「新潟5大ラーメン」とは、「長岡生姜醤油ラーメン」「燕背脂ラーメン」「新潟濃厚味噌ラーメン」「新潟あっさり醤油ラーメン」「三条カレーラーメン」の5つ。今回紹介する「燕背脂ラーメン」は、そのなかでも個性あふれるアレンジで店舗ごとのオリジナリティが強く、全国的に知名度が高いジャンルのラーメンです。
前回の「長岡生姜醤油ラーメン」に続き、新潟Komachi編集部に所属し、15年以上ラーメンを取材し続ける「新潟ラーメン伝道師」の片山貴宏さんが燕背脂ラーメンと、その人気店をご紹介します。
2024年3月情報追加・更新
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燕背脂ラーメンとは
全国的に「燕三条系背脂ラーメン」と呼ばれることもありますが、発祥は燕市。新潟県のほぼ中央に位置し、洋食器の生産で世界的にも有名な「職人のまち」です。
背脂たっぷりのスープとうどんのように太い麺は、戦後の高度成長期に忙しく働く職人たちにおいしい出前のラーメンを届けるため、〈杭州飯店〉が一般的な中華そばを改良したことが起源と言われています。スープが冷めないように表面にびっしり振りかけた背脂がコクを加え、伸びないように太くした麺がモチモチ感を生み、そのスタイルが燕市内で広まったというわけです。
玉ねぎや岩のりなどトッピングにオリジナリティがあり、麺・具・スープすべてに個性が光るスタイルは、そのオマージュ系ラーメンを提供する県外店も多く、知名度は今や全国区です。燕市に隣接する三条市のタクシー会社では、貸し切りで運転手がおすすめするお店を案内する「燕背脂ラーメンタクシー」を運行するなど、ラーメンファンにはたまらないサービスもあります。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「背脂たっぷりの見た目からこってりしていそうな印象ですが、煮干し中心のあっさりダシを使うお店が多く、くどさも思ったほどありません。幅広い層に愛されるバランスの良さが、地元に根づいた理由なんだと思います。麺の量が多いのも特徴で、どれも食べ応え満点です」
味も見た目も唯一無二! 全国にファンの多い元祖店〈杭州飯店〉
50台ある駐車場には県外ナンバーが多く止まり、70席の広い店内は常にお客さんでビッシリ。燕背脂ラーメンの総本山〈杭州飯店〉には、全国からファンが訪れます。店名に「飯店」とつくとおり、中華丼や焼きそば、ギョーザなど幅広いメニューをそろえていますが、ファンのお目当てはやはり「中華そば」です。
スープを覆う背脂は国産豚にこだわり、外側の余分な脂は落とし、中心部分のみを使用しているのでスッキリした甘さが特徴。濃い褐色のスープは樽のまま仕入れた濃口の生じょうゆが味の要。キリッと角の立った塩味と背脂の甘みが見事にマッチします。全国から厳選した煮干しを使ったダシは香りが特徴で、スープを飲み込んだ後にふわっと心地いい香りの余韻を残してくれます。
うどんのような極太麺は毎朝打った麺をその日のうちに使用し、スープに負けない小麦の風味を楽しめます。ゆでる際に冷水を加えるので、麺の外側が締まり、独特のモチモチ感が生まれるそうです。「打ちたてじゃないとこの味は出せません。麺はその日のうちに使い切ります」と3代目主人の徐直幸さん。このこだわりが、半世紀以上ファンを魅了する理由です。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「麺の量は並盛りで約270グラムと一般的なお店の大盛りより大ボリューム。背脂を多めにして、コショウやお酢で味変を楽しむ常連さんもいるとか。一度お試しを!」
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燕背脂ラーメンを全国区に押し上げた立役者〈酒麺亭 潤〉
燕背脂ラーメンの魅力を追求し、東京にも店舗を展開、今や全国区になった背脂ラーメンの立役者的な存在が〈酒麺亭 潤〉です。オーナーの松本潤一さんは、新潟ラーメンの魅力を海外にも伝えるべくドイツに店を構えるなど、熱き郷土愛で発信を続けています。
〈酒麺亭 潤〉の中華そばの特徴は、岩のり。板のりより磯の風味が強く、個性の強いスープにも負けない存在感があります。なかでも、スープが隠れるほど岩のりをトッピングした「岩のり中華」は人気が高いメニューのひとつです。
もうひとつの特徴が、背脂の量。デフォルトの「中油」や、増量した「大油」は燕市のラーメン店ではよく見かけますが、丼の上が真っ白になるほど背脂を振りかけた「鬼油」は〈酒麺亭 潤〉が発祥だとか。背脂好きにはたまらないサービスです。初めての方におすすめなのは、中油。煮干しを利かせたダシと背脂のコクのバランスを楽しんでみてください。
