新幹線で新潟へ向かう途中、窓の外に広がる景色に、思わず目を奪われることがあります。写真は、5月初旬の燕三条駅から新潟駅までの車窓から。
空がそのまま地面に映っているような、不思議な光景。田んぼに水が張られた春の「水鏡」です。
この風景が見られるのは、ほんの短い期間だけ。新潟の田んぼは、季節ごとにまったく違う姿へと変わっていきます。その移ろいを知ると、この土地の見え方も少し変わるかもしれません。

新潟市江南区で撮影された水鏡。地元の人が「当たり前」と思っている新潟の風景が、各地から集められています。
県民が新潟の魅力を発信する「コメジルシプロジェクト」の記事を手がかりに、新潟の田んぼの1年をたどります。
新潟平野は、言うまでもなく日本有数の米どころ。三方を山に囲まれ、日本海に面したこの地は、冬に雪を蓄え、春にその雪解け水が田んぼへと流れ込みます。寒暖差、ミネラルを含んだ雪解け水、そして長い時間をかけて整えられてきた土地。その積み重ねが、新潟の田園風景をつくっています。
季節で変わる田園風景
●4月下旬〜5月上旬:田んぼに水が張られ、「水鏡」が現れる
●5月中旬〜6月頃:田植えが行われ、水面に苗が並ぶ
●7月〜8月頃:稲が伸び、一面が深い緑に覆われる。サギの姿も
●9月〜10月頃:稲穂が実り、黄金色の風景。コンバインが走る収穫の季節
●11月〜3月頃:雪が積もり田んぼの輪郭が消える。白鳥が降り立つことも
空が地面に映る、春
春、田んぼに水が引かれると、景色は一変します。
乾いていた田面が水をたたえ、空の色、雲の形、遠くの山並みまでそのまま映り込みます。風が止まれば、どこまでが空でどこからが地面なのかわからなくなるほどです。この風景が続くのは、田植えの前後のほんの数週間のこと。

水の張られた田園や蛍の光など、新潟の季節の移ろいをひとりのカメラマンが追い続けた記録。田んぼを軸に、春から冬まで変わりゆく新潟の風景が切り取られています。
やがて、その水面に苗が植えられていきます。家族や親戚が集まり、泥の中で手を動かし、作業のあとに食卓を囲む。新潟の田園地帯では、こうした光景が今も春の風物詩として息づいています。

親戚一同が集まって行う田植えと、終わった後の食卓。泥の中で並ぶ人の姿、囲むごちそう。地元を離れてから初めて気づいた、新潟の日常の豊かさが綴られています。
静かに育つ、夏
田植えを終えた田んぼは、しばらくのあいだ静かに色を変えていきます。
梅雨の雨、夏の日差し、山から流れ込む水。稲は日ごとに背丈を伸ばし、やがて見渡す限りの深い緑になります。春の水鏡ほど劇的な変化ではないけれど、この時期の田んぼには、雪解け水と土の力がそのまま現れています。
観光地として切り取られることは少ないですが、これが新潟の田んぼの、一番長い時間です。地元で過ごす県民がその魅力を一番よく知っているかもしれません。

新潟「だから」見ることのできる景色のひとつとして、田んぼの鳥たちを紹介しています。イラストにあるように、夏は青々とした稲田に白いサギが佇んでいる様子がうかがえます。

佐渡島にある「岩首(いわくび)昇竜(しょうりゅう)棚田」は、日本海から昇る朝日と棚田のコラボレーションが美しい「オーシャンビュー棚田」。新潟の景色が印象に残る棚田のひとつです。
新幹線の車窓から見えた越後平野の田園風景だけではなく、新潟には山の地形に合わせた棚田も多くあります。緑の多いこの時期は特に田んぼの個性がわかりやすいかもしれません。広くきれいに区画された田園も、地形に合わせた模様を描く棚田も、どちらも新潟らしい風景です。
黄金色に染まる、秋
夏の緑は、気づけば少しずつ色を変えていきます。
稲穂が頭を垂れ、田んぼはしだいに黄金色に染まっていきます。秋風が吹く頃、その重さが1年の積み重ねを感じさせます。コンバインが行き交い、刈り取られていく稲。広大な田園が、そのまま生産の現場でもある。この季節に一番よく実感できることです。

