里山で暮らすように働く浮須崇徳さん
都会の喧騒から離れたい。そんなときに思い浮かべるのが対極にある「田舎暮らし」。ただ「田舎」とひと言でいっても、それぞれの人が想起するものが異なり、いざ訪れてみたらイメージとかけ離れていることも少なくはありません。
そんな田舎暮らしに惚れ込み、人と地域をつなぐ「コーディネーター」として移住定住・起業をはじめ、地方でのさまざまなチャレンジの支援を行う人物がいます。新潟県胎内市の職員として勤務する傍ら、〈NPO法人ヨリシロ〉で地域おこし協力隊の受け入れや、多くの“ヨソモノ”を地域とつなげてきた浮須崇徳さんです。
「コーディネーターでの取り組みは、プロボノ(専門知識を生かしたボランティア)であってライフワークなんですよ」と浮須さんの本業はあくまでも地方公務員。勤務している胎内市は四季の移ろいが美しく、山間部では積雪2メートルを越えるところもあります。
「胎内市生まれの私は神奈川大学に進学後、都会で働くか地元にUターンするかを迷っていました。なぜなら、都会での暮らし方に僕としては少し違和感があったからです。当時はいわゆる就職氷河期。社会情勢もあってか、就職説明会で企業の採用担当者の方から示される働き方に共感できることがあまり多くなくて。
少し緩やかに時間が流れる土地で、自分に与えられた仕事を着実にこなすことで地域貢献できる公務員という仕事に気持ちが傾き、地元役場の試験を受けることに決めました」
地方創生元年、胎内市初の地域おこし協力隊を受け入れ
浮須さんはこれまで、長く農山村再生に取り組んできました。取り組みのフィールドは人口減少が進む地域。さまざまなプロジェクトを進めるうち、人と地域の多様な関係性が地域の活力の源になると気づいたといいます。
私にとっての田舎暮らしといえば……とお話いただいたのは胎内市の旧黒川村の里山エリアについて。上越新幹線終着駅の新潟駅から車で約1時間、山間部に進んだ場所にあります。「胎内リゾート」とも呼ばれ、リゾートホテルや胎内高原、胎内スキー場、樽ケ橋遊園といった観光名所がずらり。
「集落の近くで観光が成り立っていることに意味があります。この里山ならではの魅力とは、田舎暮らしと観光との距離が近いこと」と地域の原動力にも着目して案内しています。そう考えるようになったきっかけは、地方創生の大号令があった2015年まで遡ります。
地方創生元年、胎内市の職員として胎内市初となる地域おこし協力隊の新規受け入れの担当となった浮須さん。各集落への説明のために区長や地域住民と会い、話し合ううちに地域特有の歴史が見えてきました。
そこで知ったのが、住民たちが担い手となって胎内リゾートを中心とした観光産業に携わり、村おこしへと結びつけてきた歴史。住民たちが先頭に立ち、実践してきた積み重ねが、現在浮須さんが取り組んでいる「日々の暮らしや営みを観光としてどう落とし込めるか」といったことにも生かされているといいます。
「新たな観光振興を生み出してきた地域の方は、今でいう『アントレプレナー(起業家)精神』を持つ人たち。地域おこし協力隊が提案するユニークなアイデアをおもしろがってくれて、一緒に楽しんでくれる人も多いです。そんな地域住民がいまだに健在であることがまちの財産と思えますし、地方で何かしらのチャレンジを検討している人も、この里山なら楽しんでいけると思うんです」
「この経験を機に、地方に住む、住まないの二者択一ではない新しい選択肢を模索しよう」と思い立ち、胎内市地域おこし協力隊のOBらと〈NPO法人ヨリシロ〉を立ち上げ、2018年から現在まで、胎内市職員とは別の形で田舎に関わりたい人たちと地域をつなぐ活動を続けていくことになるのです。