自家製麺は燕背脂ラーメンには珍しい丸麺。背脂がしっかり絡み、太麺ながらのど越しは抜群です。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「背脂を食べ慣れていないお客さんにも親しんでもらえるよう、東京の系列店では、背脂の粒が燕市の本店より細かいのだとか。背脂を振るザルの目をミリ単位で細かくしているという、お客さんにはわからない細部へのこだわりが、県外でも支持される理由です」
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濃厚スープに節系が香る、進化形〈味我駆〉
新潟県の中越地区から新潟市を縦断する国道116号線沿いにある〈味我駆(みがく)〉は2015年オープン。
煮干し中心のあっさりダシに、キレのあるしょうゆを合わせるのが燕背脂ラーメンのスタイルですが、こちらの看板メニュー「背油中華」のダシは、ゲンコツ中心の濃厚テイスト。冷やして味をなじませてから、煮干しやカツオ節、サバ節をたっぷり加えてフレッシュな風味を引き出します。
この動物系のコクと節系の香りはほかに類を見ず、まさに「進化形燕背脂ラーメン」と呼べる一杯です。
合わせるタレは新潟市南区〈扇弥商店〉の天然醸造しょうゆがベース。加温しない生じょうゆのため、香りやコクが強く、こってりしたダシや背脂にも負けない存在感があります。さらに、特製煮干し油をスープに浮かべて、燕背脂ラーメンらしさを演出しています。
「スープがほかとは違うので、麺はスタンダードにしてバランスを取りました」と店主の大倉さんが語るように、地元燕市の製麺所から仕入れる麺は、おなじみの平打ち太麺。加水率が高く食感はモチモチで、独特のウェーブはスープとの絡みも抜群です。伝統を継承しつつ、革新的な側面を持つ一杯。老舗との味の違いをご堪能あれ。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「丼は地元燕市産のメタル丼を使用しています。ステンレス製で保温性が高いため、食べ終わるまでスープの温度が下がりにくく、二重構造になっているので外側は熱くありません。金物産業がさかんな燕市ならではのこだわりにも注目です」
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燕の老舗の流れを汲む新潟市の名店〈滋魂〉
麺が見えないほどスープには背脂がビッシリ。中央に玉ねぎと岩のりを浮かべたビジュアルは、燕背脂ラーメンの王道。国産小麦を贅沢に使った太麺は、やや角の取れた丸い形状でのど越しが抜群で、すするたびに煮干しがフワリと香ります。味わいも燕市で長く親しまれている味わいです。
店主の安東さんは燕背脂ラーメンの名店〈酒麺亭潤 燕総本店〉で店長を務め、地元の新潟市で2010年に独立。「JUN ism」を看板に掲げ、スープにやや動物系のコクを加えて幅広い層に愛されるようアレンジを加えています。
味の要の背脂は「A脂」と呼ばれる、形、味ともに上質なものを使用。さらにボイルした後一度冷すことで、臭みが抜けて甘みが際立ちます。背脂の増量は中油・大油・鬼油まで無料というのも、修業元の〈酒麺亭潤〉と同様です。
中華そばのほかに、濃厚な豚骨ダシと味噌ダレを合わせた「禁断の濃厚味噌らーめん」や、煮干しの旨味を凝縮させたスープがクセになる「超絶煮干そば」など、修業元にはない独自のメニューもそろい、多くの常連に支持されている人気店です。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「燕市の老舗の背脂ラーメンに比べるとスープがややライトな仕上がりです。背脂はやや粒が大きめで、プチプチとした食感を楽しめます。くどさがなく甘みもあるので、背脂増量がオススメ!」
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長年地元で愛されるピリ辛系背脂〈王風珍〉
約50席の広い店内にはカウンター、テーブル、座敷を完備し、平日はトラックドライバーやサラリーマン、休日は家族連れでにぎわう〈王風珍〉。
自家製太麺で提供する背脂醤油ラーメンをメインに、炒め野菜の旨味と熟成赤みそのコクが好相性の味噌ラーメンをはじめ、背脂なしの塩ラーメンやタンメンなど幅広いメニューがそろいます。また、〈王風珍〉のある旧吉田町のソウルフード「鳥肉のレモン和え」もあり、テイクアウトする常連も多いそうです。
