新潟県の食といえば、日本酒、魚、お米……だけではありません。2022年2月に総務省が発表した2021年家計調査で、新潟市が「中華そばにかけた外食費」で全国1位を獲得したとおり、ラーメンは新潟が全国に誇る食文化なのです。その人気の礎として長く地元で愛されているのが「新潟5大ラーメン」と呼ばれるご当地ラーメン。歴史は古く、約80年以上前から存在していて、その内容はどれも個性豊かです。
そんな新潟5大ラーメンの誕生の理由や代表的な店舗を、15年以上ラーメンを取材し続ける「新潟ラーメン伝道師」の片山貴宏さんがご紹介。さらに、最近注目の新たな新潟ご当地ラーメンもピックアップ!
2025年2月情報追加・更新
Index この記事の目次
新潟5大ラーメンとは
新潟5大ラーメンの歴史は古く、半世紀以上前から存在していて、その内容はどれも個性豊かです。
新潟5大ラーメンとは、雪国の知恵として生まれ、体を芯から温めてくれる「長岡生姜醤油ラーメン」、大量の背脂と極太麺のインパクトで全国的にも知名度上昇中の「燕背脂ラーメン」、まるでつけ麺のように割りスープが一緒に提供される「新潟濃厚味噌ラーメン」、火力が思うようにいかない屋台だからこそ生まれた極細麺の「新潟あっさり醤油ラーメン」。そして、昭和初期から存在しながら、県内でも限られた地域でしか出合えない「三条カレーラーメン」の5つ。
どのラーメンにも、その地域ごとに象徴的な有名店があり、そのお店を中心にさまざまな個性あふれるラーメン店が独自の個性を武器にしのぎを削っています。有名店だけでなく、そこから派生したバラエティ豊富なラーメン店の違いを楽しめるのも新潟5大ラーメンの特徴です。
新潟5大ラーメン① 長岡生姜醤油ラーメン
長岡生姜醤油ラーメンの特徴
濃い飴色のスープに食べ応えのあるチャーシューとホウレン草、ノリ、ネギ。いわゆる「中華そば」的なクラシックなビジュアルながら、スープをすするとじんわりと広がる生姜の風味。これが「長岡生姜醤油ラーメン」の特徴です。
生姜たっぷりスープが体を芯から温める〈青島食堂〉

新潟市と長岡市に複数店舗を構え、東京・秋葉原にも支店を持つ〈青島食堂〉。生姜醤油ラーメンの元祖として、その知名度を首都圏に広めた立役者。
ゲンコツとショウガを煮込んで取ったダシと、チャーシューを煮込んだしょうゆダレがスープの肝。コクがありながらもスッキリした味わいに仕上げたスープに、細麺が好相性です。チャーシューには、豚のウデ肉を使うことが多く、スープに溶け出した脂身の甘みも、味わいに深みを生み出しています。レンゲにすくったスープを口へ運ぶと、ほんのりスパイシーなショウガがふわりと香ります。「チャーシューメン」は麺が隠れるほどウデ肉のチャーシューがたっぷりで若者に大人気です。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「誕生のきっかけは『寒さ』。長岡市は新潟県内でも雪深い地域で、『寒い時期にラーメンでもっと温まってほしい』というご主人の思いから、高い保温効果が期待できる生姜をたくさん入れたスープが完成したそうです」

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生姜香るスープを個性豊かなトッピングとともに
〈ラーメン たいち〉

長年中華料理の世界で腕を磨いたご主人が営む〈ラーメン たいち〉。ラーメンは醤油と塩の2種類で、いずれもスープには生姜はもちろん、長ネギやニンニクなどの香味野菜がたっぷり使われています。
豚骨はご主人こだわりの青森県産豚ゲンコツを使用。力強いコクと濃厚な油に生姜の爽やかさを加え、まとまりのある一杯に仕上げています。地元の製麺所に特注する、のど越しのいいモチモチ麺とも相性抜群です。
また、個性豊かなトッピングにも注目を。多彩な部位を手切りにして食感豊かに仕上げたチャーシュー、歯応えの良さが際立つ極太メンマなどもいいアクセントになっています。

一度行ったらまた食べたくなるその味を求めて、平日も多くのお客さんが並びます。2024年には2号店もオープンし、より利用しやすくなりました。地元客から変わらず愛され続ける、まさに長岡生姜醤油を代表するお店です。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「より生姜感を味わいたい人には、塩ラーメンもおすすめ。塩ダレのスッキリ感が生姜の風味を引き立てるので、麺をすするたびに生姜をガツン! と感じられますよ」

