秋から冬へ向かうこの時期は、新潟の畑からも新そばの便りが届く頃。夏の土用のあとに種をまき、霜が降りる直前に収穫する、いわゆる「秋新」とよばれる新そばが、11月中旬頃から多くのお店でお目見えし、各地で新そばを味わうイベントも開催されています。
新潟のそばといえば、思い浮かべる人も多いのが、ほんのり緑色でつややかな色合いが特徴のご当地名物「へぎそば」。地元の人々に古くから愛されてきたへぎそばはもちろん、辛汁につけて粋にたぐりたい江戸前そばや、手打ちのダイナミックさが魅力の田舎そば……。実はここ新潟には、多種多様なそばの文化が根づいています。
ただお腹を満たすだけではなく、新潟ならではの日本酒と一緒にそばをたしなんだり、つくり手の思いやこだわり、お店の歴史を紐解いてみたりするのもそばを味わう醍醐味です。新そばを求めて、新潟をめぐる旅へ出かけてみませんか?
やっぱり押さえておきたいご当地そば「へぎそば」の名店へ
【 Soba 1 】
歴史ある老舗そば処で味わう伝統のへぎそば〈わたや〉
小千谷市、十日町市周辺は、小千谷縮や十日町絣などに代表される織物の産地。その織物の工程で使われていた「ふのり」をそばのつなぎとして使うようになったのが、へぎそばの始まりと言われています。
平成天皇が皇太子の時代に来店したこともあるというこちらの老舗は、そんなこの地域独特のへぎそばを代々受け継ぎ、全国区にしたお店ともいわれる地元の名店。キレのいいつゆで食べるのど越し命のへぎそばは、そのつるりとした食感のとりこになること間違いなしです。
また、そばの薬味としてきんぴらをつけたのはここが最初だとか。その取り合わせの妙を、名物の「きんぴら大名」で味わってみるのもおすすめです。
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【 Soba 2 】
地元でとれたそばを地元で味わう〈とみざわ〉
ソバは自家栽培したものと、その種を渡して農家に栽培してもらう津南産、隣接する栄村(長野県)を使用。「地元でとれたものを、地元で食べるのが一番おいしい」という3代目ご主人、富澤亮介さんのポリシーによるものです。自家製粉してふのりとオヤマボクチ(山ごぼう)を少し加えたそばは程よい弾力があり、噛むたび口の中に豊かな風味が広がります。
つなぎのふのりとオヤマボクチの配合はとても繊細で、絶妙なバランスを生み出すのはまさしく熟練の技。ご主人が1日に手打ちできる量は決まっているため、品切れになることもあります。確実に食べたいなら、早めの時間を狙って訪れるのがいいでしょう。
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【 Soba 3 】
白くつややかな、ふのり入りの二八そば〈そばや清兵衛〉
そば粉は十日町産の〈とよむすめ〉の中心部のみを使用。ふのりでつなぐいわゆるへぎそばですが、白くつややかな表情がほかの店とはちょっと違います。
その秘密は石臼。店舗裏にある小屋で店主の小海誠さんが自家製粉していますが、石臼は先代から100年以上使っている年代物。石が摩耗して軽くなったことできめ細かな粉ができ、独特の色つやが生まれるのだそうです。
中心部の粉のみを使ったそばは、香り、のど越し、コシと三拍子そろった仕上がりが絶妙。テーブルに置かれた薬味用のクルミをすりつぶしながらいただけば、香ばしさが加わりひと味違った味わいになります。
一見お店には見えない隠れ家的な雰囲気も味わい深い、十日町の隠れた名店です。
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