世代を超えて愛される「車麩の揚煮」
煮付けやフライ、炒めものなど、車麩を使った料理にはさまざまなものがありますが、今回、満智子さんから教わったのは「車麩の揚煮」です。
「車麩の戻し方は、鍋に車麩と水を入れて落し蓋をして、火をつけ3~4分。気泡が出始めたら沸騰する前に火を止めて、15分ほど置いて、あとは好みの大きさに切り分けます。車麩が戻ったら、さらに15~20分ほど水煮すると食感がよくなりますよ」(満智子さん)
沸騰する前に火を止めるのが、おいしい戻し方のポイント。水煮した車麩は水を吸って大きくなり、つるつるプルプルの見た目になりました。時間がないときは、お湯で戻してもよいようです。
食べやすいように切り分けた車麩の水分を拭き取り、表面をカリッと揚げます。
そのあとは、だし、砂糖、醤油でつくった煮汁の中に揚げた麩を入れて、弱火でゆっくりと煮含めれば、
「車麩の揚煮」のできあがりです。
「これは昔ながらの揚煮なんですが、学校の給食にでてくる揚煮はつくり方がちょっと違ってて、息子はそっちのほうが好きなんですよ」(満智子さん)
5代目の大基さんが食べていたという学校給食の「車麩の揚煮」は、揚げた車麩を煮汁にサッとくぐらせるだけのもの。
「調理時間を短くするためだと思うんですが、こっちのほうが揚げた麩のカリカリ感が残っていて、これがご飯によく合うんです」(大基さん)
カリカリ感と甘じょっぱさが心地よくて、まるで洋食のフライのようです。これはおいしい!
もちろん、昔ながらの揚煮も煮汁がしっかりと染みていて、これはこれで別のおいしさがありました。食べ比べてみると、どちらのつくり方にも良さがあり、おかずとしてご飯によく合います
学校給食で車麩のおいしさを知ったなら、大人になってもそのおいしさを覚えているもの。古くから親しまれてきた車麩の郷土料理は、現代の食生活に合わせてアップデートされていました。
取材中、〈木宮商店〉には、車麩を買い求めるお客さんが途切れませんでした。「ここのお麩じゃないと、だめなのよ~」と話すお客さんたちの笑顔が印象的です。
「水に戻すのが面倒というお客さんのために最近考案したのが、薄切りの車麩です。たとえば、炒めものならフライパンにこのまま入れても、野菜の水分を吸っておいしく戻るんですよ。車麩を薄くスライスするのは大変なんですけどね」(大基さん)
なんと、薄切りの車麩とは画期的! 下ごしらえが不要な車麩を使った料理のレパートリーが、これからもっと増えていきそうです。
煮てよし、揚げてよし、炒めてよしの車麩。郷土料理に欠かせない食材として長岡で愛され続けてきた車麩は、伝統を今に伝える家族のもとで、今日も香ばしく焼き上がっています。
【 レシピ 】
「車麩の甘辛あえ」
レシピ考案:しらいのりこ(ごはん同盟)
【材料】
・車麩 …… 2枚
・醤油 …… 大さじ2
・砂糖 …… 小さじ2
・水 …… 大さじ2
・サラダ油 …… 適量
【作り方】
1 車麩は水に浸けて戻し、4等分に切り分け、水気をしぼる。
2 ボウルに醤油、砂糖、水を入れて混ぜ合わせ、甘辛だれをつくる。
3 フライパンにサラダ油を深さ2センチほど入れて中火で熱し、車麩がカリッとなるまで3~4分ほど揚げる。
4 揚げた車麩を熱いうちに2の甘辛だれにくぐらせ、器に盛り付ける。
【農林水産省「うちの郷土料理」に掲載中の新潟県の郷土料理一覧はこちら】
Profile ごはん同盟
調理担当のしらいのりこ(新潟市出身)と、企画・執筆担当のシライジュンイチ(長岡市出身)による炊飯系フードユニット。料理雑誌へのレシピ提供のほか、炊飯ワークショップや料理教室などを精力的に開催する。近著は『これがほんとの料理のきほん』(成美堂出版)。www.gohandoumei.com
credit text:シライジュンイチ photo:ただ(ゆかい)