酒どころ新潟へ行ったらぜひとも訪れたいのが、地元の人に愛されている居酒屋。その土地ならではの旬の味とともに地酒を楽しめるだけでなく、店の人や常連さんなどとも触れ合える空間は、お酒好きにとって理想郷といえます。
そんな居酒屋のことを、新潟の人たちは敬意を込めて“しょっぺ店”と呼ぶそう。「しょっぺ」とは、こちらの方言で「塩辛い」という意味。雪深い土地の多くがそうであるように、新潟に伝わる昔ながらの料理は塩辛い味つけが特徴といえますが、
しょっぺ店は単に味のことを指しているわけではありません。いわゆる“味のある”店が一朝一夕でできあがらないように、長い年月をかけて育まれてきた唯一無二の雰囲気を醸している店なのですが、ニュアンスが少々伝わりにくいのも事実。
やはり、百聞は一見にしかず。今年、開港150周年を迎える港町・新潟市で、市民が自信をもっておすすめするしょっぺ店を、はしごしてみることにしましょう。
ジャズを聴きながらおちょこを傾ける
おふくろの味 案山子(かかし)
新潟の台所として、戦後間もない頃から市民に親しまれてきた人情横丁。もともとは生鮮食品中心の市場として発展して、現在は昔ながらの商店とおしゃれな雑貨店や飲食店などが同居する、レトロな一角となっています。
その通りの向かいにある〈おふくろの味 案山子(かかし)〉は、白昼堂々とお酒が飲めるレアスポット。
昼飲みというと、焼き物の煙が店内からもくもくと漏れているような、雑多で賑やかな場所を想像しがちですが、ここはジャズが流れる落ち着いた空間。昭和54年にオープンした古参のお店といえますが、午後2時から営業するようになったのは、数年前のことだそう。
「東京方面から出張で新潟にいらっしゃる人は、日帰りがほとんど。早めに仕事を終えて、一杯飲んでから東京へ帰るような方や、リタイアされて夜はあまり外へ飲みに出なくなったような方が、昼間の時間帯は多いですね」
と店主の阿部勝也さん。置いてあるお酒はもちろん、地酒がメイン。新潟市内に蔵がある〈鶴の友〉、村上の〈〆張鶴〉、魚沼の〈緑川〉など、県内各地のお酒を楽しめます。
「新潟といえば淡麗辛口のお酒が主流ですが、旨口のお酒もおすすめです。原酒や生酒など、時期限定のお酒も用意していますよ」
銘柄などを大抵の人が気にしなかったような時代から、地酒に力を入れてきたこのお店。昔ながらのチロリを使って湯煎する燗酒は、日向燗(約30度)、人肌燗(約35度)、ぬる燗(約40度)、上燗(約45度)、あつ燗(約50度)、飛びきり燗(約55度)と好みの温度を細かくリクエストすることもできます。豊富なお酒に合わせるのは、焼きサバやカキフライ、コロッケなど、誰もがなじみのある家庭料理が中心。
「新潟らしい食材だったら、春はたけのこや山うどなどの山菜、夏は枝豆や天然の岩ガキ、秋は“かきのもと”という食用菊、冬はやっぱり寒ブリですね。ここに来ると旬がわかる、とお客さんも喜んでくれます」
いちげんさんでも、ひとりでも、女性でも、しっぽりと飲める場所。ジャズを聴きながら味わう地酒と家庭料理は、ミスマッチなようでいて、かなりいい感じです。
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