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新潟5大ラーメン② 燕背脂ラーメン
燕背脂ラーメンの特徴
濃口しょうゆが効いた煮干しベースの真っ黒なスープに、うどんのようなモチモチの極太麺、みじん切りの生タマネギ。そして、それらを覆い隠すような背脂がたっぷり。
新潟5大ラーメンのなかでもとくにオリジナリティーが強いのが「燕背脂ラーメン」です。
丼を覆う大量の背脂が最後までスープを熱々に〈杭州飯店〉

燕背脂ラーメン生みの親〈杭州飯店〉が立つのは、金物産業が盛んな燕市。約50年前の創業当時は金物職人たちへの出前が多く、スープが冷めにくいように背脂でフタをし、麺がのびにくいようにうどんのような太さにするなどの工夫が、現在のスタイルを生み出しました。
コクや甘みを加える役割も持つ背脂は、かつては使い道がなく廃棄されていたそうです。背脂はスープの保温だけでなく、「フードロス削減」という役割も担っていたのです。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「こってりしていそうな見た目ですが、スープは煮干しが中心のあっさり系なのでバランスがよく、くどさはありません。こってり好きの人は『大油』『中油』など背脂の量の追加も可能ですので、お試しあれ」

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燕背脂ラーメンを全国区に押し上げた立役者
〈酒麺亭 潤 燕総本店〉

燕背脂ラーメンの魅力を追求し、東京にも店舗を展開、いまや全国区になった背脂ラーメンの立役者的な存在が〈酒麺亭 潤〉です。オーナーの松本潤一さんは、新潟ラーメンの魅力を海外にも伝えるべくドイツに店を構えるなど、熱き郷土愛で発信を続けています。
こちらの中華そばの特徴は岩のり。板のりよりも磯の風味が強く、個性の強いスープにも負けない存在感があります。さらに、背脂の量にも大きな特徴が。デフォルトの「中脂」から、増量の「大脂」、さらに丼の上が真っ白になるほど振りかけた「鬼脂」まで対応するという、背脂好きにはたまらないサービスを用意しています。
初めて味わうなら、スタンダードな中脂がおすすめ。煮干しの効いただしと背脂のコクのバランスを楽しんでみてください。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「背脂を食べ慣れていないお客さんにも親しんでもらえるよう、東京の系列店では、背脂の粒が燕市の本店より細かいのだとか。背脂を振るザルの目をミリ単位で細かくしているという、お客さんにはわからない細部へのこだわりが、県外でも支持される理由です」

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新潟5大ラーメン③ 新潟濃厚味噌ラーメン
新潟濃厚味噌ラーメンの特徴
新潟市西蒲区発祥の「新潟濃厚味噌ラーメン」はその名のとおり、超がつくほどスープが濃厚。別添えの割りスープを加えて好みの濃さに調整しながら楽しむ独特のスタイルです。
全国に数あるご当地味噌ラーメンのなかでも味噌の分量が少ないですが、そのパンチ力から札幌、山形と並び、日本三大味噌ラーメンにも数えられています。
お客さんへのサービスから生まれた、日本三大味噌ラーメン〈こまどり〉

元祖の〈こまどり〉は、赤味噌を中心に数種類の味噌をブレンドしてつくる味噌ダレが決め手。動物系のダシでしっかりとコクもあり、押し寄せる濃厚さも相まって、一度食べればヤミツキになる味わいです。ミニ丼で提供される割りスープを少しずつ足して、自分好みの味を探りながらいただきましょう。
〈こまどり〉には味噌ラーメンが10品もあり、メニューに応じてダシだけでなく、味噌の種類や産地も変えています。お店に足を運ぶ時はぜひ食べ比べてみてください。


新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「元祖の〈こまどり〉は創業当時、同じ西蒲区の岩室温泉にお店がありました。宿泊客の方が飲んだ後のシメに味噌ラーメン食べたところ、味が濃くて食べられないというクレームが入り、ご主人がやかんに味を薄めるスープを入れて届けたことがきっかけだそうです」
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味噌の濃さと香りのバランスが絶妙な一杯〈麺 東光〉