店名を冠した「王風麺」は、辛味ネギがついた「赤」と、白髪ネギの「白」の2種類。特に「王風麺(赤)」は食べ進めるなかで煮干しが香るスープに、豆板醤、ニンニク、生姜の辛みや酸味が広がり、一度で二度おいしい仕上がりに。
国産の全粒粉入り自家製麺はコシのある食感が特徴で、シャキシャキの辛ネギとの食感の違いを楽しめます。並盛りでも200グラムとボリューム感があり、厚みのあるやわらかい豚バラチャーシューが3枚ものっていて、この食べ応えが男性人気を集める理由です。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「燕背脂ラーメンの多くは煮干し主体のダシですが、〈王風珍〉は豚と鶏をしっかり利かせているので、ほかとは違うこってりしたコクを味わえます。ネギのシャキシャキ食感がこってりスープをマイルドにしてくれるので、辛みの苦手な方は『王風珍(白)』や『玉ねぎらーめん』をぜひ!」
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地元産メタル丼でこだわりの自家製麺を堪能〈らーめん勝 燕店〉
燕市と見附市に計3店舗を構える〈らーめん勝〉。燕店は新幹線の駅や高速インターからも近く、遠方からのファンも多いお店です。広い店内はカウンター、テーブル、座敷をそろえ、週末はファミリーに人気。
みそラーメンやタンメン、担々麺など幅広いメニューをそろえるなか、一番人気は背脂たっぷりの中華そばで、チャーシューや味玉、岩のりなどのトッピングをすべてのせた「特勝らーめん全部のせ」はコスパが抜群。
麺が見えないほどの具材もさることながら、らーめん勝の特徴は麺。燕背脂ラーメンの麺は寝かせてコシを引き出すお店が多いなか、こちらは毎日打ち立ての麺を使用します。パツッとはじけるような食感が煮干しの香るスープと好相性で、平日ランチ限定の大盛り無料サービスを利用するお客さんも多いです。
また器は地元で製造している「メタル丼」を使用。ステンレスの2層構造になっていて、保温性を保ちながら持っても熱くないという、ラーメン好きにはありがたい逸品です。
メタル丼はお店から車で約3分の〈道の駅 燕三条地場産センター〉で販売されているので、お土産にぜひ。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「プリプリの麺は食べ応え満点で、燕背脂ラーメンならではの生タマネギのみじん切りとの食感のコントラストを楽しめます」
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“鬼”のように煮干しを使った鮮烈な香りのスープが自慢
〈鬼にぼ 吉田店〉
国道116号線沿いに立つ、「燕三条中華そば」と書かれた大きな看板が目印の〈鬼にぼ 吉田店〉。長岡市の〈ラーメンおこじょ〉や〈しょうがの海〉など、ご当地ラーメンに独自のエッセンスを加えたメニューに定評のあるお店と同じ系列で、鬼にぼも他店と同様にオリジナリティあふれるラーメンがそろいます。
そのポイントは、煮干しだけを使ったシンプルなだし。ご主人の佐藤直人さんいわく、煮干しを「鬼」ほど大量に加えて旨みを抽出していて、火を入れる前に水にひと晩浸しているため、苦みやえぐみはなく、ひと口すすると鮮烈な風味が鼻を抜けます。キレのあるしょうゆダレと甘みのある背脂とも好相性です。
合わせる麺は希少な国産小麦を使った自家製の太ストレート麺。燕背脂ラーメンならではの多加水のモチモチ食感が満足感を高めてくれます。
燕背脂ラーメンに欠かせない生タマネギと岩のりに加え、特筆すべきはチャーシュー。厚切りの豚バラをあぶっていて、煮干しの香るスープに香ばしさもプラスされています。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「自慢の太ストレート麺は終日大盛りが無料です。並盛りでもかなり量が多いので、ガッツリ好きの方におすすめ」
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細かい手仕事とみんなにやさしい味づくりが信条〈らーめん しん〉
昔から地元に親しまれている老舗が多いなか、加茂市の〈らーめん しん〉は2013年創業。高校時代から燕背脂ラーメンの名店で腕を磨いたご主人の高坂慎一さんが立ち上げたお店です。
ボリュームたっぷりのみそラーメンや新潟のパイオニアと言える台湾まぜそばなど、多彩な品ぞろえのなかで、一番人気は背脂たっぷりの「中華そば」。こってりと塩味の強いスープが特徴の燕背脂ラーメンにあって、こちらのスープは塩味を抑えたやさしい味わい。
