地域で長く愛されてきた
〈おにぎり村〉のおふくろの味
駅前の中心街から少し離れた住宅地に〈おにぎり村〉はあります。現在は夫婦ふたりで営んでいますが、もともとは奥さんの栄森(えいもり)百合子さんが21年前に始めたお店です。
「何かお店をやりたいと思って考えていたのですが、おにぎりならできるかなと思いました。でも当初は、おにぎりは外で買うものではないという認識だったので難しかったです」
特別な料理を提供することはできなくても、おにぎりならずっと握ってきたもの。その“おふくろの味”が評判を呼び、週末には30分ごとにご飯を炊くような人気店になりました。
お米は新潟県産コシヒカリを使用しています。特に産地を決めたり、米農家と契約をしているわけではなく、毎年、サンプルを取り寄せて試食し、その年に一番いいと思うコシヒカリを使っています。同じ産地、同じ田んぼであっても、天候などによってお米の出来栄えは変わってきます。毎年、お米を吟味し、自分たちが握るおにぎりに適したお米を見極めているのです。
「新潟のコシヒカリは粘りがあって、冷たくなってもおいしい。だからおにぎりには適したお米ですね」と言います。使用しているお米自体も店頭で販売し、おいしい新潟県産コシヒカリを広く普及することにも貢献しています。
海苔がしっかり巻かれているので、水分を吸ってちょうどいいあんばい。握るのは軽く3〜4回程度なので、中はふんわりとしています。海苔で隠れていますが、具だくさんなので、実はちょっと具がはみ出しています。
「はみだした具は、母の愛情」と、栄森さんも笑顔で語ります。あらためて、おにぎりは気取った食べものではないのだと感じました。
おにぎりの具は、すべて手づくり。新潟のおにぎりの定番であるすじこも、すべて手でほぐしていました。なるべく粒を皮からはがしておくことで、食べたときにすべてくっついて具だけがボロっとこぼれないように。こうしたちょっとした工夫もおいしさの秘密かもしれません。
「お店は20年以上やっているので、これまでにたくさんの具材に挑戦してきました。少しずつ入れ替わりがあります。濃いめの味付けになることが多いですが、結局はシンプルな具が残りますね」
店内のショーケースにはおにぎりがいくつか陳列されていますが、注文すればなんでもすぐに握ってくれます。また予約注文も多く、取材中にもおにぎりを取りに来たお客さんが何人もいました。
週末は県外から買いに来るお客さんも多いそう。ホームページはなく、クチコミで人気は広がっています。イベントなどで頼まれて、何百個もつくることも。観光客から地元の人まで、〈おにぎり村〉は広く愛されているようです。
「新潟県民だから、当然のように地元のおいしいお米をアピールしたいという気持ちがあります。こんなにおいしいお米があるということを、誇りに思っていますね」
毎日のように家庭でご飯を炊き、おにぎりを握ってきた新潟の母。〈おにぎり村〉では、そんな母の愛情がたっぷりこもったおふくろの味を感じることができます。
Information
credit photo:斎藤隆悟、ただ(ゆかい) text:大草朋宏