名店〈こまどり〉で修業したご主人が腕を振るう〈麺(まるめん) 東光〉(※正確には○の中に「麺」)。看板メニューの「味噌ラーメン」は、だしの風味を感じられるまろやかなスープにたっぷり野菜とひき肉の旨みが溶け込んだスープが自慢の一杯です。
だしは、丁寧に下処理したゲンコツや鶏ガラ、日高昆布、イワシなどをじっくり煮出した清湯系。そこへ、越後味噌を中心に数種の味噌をブレンドした味噌ダレを合わせ、深い旨みとコクを引き出しています。お好みで濃いめにもでき、さらに有料で「追い味噌」(130円)の追加もできますので、濃厚好きはぜひオーダーしてみてください。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「味噌だけでなくだしの風味を生かしたバランス系濃厚味噌です。野菜は増量可能で、大盛り、バカ盛り、メガ盛りまで量を選べます。胃袋と相談してチャレンジしてみてください」

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新潟5大ラーメン④ 新潟あっさり醤油ラーメン
新潟あっさり醤油ラーメンの特徴
新潟市の中心部には、1960年代頃まで多くの堀が流れていました。その堀沿いに軒を連ねていた屋台から生まれた一杯が「新潟あっさり醤油ラーメン」。そうめんのような極細麺と丼の底が見えるほど透き通ったスープが特徴です。
屋台時代から続くあめ色スープと超極細麺〈三吉屋本店〉

新潟市の繁華街、古町エリアにお店を構える〈三吉屋 本店〉は、歴史深い「新潟あっさり醤油ラーメン」をいまに伝える代表格。
製麺所に特注している麺はほどよくコシがあり、のど越しは抜群。極細麺が鶏ガラや豚骨をベースにした飴色スープの中を泳ぐ姿は美しさを覚えるほどですが、のびないうちにサッといただきましょう。かみ応えのある豚モモ肉のチャーシューやコリコリ食感のメンマ、ネギといったおなじみのトッピングも相まったノスタルジックな一杯です。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「創業当時の〈三吉屋 本店〉の屋台では、大きな火力を使った仕込みや調理ができませんでした。鶏ガラや煮干しを弱火でじっくり煮込むことであっさりしたスープが生まれ、お客さんを待たせないためにすぐゆであがる超極細麺を使ったそうです」

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おしどり夫婦がつくるやさしい味わい
〈元祖支那そば 信吉屋〉

古町エリアに個性豊かなお店が30軒以上建ち並ぶ「人情横丁」と呼ばれる場所があります。〈信吉屋〉は、その人情横丁で30年以上続く老舗です。お店を切り盛りする土田洋生さんと文江さんご夫妻がつくる「支那そば」は、子どもから年配の方まで、幅広い世代のファンから長く愛され続けています。なかでも、常連客の胃袋をつかんで離さないのが「ワンタンメン」です。
ゆるく縮れた極細麺が泳ぐ澄んだスープに、ふくよかなワンタン5個と、身の締まったチャーシューをトッピング。ワンタンは調味料を加えたひき肉を丹念にこね、ご主人が手作業でひとつずつ包んでいくため、数も限られています。だから、売り切れ御免の数量限定。いつも13時頃には品切れになってしまいますので、お早めに。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「透き通ったスープは、かつお節や昆布を利かせた繊細な味わいです。ワンタンをすすると、魚介の豊かな香りがふわりと鼻を抜けます。カウンター越しに見える、土田さんご夫妻のテキパキとした仕事ぶりにも注目してください」

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新潟5大ラーメン⑤ 三条カレーラーメン
三条カレーラーメンの特徴
三条カレーラーメンはご当地ラーメンとして認知され始めたのが2010年頃のため、他県への知名度でいうと新潟5大ラーメンのなかではやや印象が薄いですが、その歴史は80年以上と最も古いと言われています。
現在、三条市内の30店以上でカレーラーメンが提供されており、その内容はラーメンの上にカレールーをかけたり、ダシとルーを混ぜてカレースープに仕上げたりと、お店によりさまざま。
80年以上前から愛される、二大国民食のコラボ〈正広〉