広大な田んぼにコンバインが動く収穫の風景とともに、ドローンが活躍するICTを活用した新しい米づくりの現場が紹介されています。
平野の大規模な田んぼとは対照的に、山あいの棚田は段々に連なり、立体的な風景をつくります。十日町市の〈まつだい棚田バンク〉では、そうした棚田を守りながら、都市から関わる人との新しいつながりも生まれています。

全国でも有数の美しい景観の「星峠の棚田」。段々に連なる黄金色の田んぼと豊かに実った稲穂。棚田を守るための仕組みと、関わる人たちの姿が詳しく描かれています。
こうした新潟の米づくりに魅せられたひとり、俳優の小林涼子さんは、上越市の棚田に10年以上通い続けています。「山の雪解け水、風の抜け方、太陽の当たり方。そういうことをうまく利用しているのが棚田。本当によくできているんだなと思います」。棚田の黄金色には、そういった人の積み重ねが映っています。

コンバインを乗りこなす小林さん。雨の中の農道やコンバインを操る姿とともに、農業を仕事として続ける理由と棚田との関わりが語られています。
雪に覆われ、静かになる冬
収穫を終えた田んぼは、冬になるとその姿を完全に変えます。
一面の雪。春に空を映し、夏に緑が広がり、秋に黄金色だったその輪郭さえ、白く塗りつぶされます。かつて稲が育っていた場所は、いったんすべてを手放したように静かになります。
雪に覆われた田んぼには、冬のあいだ白鳥が降り立つこともあります。人の営みが途切れた場所に、別の生き物が静かに訪れる。新潟の冬の田んぼには、そんな時間が流れています。

五頭連峰を背景にした雪景色の中、田んぼと生き物が静かに共存する風景。阿賀野市に移住して気づいた、自然と人の豊かさが綴られています。
棚田の美しい風景と暮らし、環境を守る活動
平野の大規模な田んぼと、山あいの棚田。同じ米づくりでも、その風景はまったく異なります。棚田は維持するだけでも大変な労力が必要で、機械の入れない区画は今も人の手が欠かせません。それでも残され、守られているのは、生産の場であると同時に、次の世代に伝えていく風景だからかもしれません。

農林水産大臣が認定した「つなぐ棚田遺産~ふるさとの誇りを未来へ~」に全国最多の36地区が認定された新潟県。その背景と、棚田が果たす役割が詳しく紹介されています。
新潟県は、「つなぐ棚田遺産」の認定数は全国1位。新潟は米どころであると同時に、日本有数の「棚田県」でもあります。
このすばらしい棚田遺産を守り続けるために、近年では、農家だけでなく都市から関わる人も増え、田んぼとの新しい関係が生まれています。

棚田を守る人たちの活動の様子。生産の場としてだけでなく、人と人がつながる場としての棚田の現在が描かれています。
美しい景色の根底には、「大地と雪の恩恵」がある。
雪が水になり、水が稲を育て、稲が実り、また雪の下で大地が休む。新潟の田んぼは、その循環を1年かけて繰り返しています。

春の水、夏の光、秋の実り、冬の雪。そのすべてが積み重なって、最終的に「味」になります。米だけではなく、野菜も、山菜も、この自然の流れのなかで育まれています。新潟の食の豊かさは、田んぼの1年と切り離せません。
どの季節に訪れるかで、見える景色は変わります。田んぼの風景をたどると、新潟という土地の成り立ちや、食の豊かさまでが、少しずつ見えてくるかもしれません。
credit text:新潟のつかいかた編集部

