新潟のつかいかた

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半農半Xや6次産業化など、
新しい農業のかたちを実現した3人 | Page 3 Posted | 2020/10/09

農業と子育てと暮らし。丸ごと楽しむ道を模索する

2011年には6世帯13人にまで人口が減少した十日町市池谷集落に、たったひとりで移住した佐藤可奈子さん。現在は農産物の生産や商品開発を行う〈株式会社 雪の日舎〉代表でもあります。移住から9年経ち、2児の母となった佐藤さんは、暮らしから発想を大切にして、仕事や子育てに取り組んでいました。

佐藤可奈子さん

Profile 佐藤可奈子さん

仕事:農家、執筆 香川県生まれ。大学卒業後、池谷集落に移住し就農。その後、〈かなやんファーム〉として水稲、さつまいもを栽培。2017年より〈雪の日舎〉へ社名変更し、2018年法人化。web:雪の日舎

農業の右も左もわからない自分を集落の人が助けてくれた

師匠とともに
ずっと支えてきてくれた師匠とともに。

佐藤さんは、大学3年生時に初めて池谷集落と出合い、「集落の農業者たちのように、経験と感性を大切にする大人になりたい」と、卒業後は池谷集落に移住することを決めました。

しかし念願の池谷集落へやってきたものの、当初はわからないことだらけ。集落の人に教わりながら、1年目は魚沼産コシヒカリと50種以上の野菜を育てることにしました。

最初から野菜を50種も育てたのは、集落に住む師匠の教え。「たくさんつくってみれば、どれが自分に合っているかわかる」と、まずはやってみればと背中を押してくれました。移住から3年目に自らの土地を持ち、個人事業主として独立。出産を経て、2018年には株式会社雪の日舎を設立しました。

「農業はディズニーランド」。暮らしのなかで見つけた「いいな」をかたちに

〈とろ蜜 丸干し芋〉
農薬を使わずに栽培された〈べにはるか〉を使用。丸ごと干した〈とろ蜜 丸干し芋〉は、甘さが凝縮されている。

現在、佐藤さんの主力商品は、干し芋。6軒の農家さんと契約し、さつまいも〈べにはるか〉を仕入れ、茨城県内の工場で加工しています。蜜芋特有の絶妙なやわらかさと、ねっとりとした食感に魅了される人も多く、予約の段階で売り切れになってしまうのだとか。

こども鍬を使う子ども
〈こども鍬〉は、栃木県那須にある星野リゾート〈リゾナーレ那須〉にも。敷地内にある農園で使用されている。

佐藤さんの活動は農業にとどまりません。子どもと畑を楽しめるように三条市の老舗鍛冶屋〈近藤製作所〉と一緒につくった日本初の〈こども鍬〉など、日々の暮らしのなかで感じる「こんな商品があったらいいな」をかたちにしてきました。

さまざまな楽しいことを実現していく様子を見て「夫からは、ディズニーランドみたいだねと言われるんですよ」と佐藤さんは笑います。農業をもっと楽しむために、佐藤さんのアイデアはいつだって日常から生まれてくるようです。

がむしゃらに走った9年間。程よい暮らしを求めてペースダウンを

家族と山登り

2020年は稲作を辞め、〈べにはるか〉だけの栽培に切り替えました。結婚後、別の集落にある旦那さんの実家に住んでいるため、子育てと農業の両立に限界を感じたから。

「以前、近くに加工場をつくろうと奔走していたときは、朝夕土日ずっと働き、家族にも負担をかけていました。さらに大きなトラブルが発生し、奔走を続けていると心も体も限界を迎え、過呼吸や涙が止まらなくなったりしました。今は態勢や働き方自体を見直し、家族にもっと意識を向けるようにしています」

今は早朝にひとりの時間をつくって好きな本を読み、土日は家族と山登りに行ったり、キャンプをしたりと、日々の暮らしも楽しめているそうです。

登山中に記念撮影
一歩ずつ歩を進めるだけで頂上にたどり着く山登りに少しずつ自信と勇気を取り戻せている。

また、佐藤さんは先輩農家と2020年に立ち上げた〈women farmers japan〉で子育てと農業経営を両立できる道を模索しています。
また、個人でも悩みながら挑戦してゆく日々や、農業や自然と触れ合うなかで感じたことを詩や物語で伝えていきたいと、やりたいことは尽きません。日常の気づきをかたちにしてきた佐藤さんの挑戦はまだまだ続きます。

講演の様子
高みを目指しながら、自分らしい暮らしを実現する〈women farmers japan〉でのひとコマ。

半農半Xや6次産業化、農との関わり方は人それぞれ。農作業だけではなく、農作物を使った商品開発をすることだってできます。心が穏やかになる農を暮らしに取り入れながら、楽しく続けている人たちが新潟にはたくさんいます。そんな農ある暮らしをあなたも新潟で始めてみてはいかがでしょうか。

credit text:長谷川円香