70年以上の歴史を持つ〈正広〉はダシとルーを混ぜたカレースープタイプ。ご主人こだわりの約1年間長期熟成させた約20種のスパイスからつくる特製ルーに、昆布やカツオ節、豚骨からとった和風ダシをブレンドして仕上げています。
タマネギ、ニンジン、豚肉とおなじみの具材は食べ応え満点。スパイシーな味わいはもちろんご飯とも好相性で、お店ではカレーライスも人気です。夏季限定で登場する「冷やしカレーラーメン」は油分を取り除いていて、暑い時期にさっぱり食べられると好評。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「昭和初期に銀座の洋食店で修行された方が家業の食堂を継ぎ、そこでラーメンとカレーを組み合わせたのが起源と言われています」

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80年の歴史を持つ、塩味スッキリ系カレーラーメン
〈大黒亭 松屋小路店〉

〈大黒亭〉は三条市内に3店舗あり、松屋小路店は創業者の兄弟がのれんを受け継いたお店。現在は2代目の息子さんと3代目のお孫さんが切り盛りしています。80年以上の歴史を持つ「カレーそば」は、創業者が修業先の洋食店で学んだカレーのルウを、中華そばと合わせてアレンジしたことが誕生のきっかけだそうです。
淡い茶色のスープは鋭い塩味のあとに煮干しの香りがふわりと漂い、欧風のカレーライスのような動物系のコクやおなかにたまるどっしり感はありません。余計な素材を使わず、味つけは塩のみ。さらに和風だしと合わせることで、飽きのこないすっきりとした味わいに仕上げています。創業からの製法を受け継ぎ、地元で愛され続ける一杯をぜひ味わってみてください。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「大きめにカットした玉ねぎは提供直前にカレーに入れて軽く煮込むので、シャキッとした食感です。スープに隠れたチャーシューは豚モモ肉で、ほどよい食感が楽しめますよ」

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5大ラーメンだけじゃない! 注目の新潟ご当地ラーメン
ここまでは新潟県内各地で半世紀以上根づく5つのラーメンを紹介してきましたが、ラーメン王国新潟にはまだまだ知られざるご当地ラーメンが存在します。なかでも片山さんが注目しているふたつのご当地ラーメンを紹介します。
上越妙高豚骨ラーメン:臭みのない濃厚豚骨スープ〈オーモリラーメン〉

新潟県の南西部に位置し、長野県に隣接する妙高市に立つ〈オーモリラーメン〉は創業70年超の老舗。看板メニュー「ラーメン」は豚骨と水のみで仕上げた濃厚なスープが最大の特徴。15時間以上、アクをとりながらじっくり煮込むことで、臭みを抑えた味わいに仕上がるそうです。
現在は、妙高市と隣接する上越市内でこのスタイルのラーメンを提供するお店は10軒ほど。オーモリラーメンは通販も行っていて、足を運ばなくてもお店の味を楽しめます。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「モチモチの太麺は創業当時から自家製で、ほかのお店に麺を卸した際にスープのつくり方を教えたことで、このスタイルが地元で広まりました。地元のスーパーでも麺とスープのセットを販売していて、地元では『ラーメンといえばオーモリ』という人も多いです」
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新潟濃厚マーボーメン:チーズ&背脂たっぷり!〈たまる屋〉

マーボーメンといえば中華料理店でおなじみのメニューですが、その多くはラーメンの上にマーボー豆腐をのせるスタイル。2014年頃から新潟市では、中華料理店とは違うタイプのマーボーメンを提供するお店が増えています。
ブームの火つけ役といわれている〈たまる屋〉では、並盛りで1.5玉分の麺に、500グラム以上のマーボー豆腐がたっぷり! 仕上げに四川サンショウと背脂を豪快に振ったウマ辛な一杯。ご飯との相性も抜群で半ライスを注文してミニマーボー丼を楽しむのもおすすめです。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「豚骨主体のこってりスープの上にとろみの強いマーボー豆腐をのせるお店や、背脂やチーズをたっぷり入れる汁なし系など、スタイルはさまざまですが、共通しているのは、どれも濃厚。新潟濃厚味噌ラーメンを代表に、新潟県では味の濃いラーメンが多いので、それをマーボーメンに応用したことが人気を集めた理由だと思います」
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新潟のご当地ラーメンはどれも個性豊か!
オリジナリティーにあふれる新潟のご当地ラーメンはいずれも、地元のお客さんにラーメンをおいしく食べてもらいたい! という思いから誕生しました。次回は新潟5大ラーメンそれぞれの老舗、人気店などをご紹介していきます。
credit edit:Komachi編集部