川の長さ、神社の数、酒蔵、ニット、美しい棚田──。
新潟県には日本一が数多くあります。そして、それらは単なる数字上の記録ではなく、人々の暮らしに息づいています。“しょうしがり(新潟の言葉で恥ずかしがり屋)”な新潟県民の県民性からか、大っぴらに自慢されることは少ないため、意外と知られていないかもしれません。
そこで、県民が新潟の魅力を発信していく「コメジルシプロジェクト」から、新潟が誇る日本一を6つピックアップ。日本一の所以や背景にある文化、県民の思いなども合わせてご紹介します。
日本一長い川・信濃川 ── 越後平野を潤す“母なる川”
日本一の川といえば、「信濃川」。その全長は日本最長の367キロメートルにおよび、長野県から新潟県へと流れ抜け、日本海へと続く雄大な河川です。流域では、発電用水や農業用水、工業用水、そして水道用水として利用されており、食品産業やものづくりも盛んな新潟の生活と産業を支える“母なる川”といえます。

信濃川は、新潟の暮らしを支えるだけでなく、県民の心にも寄り添ってきました。長岡市出身のここなさんも、信濃川に勇気づけられたことがあります。
新潟大学の入学式、新しい生活への緊張と不安を抱えながら電車に揺られていたここなさんの目に飛び込んできたのは、慣れ親しんだ信濃川の雄大な流れ。その風景が緊張と不安をほぐしてくれた思い出を綴っています。
新潟という土地の豊かさと穏やかさを象徴する大河の雄大な景色は、きっと今日も県民ひとりひとりに前向きな気持ちや元気を与えてくれているのでしょう。
(ここなさん/長岡市)
神社数が日本一 ── “神社県”に息づく、祈りの心
新潟の人々の心を支える“日本一”は信濃川だけではありません。
新潟県は、日本で一番神社の多い“神社県”。令和5年12月31日時点の統計(文化庁「宗教統計調査」)によると、その数は実に4667社。良縁に恵まれると伝わる「彌彦神社」や、戦国武将・上杉謙信公を祀る「春日山神社」など、由緒正しい神社が県内各所に建立されています。

なぜ新潟にはこれほど多くの神社があるのでしょうか。地元である新潟県に神社が多いことに注目した水澤陽介さんのエッセイによると「明治時代、新潟県は全国で最も人口が多かった」「商業や産業が盛んだった」「お城が多かった」など、その理由は諸説あるとか。
そんな水澤さんはコロナ禍に彌彦神社を訪れ、暮らしのなかに根づいた祈りの重要性をあらためて実感したそう。新潟県民を見守り続ける各地域の神社は、どんなときも新潟の人々の“心の拠りどころ”となっているのです。
(水澤陽介さん/三条市)
世界に誇るニットの産地 ── 五泉・見附が生む“日本一の技”
実は、新潟県は全国有数のニット産地。令和5年の「ニット製男子・女子セーター他の出荷額」は121億円にのぼり、全国1位(出典:総務省・経済産業省「2024年経済構造実態調査」)を誇ります。
江戸時代中期から続く織物文化と、戦後に発展した繊維産業の技術が積み重なり、今では国内外の高級ブランドにも採用される品質に。コメジルシプロジェクトのマスコット・コメジルシくんが訪れた五泉市の取材では、デジタル技術と職人の繊細な手仕事が融合し、“日本一”の品質を支えている現場の様子を紹介しています。

品質の高さや美しいシルエットにより若者のファンも数多く、性別や年齢を問わず愛されている新潟のニット。
若者に人気といえば、新潟県出身のミュージシャンで、令和元年の世界大会で優勝した“世界一”のDJとして知られるDJ松永さんも「MADE IN 新潟」のニットを身に着け、その着心地の良さを高く評価しています。

認定された棚田の数も日本一 ── 美しき“米どころ”の原風景
新潟の日本一といえば、やっぱりお米。米の生産額1255億円(令和5年・農林水産省大臣官房統計部「生産農業所得統計」)、水稲収穫量(子実用)62万2800トン(令和6年・農林水産省大臣官房統計部「作物統計」)、米菓の出荷額1797億円(令和5年・総務省・経済産業省「2024年経済構造実態調査」)と、いずれも全国1位を誇ります。
山間部にまで広がる田園風景は、まさに“日本一の米どころ”の象徴。そのなかでも特に目を引くのが、山あいに幾重にも広がる棚田です。農林水産省が2022年に選定した「つなぐ棚田遺産」では、271の棚田が認定され、そのうち新潟県内からは8市町・36地区が選ばれており、全国最多を記録しています。

