「うどん県」といえば香川県、「そば県」といえば長野県。では、「ラーメン県」は……? 日本全国にはさまざまなユニークなご当地ラーメンがありますが、2022年に総務省が発表した2021年家計調査で、新潟市が「中華そばにかけた外食費」で全国1位を獲得しました。「新潟5大ラーメン」をはじめ、新潟はいまや全国に誇れる「ラーメン県」といってもいいのではないでしょうか。
今回紹介するのは、新潟5大ラーメンのひとつ、「新潟あっさり醤油ラーメン」。15年以上ラーメンを取材し続ける「新潟ラーメン伝道師」の片山貴宏さんが新潟あっさり醤油ラーメンと、その人気店をご紹介します。
Index この記事の目次
新潟あっさり醤油ラーメンとは
「新潟あっさり醤油ラーメン」発祥のお店は定かではありませんが、そのルーツは新潟市の「新潟島」と呼ばれるエリアです。越後平野を流れる信濃川と日本海の間に島のように浮かんでいることからその名がついたと言われ、北前船の寄港地として、また開港五港都市のひとつとして繁栄した歴史を物語るまち並みや建物が数多く残るエリアです。
新潟あっさり醤油ラーメンの特徴①
発祥は新潟島の屋台のラーメン
新潟島には、昭和50年頃までお堀が張り巡らされていて(今でも、東堀や西堀といった地名も残っています)、その堀沿いに屋台が立ち並んでいました。そこで誕生したのが、「新潟あっさり醤油ラーメン」だと言われています。
新潟あっさり醤油ラーメンの特徴②
透き通ったしょうゆベースのスープ
味の特徴は、透き通ったしょうゆベースのスープ。お店と違い、屋台では十分な火力を得られず、仕込みの時間も多くはかけられません。そのため短時間で仕上がる淡麗ダシが生まれました。
新潟あっさり醤油ラーメンの特徴③
すぐにゆであがる極細麺
屋台では席数も限られているので、すぐにゆであがる極細麺を使うお店が多かったそうです。お堀が埋め立てられ、屋台の多くはお店を構えるようになりましたが、提供するラーメンは当時のままです。
新潟島には「古町」という繁華街があり、あっさりスープとスルスルと食べられる極細麺は、古町で飲んだあとの締めの一杯としても親しまれています。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「新潟あっさり醤油ラーメンを提供するお店の多くは2代、3代続く老舗。ラーメンだけでなく建物もノスタルジックで、繁華街とともに紡いだ歴史を感じさせます」
新潟あっさり醤油ラーメン①
変わらぬ味を貫く、古町を代表する老舗〈三吉屋〉

JR新潟駅から国指定重要文化財の「萬代橋」を渡って、そこからさらに徒歩約5分。高層ビル〈NEXT21〉のすぐ近くに立つのが昭和32年創業の〈三吉屋(さんきちや) 西堀本店〉です。創業当時はカウンター4席しかない小さなお店で、今と同じ中華そばを提供していたそうです。昭和39年に今の場所にお店を構えてから約60年。現在は2代目店主が創業当時の味を守り続けています。
ラーメンはもちろん、店内も当時から変わっておらず、昔ながらのレジスターやカラフルな食券がいまだに使われていて、それらを写真に収めるファンも多いそうです。

「中華そば」の透き通ったアメ色スープは豚骨がベース。チャーシューを煮込んだしょうゆダレをラーメンにも使っているので、豚の旨みがしっかり染み出していて、見た目以上にコクがあります。季節に応じてスープの油の量を変えるという細やかな心配りが、いつ食べても同じ味を提供し続けられる理由です。

〈三吉屋〉は西堀本店のほかにも2店舗あり、いずれも2代目店主の兄弟が切り盛りしています。看板メニューはもちろん「中華そば」。厨房設備の違いやつくり方で味も少し違うので、ぜひ食べ比べてみてください。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「製麺業者に特注しているという極細麺は、製麺機でつくられる限界の細さというだけあり、まるでそうめんのよう。縮れがスープをしっかり絡め取ってくれるので、物足りなさは感じません。夏季はこの麺を使った冷やし中華も人気メニューです」
Information
新潟あっさり醤油ラーメン②
おしどり夫婦がつくるやさしい味わい〈元祖支那そば 信吉屋〉

新潟島にある本町通は食料品を扱うお店が多く、古くから「新潟の台所」として親しまれてきました。そのなかでも、本町通りから1本入った新津屋小路沿いには「人情横丁」と呼ばれるエリアがあります。浜焼き店や乾物店のほか、雑貨店、台湾茶のお店など、個性豊かなお店が30軒以上並び、散策するだけでも楽しいエリアです。そんな場所に位置するのが、常にお客さんでにぎわっている〈信吉屋〉です。

人情横丁でのれんを掲げて30年以上。お店を切り盛りする土田さんご夫妻がつくる「支那そば」は、子どもからお年寄りまで、幅広い世代のファンから慕われています。なかでも特に常連客の胃袋をつかんで離さないのが、「ワンタンメン」です。