使用する煮干しは苦みの出やすい頭とはらわたを丁寧に取り除いてから仕込むというこだわりで、卓上にはラーメンのタレやニンニク、コショウを並べ、お客さんが自分好みに味を調整するスタイルです。
大油や中油など量を選べる背脂は上質なものだけを厳選して仕入れているので、甘みとコクがあり、やさしいスープと相まってその存在感が際立ちます。
そのほかにも、おろしショウガが無料といううれしいサービスもあり、燕背脂ラーメンと長岡生姜醤油ラーメンが1杯でコラボできるのも、このお店ならではです。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「やさしいのは味わいだけでなく、学生は終日麺大盛り無料や元日を除いて無休、お持ち帰り容器無料など、うれしいサービスも豊富です」
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長岡生姜醤油ラーメンとの異色コラボ〈らーめんみずさわ 吉田店〉
〈らーめんみずさわ〉は長岡に本店を構え、燕市と三条市のほかに埼玉県さいたま市にも展開している老舗。燕市の吉田店は分家にあたり、本店にはない独自のメニューを多数展開しています。
看板メニューは長岡市に根づく生姜醤油ラーメンですが、吉田店で二枚看板といわれているのが「燕ホワイト」です。スープを覆い尽くす背脂に生タマネギなどの具材やモチモチの太麺など、構成は王道の燕背脂ラーメンながら、スープがかなり個性的です。
コクのある背脂との相性を考慮して煮干し中心のあっさりだしを使うお店が多いなか、「燕ホワイト」のベースは豚のゲンコツ(大たい骨)。そこに煮干しの風味をプラスするので、味わいはかなりこってり。
長岡市出身のオーナー高野一徳さんが「燕背脂ラーメンを長岡市民にも親しんでほしい!」という思いでアレンジしたのがきっかけで、長岡生姜醤油ラーメンのだしはゲンコツがベースのため、そこに燕背脂ラーメンらしさを加えたのだそうです。
豚の旨みの詰まったスープに浮かぶ、大量の豚の背脂。この背徳感も相まって、長岡市民はもちろん本場の燕市民にもファンの多い一杯です。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「スープもさることながら、縮れ麺を使っているのも他店にはない珍しいポイントです。独特のウェーブが背脂をしっかり絡め取ってくれます」
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地元三条市産小麦の風味を心ゆくまで楽しめる
〈日の出製麺 三条工場〉
店名に「製麺」とあるとおり、〈日の出製麺 三条工場〉はとことん麺にこだわったお店です。
2021年のフルリニューアルを契機にそのコンセプトはさらに進化し、麺に使用する小麦は希少な地元三条市産〈ゆきちから〉を使用。燕背脂ラーメンならではの多加水で、打ったあと2日間しっかり寝かせているため、歯を受け止めるような、どっしりとしたコシが特徴です。
合わせるスープは煮干しととんこつのWスープ。煮干しだしは丁寧な下処理と温度管理により、雑味のない豊かな風味が生まれ、とんこつの清湯でコクをフォロー。チャーシューの煮汁を使ったしょうゆダレや大粒の背脂も加わり、かなりこってりした味わいですが、麺をすすると豊かな小麦の香りもしっかり感じられるバランスが絶妙です。
脂身と肉のバランスがいい豚バラ肉を使ったチャーシューや、シャキシャキの生タマネギなど、燕背脂ラーメンらしさもしっかり表現しています。
こちらでは麺類に半チャーハンを付けたセット「ラーチャン」もあり、ガッツリ食べたい人にオススメです。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「こだわりは麺だけでなく、最近のイチ押しはチャーハン。あっさりした味つけのチャーハンに背脂たっぷりの濃い味ラーメンがよく合います」
Information
麺・具・スープのそれぞれに個性が光る燕背脂ラーメンは、お店によりこだわりもさまざまです。ものづくりのまちで職人の胃袋を長年支えてきた地域の味、ぜひ味わってみてください。
長岡生姜醤油ラーメン:体を芯から温める一杯
燕背脂ラーメン:全国的知名度が上昇中!
新潟濃厚味噌ラーメン:濃厚スープが最大の特徴
新潟あっさり醤油ラーメン:屋台発祥の極細麺
三条カレーラーメン:お店の個性が際立つカレースープ
credit edit:Komachi編集部