まつだいの棚田はアートで守られた!?
春のたゆたう水がキラキラした瞬き、秋の稲穂が実った一面の黄金色。最近、棚田は美しい景観として写真スポットにもなっています。そんな原風景を写真に収め、心が癒されるのは、そこで棚田を守り、きちんとお米を育てている米農家の方がいてこそ。
棚田とは階段状に連なった田んぼのことで、十日町市でも山麓や丘陵地などを切り開いてつくった棚田が多数あります。平地にあるきれいに区画された田んぼとは違い、どれも一様に狭く、きれいな形ではありません。あぜ道も狭く、棚田によってはトラクターや田植え機、コンバインなどの農機具が入れないことも多々あります。その代わりを担うのは、もちろん人の手です。
高齢化などで継続していくことが大変な棚田は、やはり田んぼのなかでも最初に耕作放棄地になりがち。山の上にあればあるほど、急斜面であればあるほど、米農家にとっては“扱いづらい”棚田になってしまうのです。
お米を育てるだけでなく、地下水を貯めておく元になり、災害の防止にも役立つ棚田。そんな先代ががんばって切り開いた棚田を守りたいと十日町市で立ち上げられたのが〈まつだい棚田バンク〉です。一般から出資を募り、田植えや稲刈りイベントなどを通して、棚田の保全活動をしています。
きっかけは、この地で2000年から開催され、地域の芸術祭の先駆け的存在でもある〈大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ〉でした。
この芸術祭で2000年から設置されているイリヤ&エミリア・カバコフの『棚田』という作品は、実際の棚田に農作業をする人々の彫刻を設置したものです。実は、この棚田の地主はもう米農家をやめるつもりでいて、「評判が良くなければ、すぐに撤去してしまえばいい」というくらいの気持ちでいたそう。ところが、作品は好評。2018年になっても変わらず常設されている〈大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ〉の代表作になっています。
そもそも〈大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ〉では、作品を置く場所と、その景観に強いこだわりがあります。このカバコフの『棚田』の彫刻作品も、近寄って観るものではなく棚田の景観とセットでひとつの作品となっています。そういう意味では、カバコフと米農家の合作ともいえるでしょう。作品が置いてある“場所”が豊かであればあるほど、作品にも色濃く反映されるのです。
この作品を通して、芸術祭の運営側はまつだいエリアの棚田の状況を知りました。そして〈大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ〉の舞台である地域を豊かにするために、2003年に立ち上げられたのが〈まつだい棚田バンク〉なのです。