩を焼き続けてきた〈木宮商店〉を訪ね、そのつくり方とおいしさの秘密をうかがいました。
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「4回巻き」が生む、ちょうどよい歯ごたえ
長岡市内には、かつてお麩屋さんが数軒あったそうですが、今では〈木宮商店〉の1軒のみ。
車麩の焼ける香ばしい香りに誘われるように店の奥にある工場へ進むと、4代目社長の木宮信太郎さんと息子の大基さんが、長さ180センチメートルの金属の棒に生地を巻きつける作業を行っていました。
車麩の主原料は、小麦から抽出したグルテン。小麦粉に水を加えて団子状にしたものをやさしく水で洗っていくと、でんぷんが水に溶けだし、粘りの強いグルテンだけが残ります。
これに小麦粉を加えて練り上げて生地をつくるのですが、練り具合の加減はその日の気温や湿度次第。
「車麩が焼いて膨らむのは、パンのような発酵の力ではなく、グルテンの膨張によるもの。同じ分量で生地をつくっても、その日の天気や水の温度によって膨らみ方が変わるから、『今日はこんな感じかな』と、経験と勘を頼りに焼き上がりを見ながら毎日調整しています」(信太郎さん)
機械でこねて一度休ませた生地の弾力のすごいこと! ギューッと伸ばしてもちぎれません。これを金属の棒に丁寧に巻きつけていきます。
車麩にはいろいろな製法がありますが、〈木宮商店〉の車麩は「4回巻き」。生地を巻きつけて焼いてという作業を4回繰り返します。
新潟の車麩は他県のものに比べて焼く回数が多く、3回巻きや4回巻きが主流です。3回巻きと4回巻きの車麩で太さが異なるかといえば、実はそうではなく、どちらもできあがりは、ほぼ同じ太さになるのだとか。
「焼き加減を調整して、3回巻きならふっくらと、4回巻きなら抑えめに焼き上げるんです。でも、同じ太さといっても味わいは違うんですよ。車麩は焼き目の部分が固くなるんですが、それが調理したときにちょうどよい歯ごたえになるんですね」(大基さん)
巻いては焼き、巻いては焼きを繰り返すこと4回。棒の長さに合うように生地を切り分け、焼いた車麩の上にピタッと巻きつけます。
生地と生地の間に隙間ができてしまうと、焼き上がったあとの見た目や食感が悪くなってしまうので、気が抜けない作業です。
その隣では、金属の棒に巻かれた車麩の生地が、巨大なガスオーブンで回転しながら焼かれていました。