ゆるく縮れた極細麺が泳ぐ澄んだスープに、ふくよかなワンタンが5個、身の締まったチャーシューをトッピング。ワンタンは調味料を加えたひき肉を丹念にこね、店主が手作業でひとつずつ包んでいくため、数も限られています。だから、売り切れ御免の数量限定。いつも13時頃には品切れになってしまいますので、お早めに。
新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「透き通ったスープは、かつお節や昆布を利かせた繊細な味わいです。ワンタンをすすると、魚介の豊かな香りがふわりと鼻を抜けます。カウンター越しに見える、土田さんご夫妻のテキパキとした仕事ぶりにも注目してください」
Information
新潟あっさり醤油ラーメン③
香りとコクを両立した絶品Wスープ〈麺や 来味〉

新潟市東区は人気ラーメン店がひしめく激戦区。そのなかにあって常連から高い支持を得ているのが〈麺や 来味(らいみ)〉です。15年以上前から全国誌に取り上げられ始め、埼玉県のラーメンテーマパークに出店するなど、「新潟ラーメン」の名を早くから世に広める先駆者としても知られています。メニューはこってりからあっさり、つけ麺や二郎系など幅広く、定期的に登場する季節限定麺にもファンが多いです。
あっさり好きに好評の「中華そば」は、ご主人が昔から親しんでいた「新潟あっさり醤油ラーメン」をイメージして開発したメニュー。やや茶色がかったスープは、豚骨や鶏ガラから取る動物系ダシと、煮干しのみから取るダシを提供直前に手鍋で合わせるため、香りがフレッシュ。
さらに、鶏油を少し加えてコクをプラスしています。タレに使用するしょうゆは、新潟県産の〈郷土の実り〉。独特の甘みがあり、豊かな香りが特徴で、やさしい淡麗系ダシにキリッとした塩味を加えます。


懐かしさを感じてほしいと、チャーシューはほかのラーメンとは違うバラ肉のロールチャーシューを使用。甘みのある豚肉の旨みがスープにさらなる滋味を加えてくれます。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「こだわりしょうゆのキレと煮干しダシの香りとのバランスが絶妙の一杯です。自家製麺は食材の独自配合により伸びにくい仕上がりで、細麺ながらコシもあります。大盛り無料です!」
Information
新潟あっさり醤油ラーメン④
新潟屋台ラーメンの現存最古の店〈蓬来軒〉

〈蓬来軒〉の創業は昭和31年。新潟市を代表するホテルの老舗〈イタリア軒〉の小路奥で開いた屋台が発祥で、屋台出身の現存する最古の店としても知られています。席の少ない屋台で素早くラーメンを提供するために工夫を重ね、初代店主が確立した黄金色の透明スープと、極細麺というスタイルは好評を博し、1日で200杯も出るほどの人気ぶりだったとか。その味は初代の孫にあたる3代目が受け継いでいます。


ひと口すするとほどよい塩味の後に、豊かな香りがじんわり広がるスープは、先代の味がベース。豚骨や煮干しをはじめ、焼きアゴ、野菜、シイタケなど豊富な食材を使用していて、特に昆布はひと晩水につけてダシを取るなど、素材の良さをより引き出せるよう、独自の工夫を凝らしています。
トッピングは、肉厚なチャーシューとネギ、メンマとシンプルで、新潟あっさり醤油ラーメンの特徴の細麺は、縮れのないストレート。スープの風味をより味わうため、ぜひ勢いよくすすってください。
今も残る屋台の味は、おなかも心も満たしてくれます。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「麺類以外のメニューも豊富で、特にチャーハンは人気です。パラパラのご飯にやや濃いめの味つけなので、ラーメンのあっさりスープとも相性抜群ですよ」
Information
新潟あっさり醤油ラーメン⑤
透き通ったあっさりスープとちょい太麺〈おもだかや 女池店〉

平日のお昼時。〈おもだかや 女池店〉の横に長く伸びたカウンターはいつもお客さんで満席で、座っているのはほとんどがサラリーマン。店員が熟練の手さばきで素早く仕上げたラーメンを客はズズッと勢いよくすすり、長居はせずに会計を済ませてサッと帰る。このお客さんとスタッフのあうんの呼吸で、常ににぎわう店内ですが、待ち時間はそこまで長くありません。この回転の早さが〈おもだかや 女池店〉が愛される理由のひとつです。

お店は創業40年以上。新潟市内に3店舗あり、女池店は北陸自動車道の新潟中央インターを下りてすぐという立地もあり、ドライバーや出張のサラリーマンに人気です。
茶色い丼のためスープはやや濁って見えますが、白いレンゲですくうと透き通っていることがわかります。口当たりのやさしいクリアな味わいは、豚骨や魚介から丁寧にダシを取った後、余分な脂をしっかり取り除いています。このあっさりした味わいが、創業から足しげく通うファンがいる理由です。

やわらかいチャーシューやメンマなどおなじみの具に加えて、〈おもだかや〉ならではのトッピングが茎ワカメ。メンマとは違うコリコリした食感がクセになり、茎ワカメを増量した「わかめそば」も長年の人気メニューです。

新潟ラーメン伝道師・片山貴宏さんのコメント
「新潟あっさり醤油ラーメンのなかでは麺はやや太めで、動物系のコクのあるスープとのバランスはバッチリです。ボリューム感がほしい人は、肉の旨みのつまったワンタンたっぷりの『わんたんめん』をぜひ」
Information
新潟島の屋台から生まれた「新潟あっさり醤油ラーメン」は、新潟市内にも広まり、幅広い層に親しまれています。ノスタルジックな味はもちろん、味のある雰囲気のお店が多いのも、屋台のラーメンがルーツにあるからなのかもしれません。
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credit edit:Komachi編集部