なかなか外食もできない昨今、自炊をする人も増えているはず。そんな今だからこそ、新潟の名産品を自宅でアレンジして、「おうち居酒屋」はいかがでしょうか。
今回は上越地方の伝統調味料〈かんずり〉をピックアップ。辛さのなかに旨みのある〈かんずり〉はどんな料理とも相性抜群。同エリアの地酒と一緒に楽しめば、新潟気分もアップすること間違いなしです。
豪雪地域が誇る、自慢の味〈かんずり〉
新潟県上越地方にある妙高市。豪雪地域として知られるこの地に伝わるのが、発酵香辛調味料〈かんずり〉です。塩漬けにした唐辛子を雪の上にさらしてアクを抜き、麹や塩、ゆずを加えて寒中に仕込み、3年以上発酵熟成させてつくります。
上越地方では、昔から冬になると各家庭で味噌づくりと同様に、自家製の唐辛子漬け(=〈かんずり〉)をつくっていました。しかし、徐々に冬場の交通や流通網が発達していくと、手間がかかる唐辛子漬けづくりは廃れていってしまったそうです。
そこで立ち上がったのが〈有限会社かんずり〉です。「地元の食文化を絶やしてはいけない」と、〈かんずり〉の研究をして、およそ20年かけて現在のレシピを確立させたといいます。
なお、〈かんずり〉の名前の由来は「寒づくり」から。毎年1月20日前後の大寒の日を「雪さらしはじめ」として、3月上旬までに15回ほど「雪さらし」を行います。真っ白な雪の上に真っ赤な唐辛子が映える様子は、この地域の冬の風物詩として親しまれ、全国からカメラマンが集まる行事となっています。
コクと甘み、旨みも感じる「うま辛」発酵調味料
上越地方では、冷蔵庫に〈かんずり〉が常備されている家庭も多く、冬場は鍋や汁もの、夏場は炒めものに入れたり、わさびや辛子の代わりに使ったりしています。また、地元の焼き鳥屋では七味や一味ではなく〈かんずり〉をつけて食べるのが定番。レストランで隠し味に使われていることも多いとか。
雪さらしを経た唐辛子は、苦味成分が抜けてマイルドな辛味に。さらに麹などを加えて3年間発酵熟成させた〈かんずり〉は、単に辛いのではなく、コクと甘み、旨みも感じる「うま辛い」味わいです。ゆずの爽やかな香りも感じることができ、唯一無二の発酵調味料といえます。
和洋中どんな料理とも相性がよいので、気になる料理に添えて、まずはそのまま味わってみましょう。辛さは使う量で調節できるので、「ちょっと物足りない」「もう少しパンチがほしい」といったいろいろなシーンで活躍してくれるはずです。
〈かんずり〉と合わせて楽しみたい、上越の酒
うま辛い〈かんずり〉に合わせたいお酒をつくるのが、妙高市の山間、猿橋地区にある〈鮎正宗酒造〉。1875(明治8)年の創業で、見事な茅葺屋根の蔵をもち、「全国新酒鑑評会」において金賞を何度も受賞する実力派です。
蔵の敷地内に湧き出る豊富な天然水を仕込み水に使っており、やわらかな口当たりとさらりとした甘さが特徴のお酒を生み出しています。代表銘柄である〈鮎正宗〉は、昭和初期に京都伏見の若宮博義殿下が、蔵近くのリゾート地・赤倉に滞在し、鮎釣りをした際に命名。鮎はきれいな水を好むため、ネーミングからも良質なお酒であることがうかがえます。
また、お酒の原料であるお米の蒸し方にもこだわっています。少量の米を甑(こしき)の中に平らに置き、蒸気が吹き抜けたら、さらに米を置くことを繰り返す「抜け掛け法」を採用。昔ながらのやり方で手間はかかりますが、ムラがなくなり程度の良い蒸米に仕上がるといいます。
冬には蔵に雪が2メートル近く積もることもあり、蔵人にとっては厳しい状況でありながらも、低い温度で一定に保たれるため、酒造りには絶好の環境です。
雪深い地で自然の力を借りてつくられている〈かんずり〉。一度口にすると病みつきになり、一年を通じてどんな料理の味も引き立ててくれる最強のバイプレーヤーです。あなた好みの食べ方を見つけて、同じく雪国の恵みのなかで醸される一杯を合わせて楽しんでみてはいかがでしょうか。
購入可能なお店
〈かんずり〉は表参道駅・徒歩1分のアンテナショップ〈ネスパス〉で購入できます。
web:表参道・新潟館ネスパス
※新型コロナウイルスの影響により営業日・営業時間を変更しておりますので、詳細はHPにてご確認ください。
鮎正宗酒造の詳細
web:鮎正宗酒造
credit text:長谷川梨紗(くらしさ) photo:長谷川浩史(くらしさ)