こうした美しい棚田を未来へ残すために、新潟県が主体となって展開しているのが「棚田みらい応援団」プロジェクト。企業や団体、学生などさまざまな人々が、地域の営農者と協力し、保全活動やイベントを通じて、地元の誇りである棚田を守り続けています。
佐渡市歌見地区で行われている「鬼の田植え」も、そのひとつ。民話になぞらえて鬼に扮した参加者が田植えを行い、豊作を祈るユニークな行事です。ほかにも、「棚田県にいがたフォトコンテスト」が実施されるなど、新潟県民の溢れる棚田愛はプロジェクトやイベントとして大きく実っています。

酒蔵数が日本一 ── 米と水、助け合いの心が育む“越後の酒文化”
日本一の米どころであり、清らかな水にも恵まれた新潟県。その豊かな自然の恵みを生かし、令和6年最新の記録によると県内には全国最多となる100の清酒製造免許場数(令和6年3月31日時点・国税庁「国税庁統計年報」)を誇り、日本酒の醸造や貯蔵に使われる酒蔵は91蔵あります。
各酒蔵では、良質な米と水を生かしながら、職人たちの技とこだわりによる個性豊かな酒造りが行われています。良質な米と水が育んだ“新潟の酒”を味わおうと、全国から酒好きが集う新潟。酒蔵見学や試飲イベントなどの観光イベントも人気です。

※令和7年12月現在、91蔵(令和7年10月、新潟県酒造組合に2蔵が新たに加盟)
そんな新潟の酒文化について語ってくれたのが、〈株式会社FARM8〉代表の樺沢敦さん。雪深い環境で助け合って生きるなかで、酒を酌み交わしながら互いをねぎらう“おたがいさま・おかげさま・おつかれさま”の文化が生まれたのだとか。

自社で日本酒にまつわる新商品や日本酒の定期便サービス〈SAKEPOST〉を企画・運営するなど、新潟の酒文化を次世代へとつなぐ活動を展開してきた樺沢さん。世代と世代、人と人とをつなぐ“かすがい”として、日本酒は今もなお、新潟の暮らしのなかに息づいています。
※〈株式会社FARM8〉・樺沢さんの活動内容についての記述は、元記事の取材時点の情報に基づいています。
(樺沢敦さん/長岡市)
日本一の枝豆作付面積 ── 旬ごとに独自の“新潟えだまめ盛”が並ぶ
お酒のお供といえば、やっぱり「枝豆」。新潟県は枝豆の作付面積が令和6年で1400ヘクタールと全国1位(農林水産省「指定野菜(秋冬野菜等)及び指定野菜に準ずる野菜の作付面積、収穫量及び出荷量」)。出荷量こそ全国7位に留まりますが、それは「新潟県民が枝豆を愛しすぎて、ほとんど地元で食べ尽くしてしまう」からなのだとか。これぞ、新潟県民の枝豆愛をこの上なく表す“あるある”といえるでしょう。
夏の定番のおつまみのイメージが強い枝豆ですが、弥彦むすめ、新潟茶豆、新潟枝豆(晩生)など品種ごとに収穫期が異なり、初夏から秋にかけて長く楽しめます。皆さんも、「旬の枝豆カレンダー」を片手に季節ごとの味を追いかけてみてはいかがでしょうか。

“新潟えだまめ盛”をお供にした晩酌こそ、県民の幸せの象徴。ぜひ、旬の枝豆を味わいに新潟を訪れてみてください。

“日本一”が生活のなかに息づいている県、新潟
信濃川にはじまり、信仰・産業・風景・食文化に至るまで、新潟の“日本一”は、記録や数字ではなく、人々の暮らしのなかで静かに息づいています。
記事では、学生、地元で働く人、文化を伝えるため地域で活動する方々など、さまざまな県民の声を紹介してきました。それぞれの言葉から見えてくるのは、“日本一”が特別な称号ではなく、日々のなかに自然に溶け込み、誇りや支えとなっているということ。
海や山、川がもたらす豊かな恵みと、その恵みを生かしてきた人々の思いが、これだけ多くの日本一を生み、支えてきました。
ぜひ新潟を訪れ、“日本一”が息づく暮らしの豊かさに触れてみてください。
credit text:宮田文机

